カタールとの試合中に言葉を交わす河村(左)と八村(8月31日、トヨタアリーナ東京で)=稲垣政則撮影

写真拡大

 バスケットボール男子日本代表は、8月下旬のワールドカップ(W杯)アジア地区予選のサウジアラビア戦で106-78、カタール戦で123-70と、いずれも大差を付けて快勝した。

 2戦連続の100点ゲームとなった中で、八村塁河村勇輝(いずれもクリッパーズ)は2024年パリ五輪以来となる日本代表復帰を果たし、チームを牽引。八村はサウジ戦で29得点、カタール戦で30得点と持ち味の決定力を発揮し、司令塔の河村もサウジ戦で9アシスト、カタール戦で10アシストをマークするなど持ち味を見せた。

 アジアレベルでは別格のプレーを見せた2人だが、バスケ界の「カレンダー」事情を考えると、次の代表活動は1年後の来年夏になる見通しだ。それだけに、このタイミングで日本代表に参戦したことには大きな意味がある。(デジタル編集部 佐々木想)

圧巻の高確率シュート

 世界ランキング22位の日本と65位のサウジアラビア、76位のカタール。力の差がある相手とはいえ、2連戦を通じて八村のプレーは「圧巻」の一言だった。得意とするミドルレンジから遠い距離の3点シュートまで高確率で得点を決め続け、サウジ戦のフィールドゴール成功率は78・6%をマーク。カタール戦では8本中6本の3点シュートを沈めるなど、期待を裏切らない活躍を見せた。河村も自身のシュートこそ不調だったものの、鋭いドライブと意外性のあるパスからチャンスを量産。試合の流れを作った。

 攻撃時に連動した動きでノーマークの状況を作り出す場面や、守備で相手のミスを誘発する局面も多く、桶谷大ヘッドコーチ(HC)も「これで手応えを感じていないと言ったら、うそになる」と笑みを浮かべるほど充実した内容だった。

 八村自身、代表への合流直後から何度も繰り返していた「(代表チームには)積み重ねてきたケミストリー(化学反応)がある中で、僕もそういうのを崩さないようにやっている」という言葉をコート上で証明。「チームと一緒にずっといて、桶谷HCをはじめコーチたちもみんな一つになった」と納得した表情で語った。

NBAは国際試合で中断なし

 世界最高峰のNBAで積み重ねた経験を武器に躍動した八村と河村だが、次回の代表合流は1年後の来年夏になる見通しで、その間の国際試合は不在だ。その理由はバスケ界のスケジュールにある。

 国際バスケットボール連盟(FIBA)は、国際試合を行うための「ウィンドー」期間を年に数回設定しており、今回のW杯予選の2試合もその一つ。日本のBリーグを始めとする各国の主要リーグは、ウィンドー期間のリーグ戦を中断して国際試合を優先している。一方、NBAは例外で、シーズン中の国際試合を考慮した中断期間はない。このため、NBA選手が自国の代表活動に参加できるのは基本的にシーズンオフの6~9月の期間だけだ。今オフ、ともにクリッパーズと契約した八村と河村は、この期間を使って今回の代表活動に合流した。

 例年のウインドーは11月下旬頃と2月下旬頃にも設定されることが多く、日本の今後のW杯予選も今年11月26、29日と来年2月26日、3月1日に計4試合が予定されている。しかし、クリッパーズでレギュラー格の活躍が期待される八村と、現在の「エキシビット10」契約から登録選手枠入りを目指す河村は、FIBAとNBAのカレンダーの違いが理由で、この4試合には出場しない見通しだ。

国際団体よりNBA優位

 多くの人にとってなじみ深いサッカーの場合、国際サッカー連盟(FIFA)が設定した「インターナショナルマッチウィーク」の国際試合で、クラブは選手を代表チームへ送り出さなければいけないルールがある。しかし、バスケではNBAが国際試合よりリーグ戦を優先するのはなぜか。背景には、NBAが国際統括団体であるFIBAを力関係で上回っている事情がある。

 競技レベルの面を見ると、八村の例に限らず各国のトップ選手はほとんどがNBAの所属だ。その上、経済規模でも雲泥の差があり、年間収入が数百億円規模のFIBAに対し、NBAは放映権料だけで年間約1兆円とされる収益がある。チーム単体の価値で見ても、今夏に売却の見通しが報じられたレーカーズの譲渡額は約2兆円と、その格差は圧倒的だ。

 北米スポーツならではの、それほど代表チームが重視されない文化の影響もありそうだ。NBA選手にとって、代表活動への参加は夏の休養期間を削ることも意味する。このため、特に米国のトップ選手は予選レベルの代表戦には出場せず、W杯や五輪といった重要な大会のみ代表に参戦するケースも少なくない。

 一方で、対照的なのがセルビア代表の二コラ・ヨキッチ(ナゲッツ)や、スロベニア代表のルカ・ドンチッチ(レーカーズ)ら、近年NBAで増えている欧州出身選手だ。NBAでもスターの2人は、毎年夏のウィンドーでW杯予選を始めとする母国の代表活動に積極的に参戦してきた実績がある。

八村のウィンドー参戦は8年ぶり

 八村自身、どちらかと言えばこれまでは「米国流」の傾向があった。NBAドラフトで1巡目指名を受けた2019年以降で代表チームに参加したのは、19年中国W杯、21年東京五輪、24年パリ五輪の3回だけだった。今回のようにウィンドーのW杯予選で代表活動に加わるのは、米ゴンザガ大の学生だった18年以来、実に8年ぶり。この点からも、今回の八村自身の意気込みがうかがえる。

 3戦全敗に終わったパリ五輪後、八村はトム・ホーバス前HCや日本協会(JBA)の強化体制を報道陣の前で公然と批判した経緯がある。両者の亀裂は修復不可能な状況にも見えたが、今年に入ってから代表の指揮官が桶谷HCに交代し、JBAの強化体制も刷新。島田慎二・JBA会長との直接対話もあって再び代表チームに戻ることを決めたという。最大の目標に位置づける28年のロサンゼルス五輪に向けて、「日本のバスケは今、黄金時代だと思うし、それを無駄にしてはいけない」という力強い言葉も口にした。

八村「短期間で問題ない」河村「思ったより時間ない」

 ただ、前述したように八村と河村が今後、代表に加われる機会はそう多くない。日本が順当にカタールW杯とロス五輪の出場権を獲得できたと仮定しても、2人が代表に参加可能なのは毎年夏の大会直前だけ。ロサンゼルス五輪本番までに2人が代表活動に参加できるのは、この先2年間で最大でも2回にとどまる可能性が高い。

 八村はこの点について、「NBAもそうだが、短い間にチームを作ることも必要で、僕たちはそれに慣れている。桶谷さんという素晴らしいHCがチームをまとめることができるので問題ない」と楽観視。一方、河村は「W杯は来年、五輪は再来年に控えていて、思ったより時間がない。桶谷さんやコーチ陣、新しいチームメートとの合わせやケミストリーを、築ける時に築いていかなければならない」と気を引き締める。

 それぞれの性格が表れたような対照的なコメントだが、時間的制約を考えると、今回のウィンドーで国内組とともにプレーしたことのプラス面は大きいだろう。桶谷HCも「間違いなく、この今のチームがベースになる。良い土台ができた」と強調する。

「トゲがある」から積極的コミュニケーションへ

 また、Bリーグと代表で頭角を現した後にNBAへ挑戦した河村とは異なり、代表参加が少なかった八村の力を短時間でいかに既存のチームと融合させるかは、歴代の代表指揮官にとっても大きなテーマだった。この点については、八村自身も自覚的に行動を変化させているようだ。

 富山市立奥田中学校時代の先輩でもある馬場雄大(長崎)いわく、以前の八村は「ちょっとピリピリして、トゲがあったようなイメージ。プレーがすさまじいので、自分がプレーで引っ張っていくという姿がほとんどだった」という。だが、今回の合流後は「色々な選手と積極的に自分からコミュニケーションを取って、チームをより考えてくれているのかなと思う。年齢を重ねてきて、責任と経験を生かしてチームにプラスの影響を与えてくれている」と明かす。

 桶谷HCによると、八村と河村からは「気を使わないでください」との申し出もあったという。「本当に2人とも個(の力)があるにもかかわらず、そのエゴを捨ててというか、いいところも出しながら、でもちゃんとチームのコンセプトを理解して、やってきたことを崩さずにやろうとしてくれている」という姿勢が、今回の2連戦での快勝につながったと言える。

限られた時間、試される融合

 日本人2人目のNBAプレーヤーで、現在は千葉Jに所属する渡辺雄太、NBA下部のGリーグでプレー経験のある馬場や富永啓生(北海道)も含め、ロス五輪を迎えるタイミングで代表にそろうメンバーが、日本のバスケ史上最強となるのは間違いないだろう。そうした選手たちが、チームとしても最強になれるか。対戦相手のレベルが上がるW杯や五輪へ向けて、限られた時間での融合、そして成長が試される2年間になる。