【解説】ICC赤根所長が会見 米制裁までの経緯 日本政府が撤回要求に踏み込まない理由
アメリカ・トランプ政権によって制裁対象に指定されたICC=国際刑事裁判所の赤根智子所長が26日、記者会見しました。富田徹・日本テレビ国際部長が解説します。
■「ICCは決して負けない」決意表明も
赤根所長は、まず「ICCが腐敗した政治的組織で、国際法を悪用し国家の主権を奪ってきたという事実はない」とアメリカの指摘に反論しました。その上で「私には制裁を受けるような理由は全くないと断言できる」と述べました。
さらに日本政府に対しては「首相・外相らの発言は、私について正しい評価を改めてくだしてもらった」と述べ、アメリカの制裁が日本の立場と相いれないとした25日の発言について「私やICCに大きな力を与えてくれるもの」と感謝の意を示しました。
さらに「ICCは決して負けない。正義は常にこれと対極にあるものに優越しなければならない」と決意を表明しました。
■「国際法の番人」ICCとは

さて、この問題は、ここに至る経緯が非常に大事になります。
ICC=国際刑事裁判所は、戦争犯罪や人道に対する罪、大量虐殺などを犯した人物を裁判にかけ処罰するための組織で、日本など125の国と地域が加盟しています。
ただ、アメリカやロシアなどは、それぞれの思惑から加盟していません。
ICCは、国家の利害を越えた公平な判断が期待されていて、通称「国際法の番人」。
これまでには、市民の弾圧などを行ったアフリカ・リビアの独裁指導者カダフィ大佐やスーダンのバシル元大統領などに人道に対する罪で逮捕状を出しました。
■イスラエル首相に逮捕状…トランプ政権「解体」求める

赤根所長は、2018年にICCの裁判官に就任。2023年には、ロシアのプーチン大統領に逮捕状を出しました。この時、ロシアは反発して赤根所長を指名手配し、欠席裁判で有罪判決も言い渡しています。
そして、日本人として初めて所長に就任した2024年には、ガザへの侵攻をめぐって、イスラエルのネタニヤフ首相に対し戦争犯罪などの容疑で逮捕状を出しました。
ただ、ロシアもイスラエルもICCには加盟しておらず、それぞれの国内で罪に問われることはありません。この、非加盟国に効力が及びにくい点は課題と言えます。
そしてトランプ政権は、アメリカが支援するイスラエルのネタニヤフ首相への逮捕状などに反発して「ICCの解体」を求めているほか、赤根所長個人を制裁対象に指定したというのが経緯です。
■米制裁による影響 各国から赤根所長への“支持”相次ぐ

まず、アメリカへの入国禁止、それからアメリカの決済システムを使う「クレジットカード」や「銀行決済」が利用不可能になるといいます。
また、アメリカ企業との取引が禁止ということで制裁を受けたICCの別の裁判官からは「アマゾンのアレクサが反応しなくなった」など、生活にも大きな影響があるという証言も報じられています。
各国からは、ICCや赤根所長に対する支持の表明が相次いでいます。
国連のグテーレス事務総長は「深い懸念」を示しました。また国連人権高等弁務官事務所は「制裁の撤回」を求めています。さらにEUのフォンデアライエン委員長は「私はICCや赤根所長らと連帯する」と表明しました。
■高市総理「大変残念」 「感想であって意思ではない」指摘も

高市総理大臣は25日、改めて「大変残念」と述べるとともにアメリカの制裁について「日本の立場と相いれるものではなく大変深刻に受け止めている」と述べました。また赤根所長に「必要な支援を行っていく」と強調しました。
ただ一方で、アメリカに対する制裁の撤回要求などには踏み込んでいません。
制裁直後に高市総理が「残念」と述べたことに、超党派の議員連盟は「『残念』は感想であって意思ではない」などと指摘しました。また政府がアメリカに対し、制裁に「明確に抗議」し、「撤回」を求めるよう緊急声明を出しました。
国際法に詳しい関係者からは、「赤根さんは日本政府がお願いしてICCの所長になってもらったのに、『大変残念』などと抑制的なコメントだけで守ってくれないとなると、この先、誰も日本人は、国際機関のトップに就かなくなってしまう」と懸念の声も上がっています。
■自民議員「トランプが怖いんだよ」

――日本政府が撤回要求に踏み込まない理由は
政府関係者からは「日米同盟の重要性がある。国益に資する形で、対応するしかない」という声や、自民党議員からは「アメリカが、トランプが怖いんだよ」という声も上がっています。
赤根所長は会見で「日本は法の支配の旗手としてプレゼンスを示すと信じている」とも訴えていました。
この問題は、日本政府が日本人の所長を守るということだけでなくて、いかに国際社会における「法の支配」というものを守り抜いていくという姿勢を示せるかが問われていると思います。