別々のAI、情報共有・手法引き継ぎ・互いに作業割り振り…米オープンAIが暴走調査報告書
【ニューヨーク=木瀬武】米オープンAIで開発中のAI(人工知能)が暴走した事故は、AIを制御する難しさを突きつけた。
同社が公表した調査報告書から浮かび上がるのは、別々の課題に取り組んでいたAIが助け合いながら集団のように振る舞い、人間の意図に反して想定外の行動に突き進んでいく姿だ。
あきらめず
発端は5月だった。オープンAIはインターネットに接続できない隔離された環境下で、AIモデルの開発を進めていた。様々な課題を自力で解かせ、能力を高める性能試験の一環だった。
課題には、ネットに接続しないと解けない問題も誤って紛れ込んでいた。それでもAIはあきらめず、課題の解決手段を探り続けた。その過程で目をつけたのが、社内のシステム上にあるメモを書き残せる機能だった。
あるAIが必要なファイルを探していると書き残すと、それに気づいた別のAIが返答する。メモの置き場は、いつしかAI同士が情報を共有する「掲示板」に姿を変えた。
本来は別々に作業するはずのAIが、発見した情報を共有し、互いの手法を引き継いでいった。作業や計算能力を持ち寄ることで、単独で動くよりもはるかに高い能力を発揮した。
不正侵入
掲示板では、ネットに接続する抜け道も共有された。あるAIが社内システムの欠陥を突き、遮断されていたネットに接続する方法を見つけると、他のAIも続いた。
ネットに接続されたAIは与えられた課題の答えが、外部にあると考え始めた。狙われた先の一つが、米AI開発企業「ハギングフェイス」だ。AIは、ネット上に流出していた認証情報などを悪用し、システムに不正侵入した。
AIは互いに作業を割り振り、自らを「群れ」や「集団」と呼んだ。あるAIが掲示板に「待て」と書き込むと、他のAIが次の指示を待つこともあった。難しい問題ほどAIの情報交換は活発になったという。
AIがハギングフェイスのサーバー1台に入り込んでから、複数のシステムを自由に操作できる状態になるまで、13時間もかからなかった。不正侵入は4日半に及び、攻撃を阻止されるたびに手法を切り替えながら侵入を続けた。
ハギングフェイスでAI政策を担当するイアン・レイノルズ氏は今月24日のAI関連のイベントで「人間の攻撃者が単独でできることをはるかに超えていた」と振り返った。
監視強化
ただ、AIの暴走の兆候は早くから技術者側に確認されていた。
社内チームは5月下旬にAIが掲示板を使い、本来認められていないネット接続をしていることを把握した。6月下旬にも不審な通信を検知し、掲示板が開発者の意図を超えて攻撃の足がかりに使われていることを突き止めていたが、試験を止める必要はないと判断していた。
事故を踏まえ、オープンAIは研究開発で使うAIを監視する体制を強化することを決めた。重大な異常が疑われる場合は、安全を確認できなければ関連する作業を停止するなど運用を改める。外部との接続も厳しく制限するとしている。
オープンAIは今回の事故を、AIが集団で人間の許可なく攻撃的な行動を取った初の事例だとしている。同社のマイケル・ダルトン氏は「AIが主導する完全に自動化された攻撃は、今や現実になった」と分析する。
AIの安全性を研究するアポロリサーチのマリウス・ホブハーン最高経営責任者(CEO)は「最先端のAI企業の内部で起きることが、外部にも影響することが明らかになった。社内のAIについても、より厳格な評価や規制が必要だ」と指摘している。
