〈高円寺阿波踊りでも不安の声〉「踊る姿は見てほしいが…」女性踊り手の性的消費とSNS拡散、一律の撮影規制に揺れる現場の葛藤
伝統ある祭りの舞台裏で、女性踊り手たちを狙う「性的な視線」とSNSでの拡散・消費が深刻な問題となっている。阿波おどりやサンバ、ベリーダンスといったイベントにおいて、悪質なローアングル撮影だけでなく、ごく普通の練習風景すらも本人の意図しない性的な文脈で消費される現状がネットで浮き彫りになった。
【画像】高円寺の阿波おどりを撮影しようと多くの人がスマホを向けていた
撮影規制の限界と、現役踊り手への取材から見えてきた複雑な本音、そして「撮る側・見る側」に今突きつけられているモラルのあり方とは。
心配される高円寺阿波おどりでの不適切撮影
8月12日から15日の4日間にわたって、徳島市で開催された阿波おどり。台風の影響で周辺交通に乱れは出たものの、本番は大きく崩れることなく、4日間の日程を無事終えた。
しかし、開催前からインターネット上では、不穏な空気が漂っていた。近年、阿波おどりの女性踊り手を性的な意図で撮影し、その映像をSNSに投稿するという行為が問題になっているからだ。
例えば、公共施設で阿波おどりを練習していた女性が、知らないうちに撮影され、その映像がTikTokに投稿されたケースがある。
動画は100万回以上再生されたが、練習着の上から下着のラインが分かる場面も映っており、コメント欄には踊りそのものとは関係なく、女性の容姿や身体について言及する書き込みが寄せられていた。
「阿波おどりを記録し、楽しむためにカメラを向けること自体は、昔から祭りの風景の一部です。しかし、SNSの普及によって、そのあり方は変わりつつあります。踊りそのものではなく、女性の容姿や身体の一部に焦点を当てた映像が切り取られ、性的な文脈とともに不特定多数へ拡散されるケースが目立つようになっています」(地域情報誌記者)
集英社オンラインでは『〈阿波おどり不適切撮影〉「気持ち悪い」「さらされるなら踊りたくない」性を強調した動画拡散で未成年も被害…再生数稼ぎの撮影者に注意しても「ごまかされまた来る」運営が激怒』と題した記事を配信。Yahoo!ニュースにも掲載され、問題はさらに注目を集めた。
「ほかにもSNSでは、『美少女が紛れ込んでいる』と特定の女性踊り手に注目した動画に対して、『おちりの突き出しがセクチー』など、踊り手の身体を性的に捉えたコメントが寄せられています。
さらに、昨年撮影されたと思われる動画では、女性踊り手を地面に近い位置からローアングルで撮影する男性の姿が捉えられ、こちらも拡散されました」(同)
問題視されてきたダンスの不適切撮影
女性の踊り手をめぐるこうした問題は、阿波おどりに限ったものではない。露出度の高い衣装で踊る浅草サンバカーニバルでも、女性ダンサーの身体の一部を狙うような撮影は、以前から問題視されてきた。
「とあるネット掲示板の『サンバイベント情報』と題されたスレッドには、撮影した女性の画像を掲載しながら、『最前線でライトを焚いたので良い作品ができました。●●(編集部伏字)すぎ注意!』と書き込む人物もいます」(同)
もちろん、主催者や出演チーム側も手をこまねいてきたわけではない。浅草サンバカーニバルでは過去に撮影禁止エリアが設けるなど、不適切撮影の防止に力を入れてきた。
そして、これは阿波おどりやサンバに限った話ではない。
「東京外国語大学の学園祭『外語祭』では、女子学生によるベリーダンス公演が以前から人気を集めていますが、観客に中高年の男性が目立つこともたびたび話題になってきました。2000年代の時点ですでに、公演を撮影した動画がネット上にアップされて問題となり、写真や動画の撮影は禁止されています。
スマホの普及とSNSの発達によって、こうした映像が一気に拡散されるようになりましたが、女性が人前で踊るイベントに撮影を目的とした観客が訪れ、その映像がネット上で消費されるという構図自体は、20年近く前からあったのです」(同)
もっとも、撮影方法を規制するだけで、この問題を解決できるわけではない。今回問題となった阿波おどりの動画のなかには、ローアングルで身体の一部を狙ったものではなく、女性たちがごく普通に練習する様子を収めた映像もある。
ところが、そうした動画にも踊り手の容姿や身体を性的に捉えるコメントが寄せられ、本人の意図とは無関係な文脈で拡散されていく。
問題は「何をどう撮るか」だけではなく、「撮られた映像がどう見られ、どう消費されるか」にまで広がっている。悪質な撮影を禁止したとしても、何気なく撮影された映像や、本人たちが発信した動画さえ、性的な視線にさらされる可能性は残る。撮影を規制するだけでは、問題は別の場所で繰り返されるだけなのかもしれない。
高円寺阿波おどりに参加する女性に取材
では、実際の踊り手はこうした問題をどう受け止めているのか。29日と30日に開催する『東京高円寺阿波おどり』に参加する高橋さん(仮名・20代女性)は、こう話す。
「撮影されることはすごく意識しています。ただ、SNSでの連員(グループのメンバー)募集が主になっていることもあり、多くの人に見てもらえる、悪意のない写真はありがたいと思っています。
知らない人のSNSに、自分が踊っている写真や動画が投稿されるのもうれしいので、本番後の打ち上げで、みんなで自分の連(グループ)名をエゴサーチしています」
実際、撮影した写真をファイルにまとめて連へ送ってくれる人や、SNSの投稿を共有してくれる人もおり、撮影をきっかけに観客との交流が生まれることも少なくない。だからこそ、この女性は一部の悪質な撮影者の存在を理由に、撮影そのものを厳しく制限することには否定的だ。
「不適切な写真を撮っているのは少数だと思うので、個人的には撮影を制限する必要はないと思っています。ただ、未成年者の被害なども考えると、不適切なアカウントへの対応や対策は厳しくすべきだと思います。
知り合いも、踊っているところではなく、待機中に胸元をアップで盗撮されたことがあるそうです。そういうのは当然、嫌ですね」(高橋さん)
踊り手たちも、祭りに参加する以上、観客のカメラに写り込んだり、踊っている姿を撮影されたりすることは、ある程度想定しているだろう。しかし、それは身体の一部だけを意図的に切り取られ、性的な文脈で消費されることまで受け入れているということではない。
阿波おどりをはじめとする祭りは、老若男女が楽しめる場所だ。踊り手に過度な自衛を求めるのではなく、身体の一部を狙った撮影や、本人が望まない形で性的に消費する行為を避ける。撮る側、見る側の当たり前のモラルが、いま改めて問われている。
取材・文/千駄木雄大
