「日本企業だから」「AIブームだから」という安直な見方では、現在のキオクシアを捉えきれない。世界の半導体企業と資本・製造で深く繋がりながら独立性を保ち、高付加価値な大容量ストレージ市場へとシフトする同社の立ち回りは、昔の「日の丸半導体」とは根本的に異なる。


 元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏が、NAND価格や営業利益率といった決算数字の奥にある「会社自体の変貌」を読み解き、海外投資家が高く評価する現代的で合理的な強みの正体を提示する。


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「市況の追い風」で片付ける国内報道の浅さ 海外の分析が見抜くキオクシアの強み



 キオクシアへの日本の報道・分析を見ていると、少しもったいないと思う。海外ではもっと踏み込んだ分析が多いのだ。


 決算が良ければ「半導体市況が追い風だった」。株価が上がれば「AIブームの恩恵だ」。設備投資が増えれば「需要回復を見込んでいる」。どれも間違いではない。だが、それだけではキオクシアの強さは見えない。


 いまのキオクシアは、単なる「NANDを作る日本企業」ではない。世界の半導体企業と資本でつながり、米国企業と工場を共有し、海外投資家から高い評価を受け、AI時代に必要とされる大容量ストレージへ製品を移している。この全体像を見ると、なぜキオクシアが強いのかがかなり分かりやすくなる。


 まず知っておきたいのが、SK Hynixとの不思議な関係だ。SK Hynixは韓国の大手半導体メーカーで、キオクシアの競合でもある。普通ならライバル会社とは距離を置きそうなものだが、実際にはSK Hynixはキオクシアと深い経済的関係を持っている。


 SK Hynixはキオクシア株を直接持っているわけではない。その代わり、キオクシア株を保有する会社に対して転換社債という形で資金を出している。転換社債とは、あとで株式に変えられる可能性のある債券である。つまりSK Hynixは、「今すぐ大株主になるわけではないが、将来は株主に近い立場へ移れる権利」を持っている。

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敵であり味方でもある微妙なバランス 競合韓国勢と共存するキオクシアの統治構造



 ここが面白い。SK Hynixはライバルでありながら、キオクシアの価値が上がれば恩恵を受ける立場でもある。一方で、自由に支配できるわけではない。2028年までは、キオクシアの同意なしに議決権15%を超えて持てないという制限もある。


 敵なのか味方なのかーー答えは、両方である。半導体産業では、このくらい複雑な関係が珍しくない。工場を1つ作るだけでも巨額の資金が必要になる。技術開発にも莫大な金がかかる。完全に1社だけで戦うより、競合と一定の関係を持ちながら、自分の独立性も守る方が合理的だからだ。キオクシアは、この難しいバランスの上に立っている。


 次に注目したいのが、Bain Capitalである。Bainは2018年、東芝メモリを買収した中心的な投資会社だ。その後、東芝メモリはキオクシアへ名前を変え、上場した。Bainは保有株を少しずつ売り、2026年には持ち株を手放した。報道では、Bainはこの投資で極めて大きな利益を得たとされている。


 ここで重要なのは、「海外ファンドが儲けた」という話ではない。キオクシアという会社に、世界の投資家が以前より高い値段を付けたということだ。東芝の一部門だった会社が独立し、世界中の投資家が売買する上場会社になった。これはかなり大きな変化である。

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東証の枠を超えて広がる取引 暗号資産市場に登場したキオクシア連動商品



 しかもキオクシアの値動きは、いまや東証の外にも広がっている。暗号資産系の取引市場では、キオクシア株の値動きに連動する商品まで作られている。現物株そのものではないが、24時間、キオクシアの株価が上がるか下がるかを賭ける取引ができる。


 規模はまだ小さい。それでも象徴的だ。かつて東芝の一部門だった会社の値動きを、世界の投資家が昼夜を問わず追いかけている。キオクシアは「国内の半導体株」ではなくなったのである。


 そして、私が最も重要だと思うのが製品の変化だ。キオクシアはNANDフラッシュメモリを作っている。NANDとは、電源を切ってもデータが消えない半導体メモリだ。スマートフォンSSDなどに使われる。


 NAND市場は厳しい。各社が作りすぎれば価格が下がる。価格が下がれば利益も一気に減る。逆に供給が足りなくなれば価格は上がり、利益が急増する。要するに、普通のNANDを大量に作るだけでは、市況に振り回される。