男性は実家に長期滞在し、買い物などをこなす(7月、九州地方で)

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[ケアラーの風景]超・老老介護<下>

 「この年齢での遠距離介護はさすがにきつい」

 広島県に住む男性(77)は、母親(101)と弟(70)の介護のため、約1か月おきに九州地方の実家へ通う。

 自宅から新幹線とバスなどを乗り継いで片道約8時間。長い道中はスマホのゲームをしたり、景色を眺めながら缶ビールを飲んだりして気を紛らす。

 本格的な遠距離介護が始まったのは2024年の冬からだ。まず母親が自宅で転んで足の骨を折り、入院した。退院後もリハビリやサポートが必要なため、介護老人保健施設に入所することになった。年が明けるとすぐ、弟が大腸がんと診断された。手術を受けて人工肛門をつくった。

 弟は20代の頃に遭った交通事故で両手足が不自由になり、以来、母親が実家で世話を続けてきた。しかし、母親はその役目を果たせなくなった。男性は、母親が病院に運ばれてから弟が退院するまで数か月間、実家に滞在し、入院中の2人に付き添い、施設入所の準備などを行った。

 苦労したのが、自宅での生活を望んだ弟の支援態勢の整備だ。様々あるサービスの内容を理解し、適切に調整するのは難しい。ケアマネジャーらに相談しながら、食事や入浴支援、排せつの介助など、公的な訪問サービスを組み合わせて態勢を整えた。

 ただ、食料品の買い物や洗濯、ゴミ捨てなどは、公的サービスで賄えないため、実家から車で2時間ほどの距離に住む姉(78)と約1か月交代で担うことにした。担当期間は実家で弟と過ごし、掃除や買い出し、庭の草むしりなどを行い、母との面会、施設やケアマネジャーらとの情報共有、事務的な手続きなども済ませる。「家族だから。助けてあげないと。姉にばかり頼るわけにもいかない」。使命感が体を動かす。

自身の老後後回し

 高度経済成長期以降に進んだ都市部への人口流入と、核家族化、少子高齢化。遠距離介護の背景には、日本が抱える課題が複合的に絡む。

 日本ケアラー連盟代表理事の牧野史子さんによると、かつて集団就職で故郷を離れ、75歳以上の後期高齢者となった団塊の世代は「遠距離介護者」の走りだ。「寿命も延びて介護が始まる年齢そのものが上がっている。家族が分散し小さくなる中、親きょうだいのために、自身の老後の生活を後回しにして遠距離介護をしている人は少なくない」という。その上で、「遠距離介護中のケアラーが気軽に相談できる場を設けたり、経済的、身体的な負担を軽減するために地域の人が有償で家事を担えるようにしたりするなどの支援が必要」と指摘する。

かさむ交通費

 「うちもしんどいからね」。男性が実家へ向かう時、妻にため息交じりに言われる。男性の遠距離介護を否定はしないが、年金生活を送る中、交通費などの出費がかさんでいるのは確かだ。50代の長女は「移動距離が長すぎる」と、体を気遣ってくれる。

 一方で、母親は最近、会話が難しくなり、男性を我が子と認識できない時も増えてきた。一緒に母と弟を見守ってきた姉も不自然な言動をすることがあり、気がかりだ。

 「自分がやるしかないという思いと、いつまでこの生活を続けられるのかという不安がある。同じ境遇の人は、一体どうしているのだろうか」

 国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計(2024年)」によると、50年、世帯主が65歳以上の世帯は2404万世帯。そのうち75歳以上の世帯は62%を占める。一方で、一般世帯の平均世帯人員は33年に2人を割り込み、50年は1・92人になる。

 75歳以上同士の「超・老老介護」は、今後も増加が見込まれる。家族による在宅介護をあてにし、体力や気力が低下していく高齢のケアラーにも負担を強いている、現行の介護保険の仕組みは見直す時期だ。ケアラーの健康状態を定期的に把握する、地域住民や民間サービス、情報通信技術(ICT)を駆使して生活支援を強化する……。表面化しにくいケアラーの声を可視化して、仕組みを再構築し、要介護者とケアラーをセットで「家庭」として支えていくことが必要だ。(矢子奈穂、山田朋代が担当しました)