(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大

住宅ローンを払い終えた持ち家があれば、老後の住まいは安心だと考える人も多いでしょう。しかし、築年数が経てば修繕費や固定資産税がかかり、広い家ほど掃除や管理の負担も増えていきます。子どもの独立後、夫婦2人の暮らしに合わせて住まいそのものを見直す人もいます。

「家を維持するためのお金が…」築40年を前にした夫婦の決断

康夫さん(仮名・68歳)と妻の和子さん(仮名・68歳)は、夫婦合わせて月約22万円の年金で暮らしています。

30代半ばで購入した4LDKの一戸建ては、住宅ローンをすでに完済。2人の子どもも独立し、ここ10年ほどは夫婦だけで暮らしてきました。

転機になったのは、築40年を前に家の修繕を考え始めたことでした。

以前から外壁の傷みが気になっていたほか、給湯器もそろそろ交換時期。屋根についても一度点検してもらったほうがいいと言われていました。

「ローンが終わったときは、これでもう家のお金はそんなにかからないと思っていたんです」

ところが固定資産税に火災保険、設備の交換、庭の手入れと、持ち家にも支出は続きます。

さらに、4LDKのうち日常的に使っているのは1階のリビングと和室、2階の寝室くらいでした。

ある日、修繕について夫婦で話していたとき、和子さんが口にしました。

「この家を維持するために、これから貯金を使っていくの?」

総務省『令和5年住宅・土地統計調査』によると、高齢者のいる夫婦のみの世帯では、87.6%が持ち家に暮らしています。高齢期にも持ち家が多数を占める一方、夫婦だけになったあとも、それまでと同じ広さの住宅を維持し続けるかどうかは別の問題です。

2人はまず、中古マンションへの住み替えを検討しました。しかし、駅やスーパーに近い物件は予想以上に高く、管理費や修繕積立金も毎月かかります。

「家を売ったお金をまた全部、次の家に入れるのも違う気がするね」

話し合ううちに、和子さんが都営住宅を候補に挙げました。康夫さんは驚きました。

「自分たちが団地に住むなんて、考えたこともなかった」

ただ、調べてみると、都営住宅には所得などの入居要件があり、持ち家を所有したまま申し込むことは原則できません。東京都は家族向住宅について、都内居住、同居親族、所得基準を満たすことに加え、「住宅に困っていること」を要件としており、申込者や同居親族が住宅や土地を所有していないことを原則としています。

そこで2人は、まず一戸建てを売却することにしました。

4LDKから2DKへ…「広い家が必要だと思い込んでいました」

自宅は1,900万円で売却できました。

荷物を整理し、いったん近隣の民間賃貸へ転居。売却後、条件を確認したうえで都営住宅に応募しました。

都営住宅は誰でも入れる低家賃住宅ではありません。東京都では所得基準が設けられており、募集区分によって資格も異なります。60歳以上の世帯には所得基準の緩和措置があり、年金についても給与収入とは異なる方法で所得額が計算されます。

2人は一度目の応募では入居できませんでした。

「家を売ればすぐ団地に入れると思っていたわけじゃないです。しばらく賃貸で暮らすつもりではいました」

その後、再び募集を確認して応募し、最終的に2DKの都営住宅へ入居することになりました。以前の家と比べれば、部屋数は半分です。

引っ越した当初、康夫さんは「さすがに狭かったかな」と感じたそうです。ところが、暮らし始めてみると、その感覚は少しずつ変わりました。

寝室と居間があれば日常生活には困りません。子どもたちはそれぞれ自宅を持っており、泊まりに来ることもほとんどありませんでした。

掃除にかかる時間は短くなり、庭の草取りもありません。

和子さんは、「前の家では、使っていない部屋まで掃除していたんですよね。今思うと、どうしてあんなに広さを残しておかなきゃと思っていたのか」と笑います。

自宅の売却代金は、そのまま老後資金の一部として残しました。

もちろん、長年暮らした家を手放した寂しさがなくなったわけではありません。子どもたちの身長を書き込んだ柱も、毎年花を植えていた庭も、もう自分たちのものではありません。

それでも康夫さんは、「家を残すことより、これからの生活を無理なく続けるほうを選んだ」と話します。

現在は、徒歩圏内のスーパーへ2人で買い物に行き、必要なものだけを買って帰る生活です。

「戸建てを手放す日が来るなんて、本当に思っていませんでした。でも、持ち家を持ち続けることだけが安心じゃなかったんですね」

広い一戸建てから2DKの団地へ。住まいは小さくなりましたが、家の修繕時期や庭の手入れを気にすることはなくなりました。

康夫さん夫婦にとって今回の住み替えは、単に住居費を減らすためだけのものではありませんでした。これから先、家を維持するために時間やお金を使い続けるのか。それとも、夫婦2人に必要な広さに暮らしを合わせるのか。68歳で選んだのは、後者だったのです。