「動悸」の原因は“あのホルモン”?バセドウ病が疑われる3つの症状【医師監修】
「安静にしているのに心臓がドキドキする」という経験はないでしょうか。甲状腺機能亢進症では、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで心拍数が急上昇し、日常生活に支障をきたすこともあります。なぜ心臓がこれほど強く反応するのか、動悸のメカニズムや特徴、長期間放置した場合のリスクについて、順を追って解説していきます。
監修医師:
茺粼 秀崇(医師)
東京大学理学部卒、広島大学医学部卒。国立国際医療研究センター病院・国府台病院を経て、神奈川県内のクリニックに勤務。糖尿病を専門に、内科疾患および内分泌疾患を幅広く診療している。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)と動悸の関係:なぜ心臓がドキドキするのか
このセクションでは、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)が引き起こす動悸について、そのメカニズムと特徴を解説します。動悸は患者さんが最初に気づく症状の一つであり、日常生活への影響も大きいため、正しく理解しておくことが大切です。
甲状腺ホルモンが心臓に与える影響
甲状腺機能亢進症とは、のどぼとけの下あたりにある「甲状腺(蝶のような形をした内分泌器官)」が、甲状腺ホルモンを過剰に分泌し続けてしまう病態を指します。バセドウ病はその代表的な原因疾患であり、本来は外敵から身体を守るはずの免疫系が誤作動を起こし、自らの甲状腺を刺激する「抗体(TRAb)」を作り出してしまう自己免疫疾患の一種です。20~40代の女性に比較的多く発症することが知られています。
甲状腺ホルモンには、全身の細胞の代謝(食べ物からエネルギーを作り出し利用する仕組み)を活発にする重要な働きがあります。このホルモンが過剰になると、例えるなら「身体全体のエンジンが常にアクセル全開で高回転し続けている状態」になります。
心臓はその影響を特に直接的かつ強力に受ける臓器です。甲状腺ホルモンは心臓の筋肉(心筋)細胞に直接はたらきかけ、心拍数を増やし、一回の収縮で送り出す血液の量を増やします。通常、健康な成人の安静時心拍数は1分間あたり60~100回程度とされていますが、甲状腺機能亢進症の患者さんでは、じっと座っているだけでも100回を超え、120回以上に達することもあります。
さらに、甲状腺ホルモンは自律神経のうち「交感神経(身体を緊張・興奮させる神経)」の感受性を高める作用を持っています。これにより、普段なら何でもないような小さな刺激に対しても心臓が敏感に反応し、強く速く脈打つようになります。この高負荷な状態が長く続くと、心臓のポンプ機能に疲弊が生じ、将来的な心不全リスクにつながるため、早めの診断と治療が欠かせません。
動悸の特徴と日常生活への影響
甲状腺機能亢進症による動悸には、他の原因(精神的ストレスや過労など)による動悸とは異なるいくつかの明確な特徴があります。
最も大きな特徴は、「安静にしている時や、朝起きた瞬間でも激しい動悸を感じる」という点です。運動後や緊張した場面でドキドキするのは生理的な反応ですが、ソファーで横になってリラックスしている時でも心臓がバクバクと脈打つ場合は、バセドウ病など甲状腺疾患を含めた病気の可能性があります。
また、動悸に伴って「胸が圧迫されるような不快感」や「呼吸がしづらい感覚(息切れ)」を覚えることも一般的です。病状が進行したり、高齢の方やもともと心臓に持病がある方の場合、「心房細動」をはじめとする不整脈を引き起こすリスクが高まります。心房細動とは、心臓の上の部屋(心房)が正常に収縮できず細かく震える状態です。心房内で血液が滞って血栓(血の塊)ができやすくなり、それが脳の血管に飛ぶと「脳梗塞」という重大な合併症を引き起こす危険性があります。
日常生活に悪影響が出ることもあります。夜間横になっても動悸がおさまらないため熟睡できなかったり、代謝が活発になり疲れやすくなったりします。胸の不快感に対する恐怖や不安を感じることもあります。外出や仕事など日常生活がうまく送れなくなることもあります。しかし、これらは病気の症状であり、適切な治療によって甲状腺ホルモン値が正常化すれば改善が期待できます。
胸のドキドキや不自然な脈の乱れを感じたら、「疲れのせい」で済ませず、早めに内科や内分泌内科を受診しましょう。採血検査を受けることで、迅速に原因を調べることができます。
まとめ
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)は、全身の代謝が活発になることで、動悸や異常な発汗、体重減少など様々なSOSサインを発する疾患です。一見すると「疲れ」や「年齢のせい」と見過ごされやすい症状ばかりですが、適切な医療介入(薬物療法等)を受けることで、甲状腺機能をコントロールし症状を改善させることができる病気です。
自分の身体に起きている小さな変化を見逃さず、「おかしいな」と感じたら一人で悩まずに、内分泌内科などの専門医療機関を受診してください。早期発見と継続的なケアこそが、あなたの健康で快適な日常を守る第一歩となります。
参考文献
日本甲状腺学会「バセドウ病治療ガイドライン2019」
国立国際医療センター「バセドウ病」
日本内分泌学会「甲状腺疾患の情報ページ」
東京大学医学部附属病院「甲状腺」

