注目を集めるナタリー・ハープ氏(Getty Images)

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 トランプ米大統領の「最側近」として突如メディアに登場し、注目を集めている大統領特別補佐官兼大統領エグゼクティブ・アシスタントのナタリー・ハープ氏(35)。一体、何者なのか。その実態を掘り下げると、国際情勢を揺るがしかねない"危うさ"を抱えていることが見えてきた。国際ジャーナリストの山田敏弘氏がレポートする。

【写真】タイトな紺のワンピースでトランプ大統領に書類を渡すナタリー・ハープ氏

骨のがんからの劇的な回復が大統領の目に留まった

 本来は日程管理などを担う実務職に近い任務のはずのハープ氏は、大統領執務室や専用機内など、トランプ氏の行くところには常に傍らに控えており、その存在自体が政権内外で大きな関心の的となっている。

 ハープ氏が一躍世界的な注目を浴びたきっかけは、今年7月に起きたトルコでの出来事だった。NATO首脳会議からの帰路に、イランによる暗殺の脅威情報を受けたシークレットサービスが、トランプ大統領を密かに別の航空機に搭乗させた。その際に同行を許された数人の側近のうちの一人がハープ氏だった。一方で、マルコ・ルビオ国務長官ら閣僚と報道陣は当初の予定機に残された。

 この経緯が明らかになると、政権内外で「職務内容が不明確な若い側近が、なぜ閣僚より優先されたのか」という疑問を呼ぶことになった。

 騒動を決定的に広げたのは、民主党のジョン・オソフ上院議員による発言だ。オソフ氏は8月16日、選挙集会で「トランプ大統領はカタール首長から贈られた見た目にも無防備な空飛ぶ宮殿(エアフォースワン)でナタリーと旅行したいだけだ」とトランプ氏を批判した。

 そもそもハープ氏とは何者なのか。彼女がトランプ氏に傾倒した背景には、劇的な闘病経験がある。カリフォルニア出身で保守的なキリスト教家庭に育ち、2015年にリバティ大学でMBAを取得。その後ステージ2の骨のがんと診断され、標準的な化学療法が効かず、臨床試験からも除外されたと語っている。

 そうした体験がトランプ氏に傾倒するきっかけとなった。2018年5月にトランプ氏が署名した「ライト・トゥ・トライ法」(終末期患者に対し、FDA未承認の治療薬へのアクセスを認める法律)のおかげで実験的治療を受けられ、命が助かったと、ハープ氏は保守メディアで語っている。それが全国的な注目を浴び、大統領本人の目にも留まったと言われているのだ。

重要な実務はトランプ氏のSNS投稿

 その後、彼女は2020年のトランプ再選陣営の顧問委員会に加わり、同年8月の共和党全国大会(RNC)で自身の体験を語るスピーチを行なっている。2020年からは右派系テレビでキャスターを務め、番組ではトランプ氏が主張し続けている「2020年大統領選は、郵便投票などに大規模な組織的不正があった」という虚偽の主張を擁護し続けた。そしてトランプ氏が大統領選で再選を目指して始動した2022年に陣営のスタッフとして加わり、2025年1月の政権発足時には、現在の肩書きが与えられた。

 ハープ氏の働きぶりは、極めて献身的だ。彼女は週末も休みを取らず、執務室を拠点に働く。大統領専用ヘリ「マリーン・ワン」にも定席を持ち、大統領に代わって外国首脳とテキストを交わし、深夜までトランプ氏のSNS投稿に付き合う。会議だけでなく、国家の危機管理や軍事作戦の監視・指揮を行なう最高機密の司令施設・シチュエーションルームでもトランプ氏と同席するほど近くにいる。年俸は15万ドル(約2400万円)だという。

 なかでも、彼女の重要な実務がトランプ氏のSNS投稿だ。ハープ氏は、アカウントに直接アクセスできる数少ない側近の一人で、トランプ氏が口述した内容をその言葉のテンポや句読点のまま打ち込んだ下書きの書類を印刷してどこにでも持ち込み、トランプ氏から承認を得るというスタイルで動いている。

 そんな様子から、彼女には「人間プリンター」という異名まで付いているという。紙の資料を好むトランプ氏のために携帯プリンターとバッテリーを持ち歩き、好意的な記事やSNS投稿をその場で印刷して手渡す。ゴルフ場でも、ノートPCとプリンターを積んだゴルフカートで同行する徹底ぶりだ。

 ハープ氏の忠誠心が今回注目されたもう一つの理由は、彼女がトランプ氏のために綴った手紙の存在が再びフィーチャーされたからだ。2023年に彼女がトランプ氏へ送った一連の手紙には「あなただけが私にとって重要です」といった表現や、トランプ氏を「人生における守護者」と呼ぶ記述があったと話題になった。

 トランプ氏も「彼女は妻子と同じくらい自分を愛してくれる唯一の側近だ」と周囲に語っている。

大統領に届く情報の偏りについて懸念も

 彼女が事実上のトランプ氏の最側近として振る舞うことには、政権内部から懸念が寄せられている。それは大統領に届く情報の偏りだ。印刷物やSNS投稿の選別を通じて彼女が「大統領が受け取る情報を左右する過大な力」を持っており、政権当局者は、ハープ氏が極右系グループから出た誤解を招く内容の資料を大統領に見せていると内々に不満を述べていると漏れ伝わっている。

 しかし、一番大きな問題は、ハープ氏の存在が国際情勢にも影響を及ぼし始めていることだ。公式ルートで大統領に接触できない外国首脳がハープ氏にテキストメッセージを送るようになっているという。トランプ氏に非公式でもアクセスしやすいからだ。ハープ氏の携帯電話番号は「トランプ氏本人の番号より価値がある」という声もある。

 安全保障や外交、貿易といった重要な国家の決定において、正規の外交ルートや専門機関を介さず、非公式のロビイストや極端な人物がハープ氏を通じて大統領に影響を及ぼし得る点は、同盟国を含む国際社会全体に不確実性とリスクをもたらす危険性を秘めている。

 さらに深刻なのは、ハープ氏がホワイトハウスで1年以上にわたり通常のセキュリティ・クリアランス(機密取扱資格)なしに勤務していたことだ。つまり、機密情報にアクセスする権利のない人物が米政府の情報に触れ、外国首脳との連絡や交渉などに関与していたとすれば、重大なリスク要因となる。結局、大統領自身の介入を経てようやくセキュリティ・クリアランスのための身元調査を受けたという。

 彼女の強い忠誠心はトランプ氏にとって精神的な支えとなっている一方、指揮系統の外側で動く情報の門番という立場は、ホワイトハウスのガバナンスや対外政策に予期せぬ揺らぎをもたらしかねない。今後の政権運営と国際情勢への影響は継続的に注視する必要がある。

【プロフィール】
山田敏弘(やまだ・としひろ)/1974年、滋賀県生まれ。国際ジャーナリスト。1999年ネバダ大学ジャーナリズム学部卒業。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版編集記者などを経て、米マサチューセッツ工科大学で国際情勢やサイバーセキュリティ、インテリジェンスの研究・取材活動にあたった。帰国後はジャーナリストとして活躍。著書に『CIAスパイ養成官:キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』(講談社)など。

※週刊ポスト2026年9月18日号