『週刊少年ジャンプ』初の100万部割れより深刻…紙は売れず、電子でも稼げない中小・零細出版社の行く末
■100万部超の紙雑誌が日本から消えた
出版界に8月初旬、衝撃的なニュースが飛び込んできた。
かつて650万部の発行部数を誇り“お化け漫画雑誌(コミック誌)”と呼ばれた「週刊少年ジャンプ」(集英社)が100万部を割ったというのだ。これにより、1990年代を中心に数多くあった100万部超の雑誌(印刷版)が、一つ残らず消えてしまったことになる。
「週刊少年ジャンプ」と競っていた「週刊少年マガジン」(講談社)は既に28万部、「週刊少年サンデー」(小学館)も12万部と、いずれもとうの昔に100万部を割っている。
100万部という数字は雑誌界のステータスでもあっただけに、「漫画雑誌の王者」として君臨してきた「週刊少年ジャンプ」の100万部割れは、出版界は言うに及ばず、印刷メディア全体にとっても、その凋落を象徴する歴史的な「事件」といえる。

漫画雑誌に限らず雑誌全体を見渡せば、休刊が相次ぎ、存続も危ぶまれる青息吐息の雑誌は少なくない。
「雑誌離れ」は、言うまでもなく、スマートフォンで電子コミックやエンタメ情報などのネットメディアに触れる人が主流になり、メディアライフが様変わりしたからにほかならない。雑誌の縮小は書店への影響も大きく、全国的に広がる「街の本屋さん」の閉業が一段と加速しそうだ。
筆者は、本サイトで3年前、週刊誌の退潮について考察している(参考:2023年6月29日付「週刊朝日は150万部から7万部に激減していた…みんなが読んでいた『週刊誌』が消滅寸前にある根本原因 ネットメディアに優るものが見当たらない」)が、漫画雑誌の衰退も目を覆いたくなるばかりだ。
もっとも、大手出版社は、漫画雑誌から電子コミックに乗り換えて一息ついているが、電子化に縁遠い中小・零細出版社は、出版不況の苦境から抜け出せず、ますます窮地に追い込まれている。
ネットメディアに主役の座を譲った新聞や出版の印刷メディアの先行きを見通すと、暗澹たる思いを深めざるを得ない。
■ジャンプは半世紀以上「100万部」を守った
『少年ジャンプ』は1968年7月に隔週刊誌(月2回発行)として創刊、翌年10月に週刊に移行し『週刊少年ジャンプ』となった。少年漫画雑誌としては後発ながら、新人や若手作家の発掘・育成に力を入れ、発行部数で1971年に100万部を超え、1973年にはライバルの『週刊少年マガジン』を抜いてトップに立った。
さらに、鳥山明の『Dr.スランプ』(1980~1984)や『ドラゴンボール』(1984~1995年)、井上雄彦の 『SLAM DUNK』(1990~1996年)など、大ヒット作品を次々に生み出して爆発的な人気を博し、1994年12月20日発売の「1995年3・4合併号」は漫画雑誌史上最大の653万部を記録。「世界で最も売れた漫画雑誌」としてギネス世界記録に認定された。
その後も、『ONE PIECE』(1997年~)、『NARUTO -ナルト-』(1999~2014年)、 『鬼滅の刃』(2016~2020年)、『呪術廻戦』(2018~2024年)など、だれもが耳にしたことがあるような国民的人気作品を連発。いずれも、テレビや劇場版でアニメ化され、一部は歌舞伎の題材にも取り上げられるなど、話題が話題を呼び、一大社会現象を巻き起こした。
だが、漫画界を長くリードしてきた日本を代表する漫画雑誌といえども、デジタル社会の荒波に抗うのは容易ではなかった。
日本雑誌協会によると、『週刊少年ジャンプ』の印刷証明付き発行部数は、1970年代初めに100万部を突破して以来、半世紀余りにわたって「ミリオンセラー」を維持してきたが、2017年1~3月期(平均、以下同)に200万部を割り込み、2026年1~3月期こそ100万4167部とかろうじて100万部を維持したものの、四半期で2万部弱減り、4~6月期は98万5000部と、ついに大台を割ってしまった。ピーク時からみれば、わずか15%程度にすぎない。
■『週刊少年マガジン』はピーク時の6%に激減
同様に、他の主要漫画雑誌の4~6月期発行部数をみると、
・週刊少年マガジン(講談社) 28万1000部
・週刊ヤングジャンプ(集英社) 21万4000部
・月刊コロコロコミック(小学館) 21万3333部
・ビッグコミックオリジナル(小学館) 16万0667部
・ヤングマガジン(講談社) 12万7875部
・コミック乱(リイド社) 12万0060部
・週刊少年サンデー(小学館) 12万0000部
・ビッグコミック(小学館) 10万5667部
となっており、軒並み30万部にも満たない。少女漫画雑誌に至っては
・りぼん(集英社) 9万0000部
・ちゃお(小学館) 7万0000部
・LaLa(白泉社) 4万2767部
・花とゆめ(白泉社) 3万8800部
・別冊マーガレット(集英社) 3万0000部
・なかよし(講談社) 2万0233部
と、いずれも10万部以下だ。
このうち、『週刊少年マガジン』『週刊少年サンデー』『月刊コロコロコミック』『りぼん』『なかよし』『別冊マーガレット』『ちゃお』は、最盛期には100万部を超える人気を得ていた。
中でも、『週刊少年ジャンプ』と覇を競った『週刊少年マガジン』は1998年に445万部を達成したが、今やピーク時の6%余りにまで激減、昔日の栄光は見る影もない。
隆盛を誇った漫画雑誌の落日ぶりは、ほんとうに目を覆うばかりだ。

■『週刊文春』も全盛期の半分以下に
漫画雑誌以外の雑誌も、状況は厳しい。
「文春砲」としてスクープを連発する『週刊文春(文藝春秋)』でさえ36万2000部。1990年代半ばには80万部を超えていたが、半分以下に落ち込んでしまっている。
他に、総合誌では、
・週刊現代(講談社) 22万9000部
・週刊ポスト(小学館) 22万0778部
・週刊新潮(新潮社) 18万5978部
女性誌は
・女性セブン(小学館) 24万1800部
・女性自身(光文社) 22万7000部
・婦人公論(中央公論新社) 13万9000部
・週刊女性(主婦と生活社) 10万6944部
と、軒並み25万部以下に低迷している。
このうち、『週刊ポスト』『週刊現代』『週刊新潮』『女性自身』『女性セブン』は、過去に100万部を超え、世間を席巻した時代もあった。
しかし、いずれも発行部数は激減し、いまや雑誌の存在感は著しく薄れてしまっている。
■紙の出版市場はついに1兆円割れ
当然ながら、印刷版の出版市場も縮小の一途で、出版科学研究所によると、2025年の雑誌(印刷版)の推定販売金額は前年比10%減の3708億円。ピークだった1997年の1兆5644億円に比べると、4分の1以下にまで縮小してしまった。漫画雑誌(週刊・月刊)に限ればもっと深刻で、3357億円を売り上げた1995年の1割ほどの392億円でしかない。
一方、書籍(印刷版)も、2025年は5939億円で、ピークの1兆931億円(1996年)の半分近くにまで減っている。雑誌よりもスピードは遅いが、右肩下がりのトレンドは隠しようがない。
この結果、1996年に2兆6564億円の最高額を記録した出版市場(印刷版)は、30年足らずで9647億円となり、ついに1兆円を割り込んでしまったのである。
こうしたデータをみれば、「雑誌離れ」「書籍離れ」は加速しながら確実に進んでいることがわかる。
その背景については、電子コミックの伸長、スマホ中心の読書スタイルの変化、出版取次業者の不振、「街の本屋さん」の淘汰、書籍や雑誌の価格上昇など、これまでにさんざん語られているので、もはや詳述することもないだろう。

印刷メディアの中核である新聞も、総発行部数は1997年の5376万5074部をピークに減り続け、2025年には2486万8122部と、半分以下になってしまった。市場規模も2024年度で1兆3000億円余りで、ピークの2兆5000億円余り(1997年)から半減している(いずれも日本新聞協会調べ)。
印刷メディアは、もはや形容する適当な言葉も見つからないほど惨憺たる窮状に陥っている。
その根本的な原因は、ネットメディアに軸足を移したライフスタイルの変容に尽きる。
■漫画雑誌はすたれても電子コミックで生き返る
もっとも、暗い話題ばかりの新聞や書籍と違って、漫画の現在地はちょっと様相が異なる。ネットを利用して読む電子漫画(電子コミック)が、右肩上がりで急速に伸びているのだ。

電子コミックは、現在はスマホにアプリをダウンロードして読むのが一般的。2000年代半ばに電子書店の「コミックシーモア」(NTTソルマーレ)や「めちゃコミック」(アムタス)がサービスを始めていたが、2010年代半ばにスマホの普及とともに大手出版社が次々に参入して「少年ジャンプ+」(集英社)、「マガポケ」(講談社)、「サンデーうぇぶり」(小学館)などの漫画アプリを提供、時を前後して出版社の作品を横断的に読める電子コミック配信サービスのピッコマ(カカオピッコマ)や「LINEマンガ」(LINE Digital Frontier)も登場して、一気に広がった。「少年ジャンプ+」の累計ダウンロード数は3000万件を超えたという。
作品のラインナップはアプリごとに特徴があり、入手方法や料金設定もバリエーションが豊富で、読者はニーズに合わせて読みたい漫画を選べるようになった。こうなると、漫画雑誌を買うインセンティブは大幅に低下してしまう。
出版科学研究所のデータでは、電子コミック(コミック誌を含む)の市場規模は2025年に5273億円に達し、統計を取り始めた2014年の6倍という急成長ぶり。
既存の印刷版の雑誌と単行本を合わせた漫画市場は、まだ印刷版が主役だった2010年代はおおむね4000億円台で推移していたが、電子コミックが本格的に普及した2020年代に入ると一気に6000億円台にハネ上がり、2024年には7000億円を超えた。2025年は6925億円で、電子コミックが4分の3を占める。
漫画市場全体でみると、電子コミックが漫画雑誌と置き換わったうえに、市場規模を押し上げるという劇的な構造転換が起きている。
さらにいえば、電子書籍や電子雑誌を合わせた電子出版は、電子コミックが9割以上を占めるため、「電子出版市場=ほぼ電子コミック市場」といってもいい。
出版市場が縮小する中、こと漫画に限っては、漫画雑誌はすたれても、電子コミックとして生き返っている。
■電子コミック頼みの「一本足打法」
電子コミックの急伸は、出版不況が叫ばれて久しい出版界を下支えしている。
印刷版と電子版を合わせた出版市場は、1996年に2兆6000億円のピークに達した後、減少トレンドに直面していたが、2010年代半ばからは1兆6000億円前後で下げ止まった。
2025年は1兆5462億円だが、このうち電子版は5815億円と10年間で3倍に急拡大し、印刷版の大幅減を補っている。また、漫画は6925億円に達し、市場に占める割合も45%と半分近くを占める。2016年の27%から大きく伸びており、電子コミックが市場を牽引していることは間違いない。
出版界は、今や電子コミックという「時の氏神」に足を向けて寝られそうにない。
ただ、漫画に頼り切る「一本足打法」には、リスクが伴う。すでに電子コミックは伸びが鈍化する兆しが見え始めており、「漫画コケたらみなコケる」となりかねない。
■電子で伸びる大手、紙から抜け出せない中小
市場全体では一息ついているとはいえ、出版界の内実を探れば一段と深刻さを増していることに気づく。
漫画という切り札を持ち電子コミックを発行できる大手出版社と、魅力的なコンテンツに恵まれずデジタル投資もままならない中小・零細出版社との格差が広がり、二極化が急速に進んでいるのだ。
かつて出版社の収益と言えば雑誌や書籍の出版事業が大半を占めていたが、大手出版社は2010年代半ばにそろりと電子コミックに進出し、さらに漫画作品のアニメ化やゲーム化などライツビジネスに目覚めて積極的に手がけるようになった。
講談社を例にとると、2014年は総売上高1191億円のうち、印刷版932億円(78%)に対し、電子版+ライツビジネス等は162億円(14%)にすぎなかったが、2025年になると総売上高は1692億円に伸び、このうち印刷版は430億円(25%)と半減する一方、電子版864億円(50%)とライツビジネス285億円(17%)を合わせて1147億円(68%)と急増している。
収益構造がまったく様変わりしてしまったのである。
「書籍と雑誌の大手出版社」は、「電子出版とライツビジネスのコンテンツ企業」へと変貌したといってもいい。
だが、昔ながらの印刷版中心のビジネスモデルから抜け出せない中小・零細出版社は、こうはいかない。電子コミックに比べ電子書籍や電子雑誌の市場はたいして伸びておらず、印刷版を単に電子化しただけでは売り上げを増やすことにはつながりそうにない。
約3000社と言われる出版社の大半は中小・零細出版社で、苦境にあえいで次々に姿を消すようなことになれば、出版文化の多様性が失われ、読者の選択肢は確実に狭まっていく。出版界にとって、きわめて重大な事態に発展しかねない由々しき問題なのである。
一口に出版不況と言っても、出版市場の収縮で業界全体が青ざめた2000年代と、大手出版社と中小・零細出版社に二極化している現在とは、意味合いが違うことに留意しなければならない。
『週刊少年ジャンプ』の100万部割れは、「出版不況の象徴」のようにも見えるが、それほど単純な話ではない。出版ビジネスの変貌を想起させ、ひいては印刷メディアの行く末を案じざるを得ない「事件」なのである。
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水野 泰志(みずの・やすし)
メディア激動研究所 代表
1955年生まれ。名古屋市出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。中日新聞社に入社し、東京新聞(中日新聞社東京本社)で、政治部、経済部、編集委員を通じ、主に政治、メディア、情報通信を担当。2005年愛知万博で博覧会協会情報通信部門総編集長を務める。日本大学大学院新聞学研究科でウェブジャーナリズム論の講師。新聞、放送、ネットなどのメディアや、情報通信政策を幅広く研究している。著書に『「ニュース」は生き残るか』(早稲田大学メディア文化研究所編、共著)など。■メディア激動研究所:https://www.mgins.jp/
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(メディア激動研究所 代表 水野 泰志)
