ドラマPRのために『Nスタ』に出演する松山ケンイチ(2026年4月)

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 TVerなどの配信再生で大ヒットしており、視聴率も上昇している蒼井優主演の金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』(TBS系)。

 本作の脚本を担当するのは、2022年に連ドラデビュー作だった『silent』(フジテレビ系)で、いきなり社会現象を巻き起こした生方美久氏。その後も2023年の『いちばんすきな花』(フジテレビ系)や2024年の『海のはじまり』(フジテレビ系)など、視聴者の心を揺さぶりながら話題を集めるヒット作を生み出してきた、新世代の売れっ子脚本家だ。

 ただ、8月28日(金)放送の第8話で、松山ケンイチ演じる夫・充がいきなりキャラ変しており強烈な違和感が……。脚本家の “ご都合” にしか思えず、モヤモヤが拭えないのだ。

■俳優5人による会話劇が繰り広げられた

『Tシャツが乾くまで』は、2組の夫婦を中心としたストーリー。

 喫茶店の店主をしている夫・瀬尾充(松山ケンイチ)と仲睦まじく2人暮らしをしていた瀬尾咲子(蒼井優)。一方、園田樹生(中島歩)は妻・園田あずさ(夏帆)と幼い息子とともに幸せな家庭を築いていた。

 しかし、第1話中盤で、東京から長野に向かう高速バスの転落事故が発生。バスに乗車していたあずさは亡くなってしまい、同じバスに乗っていた充は行方不明に。充は途中のサービスエリアでバスを降りていたため、事故に巻き込まれずにすんでいたことはわかったのだが……そんな夫が、およそ1年後、第5話のラストで帰宅する。

 実は、充には昔から失踪癖があり、サービスエリアでふいに「逃げるならいまだ」と思い立ち、そのまま姿をくらましたことが明らかになっている。

 迎えた第8話。充から真相を聞かされた咲子が憤慨して家を飛び出し、そのまま行方不明となってしまう。咲子がいなくなったことに動揺した充が、彼女を知る4人の登場人物を喫茶店に集め、自分の知らない咲子について教えてほしいと、事情聴取のようなことをしていく展開に。

 喫茶店のシーンでは、松山ケンイチ、中島歩、高橋文哉、臼田あさ美、リリー・フランキーという5人の演技巧者による会話劇が繰り広げられていき、独特の空気感の掛け合いがとてもおもしろかった。

■あの奇人夫が慌てふためき憔悴する…

 喫茶店での5人の会話劇はおもしろかったのだが、このシチュエーションが “準備” された経緯に違和感を抱いた。それは、充の突然の “キャラ変” にある。

 充は咲子が帰っていないことに気づくと、まずは家中を探しまわる。咲子があずさの夫・園田樹生と知り合ったコインランドリーも訪れ、「さっちゃん!?」と飛び込んでいく。

 次に、憔悴した表情で樹生のマンション前に張り込み、「すみません、園田さんのお宅って何号室ですか?」と見知らぬ住人に聞き込み。

 それからも咲子の先輩に電話をしたり、訪れている可能性がありそうな場所に足を運んだりと、必死に咲子を探し続け、最後は茫然としながら自宅の玄関前に座り込み、咲子の帰りを待ち続けるのだ。

 結局、咲子は帰ってこず、探し続けても見つからなかったため、充が彼女を知る人物たちを喫茶店に招集したという流れだった。

■脚本家都合で無理やり “動かされた”?

 要するに、充は咲子を見つけ出すためなりふり構わず必死になっていたのだが、その一連の言動が、いままで一貫してひょうひょうとしており、マイペースで常に落ち着き払っていた充のイメージとまったくかみ合わなかったのである。

 いきなりのキャラ変に驚かされたが、同時にがっかりという感情も芽生えていた。脚本家・生方氏が描きたいシチュエーションがあり、劇中の充がその “準備” のために違和感のある言動を連発したように思えたからだ。

【喫茶店に5人集めた会話劇を描きたい】というゴールが先に決まっていて、そこから逆算して、充が脚本家都合で無理やり “動かされた” ようにしか見えなかった。

 このドラマは人間の多面性を描くことがテーマのひとつになっている。だから、充にも冷静さを欠いて慌てふためく一面もあれば、みじめなぐらい必死になって憔悴する一面もあるということを描いたんだ、と解釈することもできる。だが、そういう好意的な見方を踏まえたうえでも、おさまりきらない違和感を抱かざるを得なかった。

■“多面性を描いた” では無理がある

 なにせ、この充というキャラクターは、幸せな夫婦生活を送っていたのに突然失踪し、妻を混乱と不安の闇に叩き落しておきながら、1年後に平然と「ただいま」と帰ってくるようなめちゃくちゃな人間である。

 そんな奇人が、妻がたった数日いなくなっただけでここまで必死になったり憔悴したりするのは、さすがに無理がある。多面性を描いたという大義名分ではとうてい納得できない。

 こういうストーリーに持っていきたいという脚本家の都合で、キャラクターの性格が捻じ曲げられたようにしか思えず、残念だった。今夜の放送は最終章に突入する第9話。終盤でこれ以上、整合性を欠いたキャラクターが登場しないことを切に願う。

堺屋大地

恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。『文春オンライン』(文藝春秋)、『現代ビジネス』(講談社)、『集英社オンライン』(集英社)、『週刊女性PRIME』(主婦と生活社)、『コクハク』(日刊現代)、『日刊SPA!』『女子SPA!』(扶桑社)などにコラム寄稿