組合やめたら一人だけ“無茶振り勤務”、年末年始の有給も取らせてもらえず…都営バス運転手が人権侵害とパワハラで東京都を提訴
「組合を辞めたとたん、自分だけが職場のルールから外された」--。都営バスの運転手として約19年間ハンドルを握ってきた佐々木政彰さん(40代・男性)は、そう訴える。
労働組合を脱退した直後から、勤務シフトを決める仕組みから一人だけ外され、いつ・どの路線を走るのか直前までわからない働き方を強いられるようになったという。
佐々木さんは2026年8月24日、雇い主である東京都に慰謝料など330万円の支払いを求め、東京地方裁判所に提訴した。同日、代理人弁護士とともに都内で会見。
訴状は佐々木さんの置かれた状況を「単純に仲間外れにされているもの」と表現している。組合に入るかどうかは本来自由なはずなのに、なぜ職場での不利益につながったのか。
脱退の翌月、“たった一人”が勤務体制から外れた佐々木さんは2007年4月、東京都交通局が運営する都営バスの運転手として採用され、江東自動車営業所で勤務を始めた。入局と同時に、地方公務員法上の職員団体である東京交通労働組合(以下「東交労組」)に加入。2019年10月には千住自動車営業所(以下「千住営業所」)へ異動し、路線バスの運転を続けてきた。
転機は2024年4月末である。佐々木さんは東交労組を脱退。佐々木さんは理由について「詳細については詳しくは申し上げられない」としつつ、「組合員から高い組合費を徴収しておきながら、その活動が一体誰のためのものなのか(が不透明であり)疑問に感じた。組合なのだから、組合員のために活動してほしい。そういう思いから脱退した」と述べた。
訴状によれば、その翌月から他の職員とは異なる勤務上の取り扱いを受け始めたという。
鍵となるのが「基本名刺」と呼ばれる仕組みだ。「基本名刺」とは、バス運転手の勤務ローテーションを定めたシフト表を指す。
運転手は営業所内の7つの班のいずれかに所属し、5日勤務・2日公休を基本に、早番と午後番を週ごとに繰り返す。班ごとに番号(千住営業所は1~18)が割り振られ、この番号と出勤日数の組み合わせで、どの日にどのダイヤに乗るかがあらかじめ見通せる。先々の予定を立てやすくするための、いわば職場の土台となるルールである。
3日前まで勤務が読めない“非組ダイヤ”佐々木さんはもともと6班に所属していた。ところが、訴状によれば、組合脱退後、公休を取るタイミングだけは6班と同じにされたまま、班の名簿からは外され、6班が担う勤務ローテーションからも切り離されたという。
その結果、当初は勤務の3日前になって「どの路線に乗るか」を貼り出しで知らされるまで、いつ何時に働くのか予想が立たない状態に置かれたとしている。
佐々木さんの抗議を受け、千住営業所は2025年4月、「800番台」と呼ばれる指示体制に切り替えた。
佐々木さんが“非組ダイヤ”と呼ぶこの体制は、平日・土曜・休日の各ダイヤから特定のダイヤを選んで割り当てる、実質的に本人一人のためのシフトだと原告側は指摘する。他の班が担当した後に「残ったダイヤ」が回されるため、終了時間が遅く、拘束時間の長い勤務が増えたという。
また、訴状によると、勤務の途中に長い休憩(中休)が入ると支払われる「中休手当」は、脱退前の2024年前半は高いときで7350円。ところが脱退後の同年6月支給分では1万200円へと急増し、8月まで1万円を超えたという。さらに、年末年始の有給休暇をめぐる抽選にも参加できなくなり、休暇を取る機会そのものを失ったと佐々木さんは訴えた。
「法的根拠のない差別」会見で原告側は、本件措置には法令上の根拠も労使間の協定も存在せず、合理的理由がないと主張した。柱となる法的論点は3つある。
1つ目は、憲法14条1項が定める平等原則の違反だ。千住営業所は地方自治体の一部局であり、合理的な理由なく特定の職員だけを別扱いすることは許されない、というのが原告側の立場である。
2つ目は、労働組合を選ぶ自由・団結の自由の侵害だ。都営バスの職場は「オープンショップ制」を採る。「オープンショップ制」とは、労働組合への加入・脱退を自由に選べ、組合員か否かが待遇に影響しない制度をいう。原告側は、脱退した直後に不利益な扱いが始まった経緯を踏まえ、地方公務員法52条などが保障する「組合に加入しない自由」を脅かすものだと訴えている。
3つ目が、パワーハラスメントである。他の職員が全員「基本名刺」の下で働くなか、自分だけが組み込まれない状態は「人間関係からの切り離し」にあたるとし、労働施策総合推進法が定めるパワハラの定義に該当すると原告側は主張する。
「返事も行動も何もせず黙認」原告側は、都営バスで、過去にも同種の事態があったと指摘。
2020年に品川営業所、2022年に南千住営業所で、脱退者への異なる取り扱いが問題化し、南千住のケースでは営業所長が謝罪。
2023年6月14日には、交通局の自動車部長が各営業所長あてに「オープンショップ制を定める同法違反である取扱いであり、認められるものではない」と通知していたという。原告側は、この通知に照らせば本件も速やかに是正されるべき事案だと訴えた。
佐々木さんは会見で「こういった嫌がらせ行為を受けるのは、私で最後にしていただきたい」としたうえで、次のように述べた。
「交通局の局長をはじめ、関係各所の人間も、私が告発文や申し入れ書を送り、何度も違法性の指摘と改善要求をしたにも関わらず、返事も行動も何もせず黙認している。 私のワークライフバランスをぶち壊しておいて、何事もなかったかのように仕事をしている彼らに対して、責任の所在をはっきりさせたい」(佐々木さん)
代理人の笹山尚人弁護士によれば、原告側は提訴に先立ち、2025年から交通局や千住営業所に是正を求める要望書や通知書を再三送ったが、回答は得られなかったという。被告の東京都が法廷でどう反論するかが、今後の焦点となる。
