中国・習近平政権がいま築き上げている「日本包囲網」の真実 戦勝国の論理を振りかざして…

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9月3日を強調する中国

1945年9月2日、東京湾に浮かぶアメリカの戦艦ミズーリ号の甲板で、日本は降伏文書に署名した。日本側の署名者は、重光葵(しげみつ・まもる)外務大臣と、梅津美治郎(うめづ・よしじろう)参謀総長である。

一方の「戦勝国」(連合国)側は、計9カ国の代表が署名した。アメリカ、中華民国(台湾)、イギリス、ソ連(現ロシア)、オーストラリア、カナダ、フランス、オランダ、ニュージーランドの各代表たちだ。

中華人民共和国(中国)は、1949年に建国したため、署名には加わっていない。だが中国では、この署名式が行われた翌3日を、中国人民抗日戦争勝利記念日に指定している。

かつ習近平主席は、自らの政権を発足させて間もない2014年2月27日、わざわざ全国人民代表大会常務委員会(国会)で、この日を国の「勝利記念日」にすることを確定させている。つまり毎年この日に、全国津々浦々で「記念イベント」を行うようにということだ。

実際、昨年の9月3日には、「中国人民抗日戦争勝利80周年」と銘打って、北京の天亜門広場で大々的に軍事パレードを敢行した。習近平主席、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が揃い踏みとなったことで、世界の耳目を集めたのは、まだ記憶に新しい。

標高4000mの「抗日精神」

今年の9月3日、習近平主席は、後述するエジプト国賓訪問から帰国した日だったので、一連の活動には参加していない。派手な軍事パレードも行わなかった。

代わりに北京では、李書磊(り・しょらい)党中央宣伝部長が主催して、記念の座談会を開いた。かつ全国で81周年のイベントが開かれた。

CCTV(中国中央広播電視総台)のニュースを見ていたら、アナウンサーが厳粛な表情で、新疆(しんきょう)ウイグル自治区でのイベントまで伝えていた。

「標高4000mを超えるカラコルム高原でも、新疆軍区のある部隊は、革命教育の授業を雪山の頂上で実施しました。将兵たちは厳粛に宣誓を行い、国境防衛への信念を固め、忠誠心と責任感に満ちた気概を鍛え上げたのです。また、将兵たちは全軍で最も標高の高いカンシワ烈士陵園を訪れ、厳粛な追悼の儀式の中で、英烈に敬意を表し、初心を新たに固めました……」

そんな高地で走ったり、「抗日の精神」を叫んだりして、高山病にかからないのかと思ってしまう。だが軍人にとっては、標高4000mで「抗日の精神」を叫ぶことも「仕事の一環」なのだ。

2日連続吠えた戦狼外交官

中国外交部は相変わらず日々、日本批判を続けているが、9月2日と3日の定例会見では、ひときわ声を荒らげた。この両日の郭嘉昆(かく・かこん)報道官の発言要旨は、以下の通りだった。

(9月2日)「1945年9月2日、日本政府は正式に降伏文書に署名し、『ポツダム宣言』の全条項を受け入れた。これにより、日本の軍国主義が侵略戦争を仕掛けたということが確認された。この歴史的な結論は改竄(かいざん)を許さず、戦後の国際秩序はなおさら挑戦を許さない。

今日、日本の政権当局は、歴史的責任について言及を避けるばかりか、第二次世界大戦のA級戦犯を崇拝し、侵略犯罪を歪曲・美化し、『再軍事化』を加速させ、平和憲法の改正を図り、ほぼすべての近隣諸国と関係を悪化させ、他国の内政に公然と干渉し、さらには武力による威嚇さえ行っている。日本の『新型軍国主義』という『灰色のサイ』が猛スピードで迫ってきており、アジア太平洋地域の平和と安定に再び脅威をもたらしている。こうした背景において、『国連憲章』を全面的に遵守し、「敵国条項」を再確認することは極めて必要である。

われわれは、日本当局に対し、『降伏文書』で確認された国際的義務を確実に遵守し、歴史を直視し、歴史を教訓として、軍国主義と徹底的に決別し、具体的な行動をもってアジアの近隣諸国および国際社会の信頼を得るよう強く求める」

(9月3日)「『中国人民抗日戦争勝利記念日』が制定されたのは、日本軍国主義の侵略が中国人民および世界の人々に与えた甚大な惨禍を深く銘記し、世界の人々に歴史を忘れることなく警戒を促し、第二次世界大戦の勝利の成果と戦後の国際秩序を断固として守り抜くことを目的としている。

長年にわたり、日本の右翼勢力は侵略の歴史を覆(くつがえ)そうとし、戦後の国際的取り決めや国際的義務から逃れようとしてきた。強調すべきは、『カイロ宣言』『ポツダム宣言』、及び『降伏文書』といった一連の国際的な文書が、法的に日本の敗戦国としての地位を確立し、軍国主義の根絶、軍事産業の廃止、戦争能力の破壊、再軍備の禁止といった敗戦国の義務を明確に規定していることである。

これらの戦後の国際的取り決めは、歴史の真実と国際的正義を貫くものであり、軍国主義の再燃を防ぐために築かれた制度的な防衛線であり、さらには世界反ファシズム勝利の成果を確固たるものとするものである。

われわれは日本の右翼勢力に対し、日本が国際的義務を厳守し、軍国主義の残滓を徹底的に清算し、平和的発展を堅持することこそが正道であると警告する。中国は、世界中の平和を愛する国々と共に、日本の『新型軍国主義』が『国家を正常化させる』という衣(ころも)をまとって勢力を拡大し、地域を混乱させ、世界に害を及ぼすことを断固として阻止していく」

日本は「灰色のサイ」なのか

9月2日の発言にある「灰色のサイ」(グレー・リノ)とは、金融用語で「起こる確率が高く大きな問題になると分かっていながら、軽視されて見過ごされがちな重大リスク」を指す。日本はサイだと言うのだ。

何ともおどろおどろしい先週の二日連続の発言だったが、要は「戦勝国の論理」を振りかざしているのである。冒頭に記した9ヵ国が戦勝国で、日本は敗戦国。これが第二次世界大戦後の国際秩序であり、いま日本は「戦後の国際秩序」に挑戦するとんでもない行為を行おうとしているいう論理だ。

日本からすると、まるで荒唐無稽(こうとうむけい)に映る。だが習近平主席は、大マジメにこのように考えていると思われる。それは、政権発足時から方向性が一貫しているからだ。

2013年3月に習近平政権が発足した時も、日本の安倍晋三政権との関係は緊張関係にあった。

習政権は、同年9月5日、6日にロシアのサンクトペテルブルクで開かれたG20(主要国・地域)サミットを勝負どころと捉えた。主催国のロシアも9月3日を「第二次世界大戦勝利の日」に定めていたため、「戦勝国」のロシアやアメリカを巻き込んで、一気に日本包囲網を築こうとしたのだ。

ところが、習近平政権の目論見は「不発」に終わった。直前の8月21日、アメリカのバラク・オバマ大統領が「(シリアの)アサド政権が(反体制派に対して)化学兵器を使用した証拠を掴んだ」として、「シリアを空爆する」と発表したからだ。

これによって、G20はシリア問題一色となった。アサド政権の後ろ盾はロシアであることから、アメリカとロシアの緊張感が増した。そんな中で、中国が持ち出した歴史問題など、誰も関心がなかった。

それでも習近平主席は、同年10月7日、8日にインドネシアで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で、再び日本の歴史問題を掲げた。だがこちらも「不発」に終わった。

この時、アジアが共鳴したのは、習主席が掲げたもう一つの外交政策だった。それは「一帯一路」である。中国とヨーロッパを陸路と海路で結ぶ広域経済圏構想だ。

以後、中国は矛(ほこ)を収めざるを得なくなった。どの国も「20世紀半ばの話」より、「いまの喫緊の問題」の方がはるかに大事だからだ。

だが、2026年になって、「世界の空気」は変わった。最も変わったのは、アメリカである。

ドナルド・トランプ大統領は、周知のように、過去100年のアメリカ外交の大転換を図っている。

トランプが変えた世界

最大の転換点は、アメリカ外交の軸足を、「価値観を共にする同盟国か、共にしない非同盟国(対立国)か」という観点から、「アメリカの利益になるかならないか」という観点に移したことだ。それによって、アメリカから見て、いま世界で主に二つの「激変」が起こっている。

一つは、「価値観を共にする同盟国」との対立・軋轢(あつれき)である。トランプ政権は同盟国に対しても、遠慮なく高関税をかけたりする。

そもそも「価値観を共にする」という自覚すらない。だからNATO(北大西洋条約機構)や米韓軍事同盟などにも懐疑的である。もしかしたら本心では、日米軍事同盟にも同様かもしれない。

そのため、EU諸国、イギリス、カナダ、オーストラリア、韓国などとの関係がギクシャクしている。日本は高市早苗政権が、他国では考えられないほど卑屈(ひくつ)な態度を取り続けることで、かろうじて「良好な関係」を保っているが、それがどこまで続くかは不明だ。

もう一つは、「価値観を共にしない国」との関係改善である。トランプ大統領は、最も価値観を共有しないと思われる北朝鮮の独裁者・金正恩委員長とさえ、1期目の時に3度も会談し、いままたラブコールを送っている。先月は、金委員長に気を遣って米韓合同軍事演習を途中で打ち切ってしまった。

ウクライナ戦争を起こしたプーチン大統領とも、何度も首脳会談を重ね、意気投合している。昨夏には、アメリカに招待したほどだ。

こうした態度は、中国の習近平主席に対しても同様だ。トランプ大統領は公の場で、もしくは日々つぶやいているSNSで、習近平主席の悪口を一度も言ったことがない。逆に何十回となく誉め称えている。

そして、今年5月13日から15日に北京を訪問。今月24日には、習主席を国賓としてホワイトハウスに招いて、米中首脳会談を行う予定だ。その後、11月18日、19日には中国の深圳(しんせん)でAPEC(アジア太平洋経済協力機構)首脳会議があり、12月14日、15日には米マイアミでG20主要会議があるので、今年は計4回も会談するかもしれない。

こうした「追い風」を背に、習近平主席が再び、持論である「戦勝国の論理」を持ち出してきているのである。換言すれば、日本を非難するだけでなく、世界を巻き込んで「日本包囲網」を敷こうとしているのだ。

「仲間作り」に励む中国

日本はかつて安倍政権の頃、いろんな形で「中国包囲網」を敷こうとした。2006年の「自由と繁栄の弧」に始まり、TPP(アジア太平洋パートナーシップ)協定、FOIP(自由で開かれたインド太平洋)、QUAD(日米豪印)などだ。

ところがいまや、中国の方が「人類運命共同体」の名のもとに、日本包囲網を敷こうとしているのである。「人類運命共同体」も習近平政権の外交スローガンだが、いまは「(敵対する)日本とフィリピンを除く」となっている。そしてその支柱にしているのが、「戦勝国の論理」なのだ。

そのため、このところ習近平主席は、積極的な外交を展開している。8月30日から9月3日まで、キルギスとエジプトを訪問した。前者は中央アジアを、後者は中東を「制する」目的だ。

8月31日と9月1日にキルギスの首都ビシケクで行われた上海協力機構(SCO)首脳会議には、習近平主席を除くと、次の18人の首脳が参加した。

1. 1. ロシアのプーチン大統領、➁インドのナレンドラ・モディ首相、③イランのマスード・ペジェシュキアン大統領、④キルギスのサディル・ザハロフ大統領、⑤カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領、⑥ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領、⑦パキスタンのシャバーズ・シャリフ首相、⑧タジキスタンのエモマリ・ラフモン大統領、⑨ウズベキスタンのシャフカト・ミルジヨエフ大統領、⑩アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領、⑪アルメニアのニコル・パシニャン首相、⑫エジプトのフセイン・エイサ副首相、⑬ラオスのトンルン・シスリット書記長、⑭モンゴルのウフナギーン・フレルスフ大統領、⑮トルコのレジェップ・エルドアン大統領、⑯ベトナムのヴォー・ティ・アイン・スアン副主席、⑰トーゴのフォール・ニャシンベ閣僚評議会議長、⑱国連のアントニオ・グテーレス事務総長

上海協力機構は、1996年に中国の上海に5ヵ国が集まったのが嚆矢(こうし)である。2001年にいまの形を整え、事実上の中国を中心とした中央ジア有志連合のような集まりになっている。そこにこの10年、中国べったりでやって来た国連のグテーレス事務総長が加わった。

この首脳会談の映像をCCTVで見ていて、気になったシーンがあった。習近平主席が例によって、長広舌を述べていた。習主席の演説は、とにかく退屈で長い。それにもかかわらず、プーチン大統領とモディ首相が、熱心にメモを取っていたのである。

中国国内では、習主席は会議の場で話すことはすべて「重要講話」とされ、出席者は全員、常にメモを取っている。別に義務づけられているわけではないが、そうしないとすぐに失脚の憂(う)き目に遭うから、誰もが必死にメモを取る。もしくはメモを取る仕草をしている。

国際会議の場ではもちろん、そんな義務はない。だが習主席は、自分がスピーチしている時、熱心にメモを取っている首脳を見ると、非常に嬉しそうな表情をする。そのため総じて、中国に媚(こ)びたい首脳は、「メモ取りアピール」に余念がない。

中東でも“中国待望論”

今回それを、プーチン大統領とモディ首相がやっていたのだ。両首脳は、一体どんな目的があったのだろう?

ともあれ同行した王毅外相は、3日に帰国後、こう総括した。

「25年前、上海協力機構は(上海の)黄浦江のほとりで発足し、現代の国際関係に新たな一ページを切り開いた。この25年間で、6つの創設加盟国からアジア・ヨーロッパ・アフリカの3大陸にまたがる27ヵ国へと拡大し、時代の潮流に順応し、各当事者のニーズに応える地域協力の道を切り拓いてきた。世界の人口のほぼ半分と経済規模の4分の1を結集する発展の合力を生み出し、大国間、隣国間、大小の国々の間の関係の模範を確立した。

習近平主席はビシケク首脳会議に出席し、3つの『最も』を用いて上海協力機構の発展と成果を述べた。それは世界で最も広大な領土、最多の人口、そして巨大な潜在力を有する新型の地域協力組織を構築したことだ。

さらに習主席は『4つの堅持』を提唱した。すなわち、発展を優先し、共同繁栄の展望を切り開くこと;安全を最優先とし、普遍的な安全の環境を醸成すること;人間を中心に据え、世代を超えた友好の基盤を深く根付かせること;対話と協議を堅持し、公平かつ秩序あるガバナンスを整備することである。

『ビシケク宣言』を発表し、昨年の天津での首脳会談の成果を踏まえて『上海協力機構憲章』を改定。安全保障、経済、人文協力、組織構築などに関する約30件の協力文書を採択した」

習近平主席は続いて、10年ぶりにエジプトを訪問した。こちらは、2月のトランプ政権によるイラン空爆以降、大混乱となっている中東の情勢を鎮めるべく、アブドルファッターフ・エルシーシ大統領と会談するのが目的である。

換言すれば、トランプ大統領への失望感が漂う中東では、「習近平待望論」が起こっているのだ。当のトランプ大統領さえ、イランとの関係が収拾不能になってしまい、中国の調整能力に期待しているフシがある。

エジプトでの1泊2日の日程は、表向きは「大エジプト博物館視察」などとなっていたが、肝心の部分は発表されていない。王毅外相も言葉少なで、わずかにこう述べているだけだ。

「現在の国際情勢はますます不安定化しており、ガザ地区での戦闘は長期化し、アメリカ・イスラエル・イラン間の紛争も再燃している。中央アジアの奥地からアフリカ大陸に至るまで、今回の旅路で最も強く感じたのは、国際社会が中国の意見や提案を、より重視しており、混乱した状況の中で中国が責任を果たし、公平と正義を擁護し、より大きな役割を果たすことを期待しているということだった」

「新ヤルタ会談」はあるのか

習近平主席は今週末の9月12日、13日、大量のビジネス随行団を引き連れて、インドのニューデリーで行われるBRICS(主要新興国)首脳会議に出席する。習主席のインド訪問は7年ぶりで、2019年以降ギクシャクしていたモディ政権との関係の完全修復を目指す。

一番の目的は、このところトランプ政権との関係が悪化しているインドを、中国側に引き寄せることだろう。中央アジア、中東、インドと廻って味方につけた後に、「本命」であるトランプ大統領との24日の「大一番」に臨もうとしているのである。

さらに、習近平主席の「野望」は続く。それは、11月18日、19日に自ら主催する深圳APECで、トランプ大統領、プーチン大統領との「3巨頭会談」を実現させることだ。

これは「新ヤルタ会談」と呼んでいい。1945年2月、クリミア半島のヤルタに、アメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領、イギリスのウインストン・チャーチル首相、ソ連のヨシフ・スターリン書記長が一堂に会し、約1週間にわたってヤルタ会談を開催。そこで第二次世界大戦後の国際秩序の骨格を定めてしまった。

同様に、トランプ・習近平・プーチンの3巨頭によって、世界秩序を再確認しようというのである。これこそまさに、習近平主席が長年、切望していた「戦勝国の論理」なのである。

これは日本から見れば、巨大な津波が迫ってきているようなものだ。そのため本来なら、国会のない8月から9月、高市早苗首相は習主席の2倍、3倍もの外交日程をこなし、「仲間」を増やして抵抗しないといけない。

それなのに連日、首相官邸で「引きこもり」のような日々を過ごしている。このままでは11月に、日本が「悪夢」を見ることになるだろう。

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