「夫は毎日真っ黒で帰宅…」建設アスベスト訴訟で“7.5億円”賠償命令も、なぜ「屋外作業者」は救済対象外に? 遺族ら控訴へ
全国の建設現場でアスベスト(石綿)にばく露し健康被害を受けたとして、元建設作業員と遺族らが国と建材メーカーを訴えている「建設アスベスト訴訟」。そのうち東京3陣訴訟の判決が28日、東京地裁で言い渡された。裁判所は建材メーカー4社の不法行為責任を一部認め、総額約7億5000万円の支払いを命じた。一方で、屋外作業や改修・解体作業に従事した原告の訴えは退け、メーカー1社の責任は認めなかった。(ライター・榎園哲哉)
アスベストは廉価で耐久性が高く、ビルや住宅等の施工の際、防音材や耐熱材として広く使用されてきた。しかし、建材の研磨や切断などによって飛散した繊維を吸い込むことで、肺がんをはじめとする重篤な肺疾患を引き起こすことが指摘されてきた。
国は1975年から段階的にその使用を規制、2012年には完全禁止としたが、建設作業者の労災認定件数は、2005年度からの累計で1万1000件を超える。
被害を受けた屋内作業者(鉄筋工等)、屋外作業者(板金工等)、改修・解体作業者(解体工等)と、すでに亡くなった作業者の遺族らが国と建材メーカーの責任を訴え、2008年5月に訴訟を提起。全国14の地域でおよそ40の同種訴訟が続いている(終了した訴訟もあり)。
和解に至らなかった100人余への判決東京地域では、これまでに1陣~5陣の5つの訴訟が提起されている。今回判決が言い渡された東京3陣は原告127人(被災者100人)によって、2020年3月に提起された。
先行する東京1陣訴訟では2021年5月、最高裁が国と建材メーカーの責任を認める判決を下した。国と原告団との間で基本合意書が締結され、東京3陣訴訟の被災者99人も国とは和解している。
さらに、建材メーカーへの責任について東京地裁は昨年12月、和解案を提示。これを受け今年6月26日、被告21社のうち7社と原告16人(被災者12人)との間で判決を待たずに和解が成立した。
今回、和解に至らなかった原告113人(被災者88人)について、判決が言い渡され、屋内作業者の原告91人(被災者74人)に対し、建材メーカー4社の責任が認められた。
判決後の記者会見で、東京弁護団事務局次長の森孝博弁護士は「すでに和解した原告を含め、86%に相当する原告が救済された点は大きく評価できる」と訴訟の意義を語った。
屋外作業者と改修・解体作業者へのメーカー責任認めず一方で、屋外作業者と改修・解体作業者ら原告22人(被災者14人)については、建材メーカーの責任が認められなかった。
屋外作業者については、アスベストの粉じんが風で希釈されることから「(被害の)予見可能性がない」とした最高裁判決(2021年5月)が受け継がれた。
改修・解体作業者についても、ビル・住宅等の施工から相当の年数が経った後に従事することから「(建材メーカーは)注意義務を負わない」とした最高裁判決(2022年6月)が踏襲された。
また、石綿吹き付け材を製造販売していた1社の責任も認められなかった。責任を判断する基準となったのは、同社の市場での“シェア率”だ。
判決は、建材の市場で「おおむね10%以上のシェアを有するか否か」を基準とする原告の主張に合理性があるとしつつ、同社は基準に満たないと判断。弁護団によると、裁判所は、同社が早期に非アスベスト製品に切り替えたとの主張を認め、アスベスト含有製品のシェアを約3%と認定したという。
これについて、森弁護士は、「吹き付け材は極めて飛散性が高く、危険性が高い。石綿関連疾患を生じさせた主要な建材であり、メーカーの責任を免責することは許されない。他の訴訟の高裁では同社の責任が認められている」と批判した。
国の責任「違法状態は続いていた」今回の訴訟では、2021年5月の最高裁判決による基本合意において、被災者100人中ただ1人、国との間で和解に至らなかった配管工のA氏について、国の責任が認められるかも争点だった。
A氏は、アスベスト含有建材の製造販売が原則禁止された2004年10月1日以降の、2006年9月から配管工等として改修作業に従事し、肺がんを患った。最高裁判決は、国の違法状態が終了した「終期」を2004年9月30日としていたため、国は和解を拒否していた。
地裁の判決は、国が2005年2月に「石綿障害予防規則(石綿則)」を制定するなどして規制を強化したとして、国の責任を改めて否定した。
これに対し、東京弁護団共同代表の井上聡弁護士は、「改修・解体作業者のばく露防止のためには、事前調査が極めて重要だ」と指摘。「国は規制権限を適切に行使して事前調査に関する規制を強化すべきだったのに、2005年の石綿則制定時にも見直しを怠った。国の違法状態は続いていた」と国の責任を訴えた。
「タオルを巻いて作業し、真っ黒になって帰宅していた」会見には原告代表も出席し、思いを語った。
板金工の夫・一夫さんを肺がんで亡くした奥田サヨ子さんのケースは、今回の判決を象徴している。
一夫さんは屋内の台所や風呂場の改修のほか、屋外の屋根や外壁の工事も請け負っており、判決では屋内作業分についてメーカー側の責任が認められたが、屋外作業分については退けられた。
奥田さんは、危険を知らされずに働いていた夫の姿を「毎日ほこりをかぶって真っ黒になって帰ってきた。ボード(板材)にアスベストが入っているとは分からなかった。マスクがなく、タオルを巻いて作業していた」と振り返った。
東京弁護団は判決を受けて声明を出し、屋外作業者、改修・解体作業者への建材メーカーの責任が認められなかった判決に対して、「誤った最高裁判決をそのまま踏襲しており、いずれも不当な判断である」と訴えた。
さらに、「敗訴部分については控訴し、控訴審においてその誤りの是正を求める」としている。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。

