9月6日、福岡県北九州市。バレーボール男子のアジア選手権の予選ラウンドで、日本はバーレーンと戦い、セットカウント3-0(25-15、25-15、25-23)と危なげなく勝利を収めた。開幕戦のオマーン戦から連勝を飾ってA組の首位に立ち、決勝トーナメント進出は間違いないだろう。

 優勝=ロサンゼルス五輪出場権獲得となる大会に注目が集まるなかで、エバデダン ラリー(26歳)が日の丸を背負うミドルブロッカーとして存在感を増しつつある。


バーレーン戦に先発、日本の勝利に貢献したエバデダン ラリー photo by Sunao Noto(a presto)

 オマーン戦の第4セットでは、2本のブロックを決めてシャットアウトし、相手の心をへし折った。髙橋藍や石川祐希のような派手さはない。しかし、流れを変える剛直なブロックだった。また、先発したバーレーン戦では豪快なクイックを決めている。それも相手を惑わせる"見せ球"になったか。

「ラリー、レッツゴー!」

 リベロの小川智大の合図を受け、ラリーは巨体を勇壮に跳ね上がらせると、見事に相手のブロックを引きつけた。一歩目から跳躍の爆発的速さがあるからこそ、敵も釣られる。結果、味方は少ないブロックで優位にスパイクを打つことができた。おとりの動きだ。

 ラリー自身、"黒子感"を好む。それは彼のパーソナリティだが、その枠を飛び越えつつあるのかもしれない--。

 ラリーは、生き馬の目を抜くプロスポーツの世界では優しすぎるようにも見える。髪型や風貌はファンキーだが、控えめで、目立ちたがり屋ではない。もともと警戒心が強いのだろう。

「たぶん、自分の性格はバレーに合っていない。というか、スポーツに合っていません。思い描くアスリート像と自分の性格は違うんです」

 今年1月のインタビューで、ラリー自身が自らのキャラクターを語っていたことがあった。

「たとえば(大阪ブルテオンの)チームメイトの西田(有志)さんや(アントワーヌ・)ブリザールは闘志に溢れているじゃないですか? "この1本に集中する"という、でかい炎が燃え立っています。それに比べて僕の炎はちっちゃいし、燃え盛ることはない。アスリートとしては明るくないし、眩しくないです。でも、だからこそと前向きにも捉えていて、僕はミドルブロッカーというポジションなので、隠れていきたい。ブロックも、クイックも、いきなり現われて決める。"目立たなさ"を売りにしたいんです」

【「日本を代表するミドルに」】

 ラリーは低いながらよく通る声で言った。「自分はネガティブな性格」という言葉は予防線ではなく、本音なのだろう。そうやって人一倍、自分自身と向き合いながら、"縁の下の力持ち"として生きる道を見出してきた。

 もっとも、そのインタビューの最後に、彼は自らを励ますように言っていた。

「これからは"日本バレーの顔"になるのは絶対条件だなって思っています。できなくても、それは口に出さないといけない。西田さんも『口にして責任感を持つのは大事』って言っていますよね。だから、自分もちゃんと言います。日本バレーのミドルの顔になります! (そんなこと)今、初めて言いました」

 エゴの少ない彼にとって、その発信は周りが思う以上の"決意表明"だったに違いない。

 そして昨シーズン、ラリーはチャンピオンシップで王者サントリーサンバーズ大阪を下し、優勝に大きく貢献している。チャンピオンシップ決勝で、サントリーの218cmのドミトリー・ムセルスキーを完全にブロックしたシーンは語り草だろう。その1本のために、彼がどれだけトライ&エラーを繰り返してきたことか。

 ラリーはそのインタビューから半年とちょっとで、想像を超える成長を遂げている。まさに有言実行だ。

 バーレーン戦後、彼を呼び止めた。

--「日本を代表するミドルに」という発言以来、成長が目覚ましいです! なるべき自分に近づくスピードが加速しているのではないですか?

 そう言葉をかけると、ラリーは口元に優しい笑みを浮かべ、こう返した。

「確かにそうですね......前までは意識のどこかで"なんでここにいるんだろう"っていうのがあったんです。でも、今は"ここにいるのが当たり前"じゃないですけど、それに近い感じになってきました。うまく言えないんですけど、スタメンじゃなかったら、"自分は何をやっているんだ!"ってなる気持ちも芽生えてきましたから」

 オマーン戦、バーレーン戦と、ラリーは必ずしも多くの得点を記録しているわけではない。彼の真価はこんなものではないだろう。ただ、ブロック、クイックのひとつひとつに挑む姿には剛毅さが漂った。

「結果、決まらなかったり、止められなかったりするんですけど、スパイクやブロックに挑む気持ちの持ちようは変わりました。今は自信がありますし、"やれる"という前提で動いているんで。あのときから、少なくともマインドは変わりましたね」

 ラリーは感慨深げに言った。彼のように控えめな選手が口にする「自信」は信用に足る。それは彼を変身させるだけの作用があるはずだ。

「大会を楽しめていますよ。1位になればオリンピックが決まる大会ですし!」

 ラリーはそう言って上を向いた。8日は予選ラウンドで首位を争うオーストラリア戦。新たな境地に立ったミドルが邪気を払い、敵を畏怖させる威光を放つ。それは味方にとって祈りたくなるような守護神の降臨だ。

小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya