木梨憲武「ベンツへこませ騒動」でわかった「とんねるず的な笑い」の限界 「テレビだから許される悪ふざけ」はもう通じない
放送から4か月
4月25日にABEMAで配信された音楽番組「木梨レコード」での一幕が、放送から約4か月を経て思わぬ形で炎上している。【ラリー遠田/お笑い評論家】
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番組にゲスト出演したラッパー・SHOのゴールドのベンツを前に、とんねるずの木梨憲武はスニーカーを履いたままルーフ部分に上がり、「ここ、へこむんだね」などと言いながら車体をへこませた。SHOは「そこちょっと危ないかも」などと言っていたものの、その場では大きく抗議することなく、番組は進んでいった。
ところが、SHOがXでの一般ユーザーとのやり取りの中で、この場面を切り取った動画を公開したところ、それが拡散されて、他人の車を乱暴に扱う木梨への批判の声があふれることになった。

SHOは一般ユーザーから「自分の車を踏まれて愛想笑いしてた」ことについて「ダサい」と指摘されて、それに反論する形で「これはabemaがやってる木梨さんの歌番組の歌を収録前だぞ」「これで俺がキレて帰ったら誰も得しないだろ」「男には我慢する時もあるってことだよ」と書いた。
彼としては、木梨が彼の車の上に乗って暴れたのは、番組の演出の範囲内のことであり、自分もそれを受け入れていたから何も問題はない、と言いたかったのだろう。しかし、そこで「我慢」という表現を使ったことで、「本当は嫌だったのではないか」という誤解を招いてしまった。
また、公開された動画は番組の一部を切り取ったものだ。この前段となる場面では、SHOが自らの車を木梨に紹介する際に、「ここに座るとめちゃかっこいいっすよ」と言って、木梨をボンネットに座らせている。そこから徐々にエスカレートして、木梨が靴のままで車体に上がっていった、という流れだ。
もちろん、番組内で明確に同意をしているわけではないが、SHO自身は木梨の行為を笑いながら受け入れていて、嫌がっているようには見えない。番組の一部が切り取られていたことと、SHOの「我慢」という言葉選びのせいで、実態よりも悪く解釈されて、炎上を招いてしまったところはある。
予定調和を破壊
昔からバラエティ番組を見ている人にとって、木梨のこのような行為は意外なものではない。むしろ、相手が嫌がりそうなことを躊躇なくやり、予定調和を壊してしまうことこそ、長年にわたって木梨が得意としてきた笑いの手法だった。
とんねるずは1980年代から、芸能界の先輩後輩関係やテレビ局内の秩序を遊びの対象にして、「普通ならそこまでやらない」という一線を越えることで笑いを生み出してきた。「とんねるずのみなさんのおかげでした」(フジテレビ系)でも、後輩芸人らに高額な時計を半ば強引に買わせる「買う」シリーズが人気企画になった。
そのような体育会系的な上下関係の押し付けや乱暴さについては、当時から批判がなかったわけではないが、「テレビだから許される無茶」として受け入れられ、面白がられてきた。
しかし、時代は変わり、現在ではそのような芸風が受け入れられにくくなっている。
ハラスメントに対する世間の目が厳しくなったことで、たとえバラエティの演出の範囲内であっても、パワハラ的な行為は笑いとして成立しづらくなった。また、コンプライアンスの意識も高まったことで、テレビ局も視聴者もそのようなものを受け入れないようになってきている。
テレビが最も元気だった時代には、木梨の無軌道な悪ノリは、予定調和を壊す痛快さとして受け入れられた。しかし、現在では同じことをやっても印象が変わってしまう。
今回の炎上騒動は、1人のベテラン芸人の失敗というよりも、とんねるず的な「テレビだから許される悪ふざけ」が、もはや無条件には認められない時代になったことを象徴しているのだ。
ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。
デイリー新潮編集部
