住宅ローンの返済額だけで「払える」と判断してはいけない。

私はこのケースを通じて、その重要性を改めて感じました。

◆「家のために生活している」状態に

家計が苦しくなると、お客様は少しずつ生活を変えていきました。

年2回ほど行っていた家族旅行を減らし、週末の外食も控えるようになりました。欲しいものがあっても、「今月は固定資産税があるから」と我慢する。ボーナスも楽しみに使うのではなく、固定資産税や将来の出費に備えて残しておくようになったそうです。

特につらかったのは、貯蓄が思うように増えないことでした。

毎月きちんと働き、住宅ローンも遅れずに返している。それなのに、教育費など将来必要になるお金を考えると、常に不安が残ります。

あるとき、お客様がこう漏らしました。

「家族を幸せにするために買った家なのに、家のために生活しているみたいです」

この言葉は、今でも覚えています。

住宅ローンの怖さは、返済ができなくなることだけではありません。

返済を続けるために、家族がやりたいことを次々と諦めなければならなくなる。

住宅ローンを一度も延滞していなくても、家計が健全とは限らないのです。

◆そして、お客様はマイホームを売る決断をした

家計を何度も見直した末、お客様が出した結論は、マイホームの売却でした。

もちろん、簡単な決断ではありません。

家族で選び、長い住宅ローンを組んで購入した家です。「せっかく買ったのだから、何とか住み続けたい」という気持ちも強かったと思います。

それでも、今後さらに教育費が増えることを考え、「このまま住宅費に毎月20万円近く払い続けるより、一度家計を立て直したい」と決断されました。

売却後は、家賃の安い住まいへ引っ越しました。

結果として毎月の住居費が数万円下がり、その分を貯蓄や教育費に回せるようになりました。

後日、お客様から言われた言葉が印象に残っています。

「家を手放すのは悔しかったですが、毎月お金のことを心配する生活からは楽になりました」

マイホームを持ち続けることだけが正解ではありません。

家は家族の生活を豊かにするためのものです。家を守るために家族の生活を犠牲にするようになったとき、住まいそのものを見直すことも一つの選択肢なのだと思います。

◆銀行員時代に気づいた「借りられる金額」で家を買う怖さ

銀行員として住宅ローンに携わる中で、私が何度も感じたことがあります。

それは、「銀行が貸してくれる金額」と「無理なく返せる金額」は違うということです。