【F1】ホンダ新型パワーユニットの実力に、ドライバーたちの声は......折原GM「スペック2が失敗だとは捉えていません」
F1第12戦オランダGPレビュー(後編)
予選Q1で2台揃って敗退という結果を、誰が想像しただろうか──。
前戦ハンガリーGPで車体の大型アップデートを投入し、タイムを縮めて中団グループで躍進を果たした。それだけに、ホンダがスペック2のパワーユニットを投入するオランダGPで、アストンマーティン・ホンダに寄せられる期待は大きかった。
だからこそ、失望はさらに大きかった。ドライバーたちの口からも、不満の声が止まらなかった。

注目のオランダGPではアロンソが9位入賞を果たした photo by BOOZY
「よくなっていることは間違いないよ。ハンガリーGPの時点でさえコーナーでは誰と比べてもほとんどタイムロスをしていなかったし、中団グループのライバルはもちろん、トップチームとの差もどんどん縮まってきている。でも、まだストレートでの差は残されている」(フェルナンド・アロンソ)
「僕らはまだ、ドライバビリティの問題とパワー不足に苦しんでいる。それが一番の問題だ。それはずっと変わっていないよ。改善を続けて、いいウインドウに入れる必要がある」(ランス・ストロール)
スペック2は間違いなく、パワーアップを果たしている。しかし、まだ新しくなった燃焼特性を飼い慣らすことができていない。
その結果、スペック1で第8戦オーストリアGPまで苦しんでいた時と同じように、立ち上がりのスロットルの踏み始めで唐突にトルクが出たり、ブレーキング時のエンジンブレーキの利きをマイルドにする制御が不安定になる。ラップごと、コーナーごとにトルクの出方が安定せず、ドライバーはマシンの限界まで攻めることができずにフラストレーションを募らせた。
350kWで発電をするMGU-K(運動エネルギー回生システム)の制動力と400kWで出力するICE(エンジン)の燃焼をコントロールし、その割合を調整することで、ドライバーがスロットルペダルを踏んだとおりのトルクを再現しなければならない。スペック1ではひとつの答えに辿り着いていたが、スペック2ではまだそこに辿り着けていないのが現実だ。
【ネックとなったスプリント週末】ホンダの折原伸太郎トラックサイド・ゼネラルマネジャー兼チーフエンジニア(GM)は、厳しい表情を見せた。
「パフォーマンスに関しては、ベンチで確認していた性能がコース上でも表れていることは確認できています。ただし、まだトップに追いつくようなステップではありません。ストレート車速などで見ると、まだライバルには劣っているのが正直なところです。
その一方で、ドライバビリティに関しても、まだ改善しなければならない部分があります。燃焼を変えたことによって、今までやってきたドライバビリティの改善手法にアップデートを加える必要があります。その準備はしてきたのですが、燃焼の変化に対してまだ十分ではありませんでした」
HRC Sakura(栃木県さくら市)でも、レース現場でも、金曜から必死に改善作業が進められた。だが、土曜の予選までにドライバーたちを満足させるレベルに辿り着くことはできなかった。
フリー走行が3回あれば、そのなかでさまざまな調整を試すこともできる。しかし、オランダGPはスプリントが開催されるウィークエンドであった。
そのため、FP1を走っただけでスプリント予選用のセッティングを固めなければならず、さらに土曜朝のスプリントレースの3時間後には予選に向けた最終セットアップも決定しなければならない。こうした走行時間の少なさも、新しいパワーユニットを使いこなすまでに至らなかった要因になってしまった。
「金曜の走り出しにドライバーからコメントをもらったあと、そのフィードバックと実走データをもとに土曜にかけてHRC Sakuraのベンチで追加のテストを行ない、予選に向けて改善策を投入しました。それによってある程度の改善は見られたんですが、安定したトルクデリバリーをドライバーに届けることはできませんでした」
それでも決勝では、マシンの限界まで攻め続けるわけではないため、まだ戦える。
そしてハンガリーGPのデータをもとに、さらなる微調整とセットアップの最適化を進めたAMR26は、コーナリング性能が安定し、タイヤに優しく、デグラデーション(性能低下)が非常に小さいマシンに進化した。
【Q1敗退に終わった本当の理由】その優位性を最大限に生かし、アロンソは前を走るライバルたちがピットインしたところからフリーエアで本来の速さを見せ、34周目まで引っ張ってからピットイン。ライバルたちがタイヤのデグラデーションに苦しんで2ストップ作戦を採るなか、アロンソはハードタイヤで残り38周を走りきる1ストップ作戦を敢行して9位を守り抜いた。
「車体に関しては、間違いなく進化が感じられたね。今週も4〜5個ほどアップデートを持ち込んで、夏休みの間にデータを分析してハンガリーGPに投入したパッケージへの理解をさらに深め、セットアップの最適化も進めてきたんだ。
それによって、車体のパフォーマンスを最大限に引き出せるようになったと思う。決勝はとてもドライブしやすくなっていたし、タイヤにもすごく優しかった。マシンのパフォーマンスもよかったし、タイヤのデグラデーションもすごく小さかった。
それらのアドバンテージは間違いなくあったと思う。車体に関しては、持ち込んだものがすべて機能してパフォーマンスを向上させてくれたと言えるね」(アロンソ)
決勝では、タイヤがほぼ同条件のガブリエル・ボルトレート(アウディ)と同等のペースで走り、アルピーヌも抑えてみせた。
実際、予選でQ1敗退に終わったのは、最後のアタックがうまくいかずにタイム更新ができなかったためだった。
本来なら路面コンディションが向上した分だけ、少なくとも0.4秒、マシンによっては0.8〜0.9秒もタイムを伸ばしている状況のなか、アロンソも同じようにタイムを伸ばせていたはずだ。それがあれば、ハースやウイリアムズのタイムを優に上回ってQ2に進み、アルピーヌやレーシングブルズと中団グループ上位を争っていた可能性は高かった。
つまり、2台揃ってQ1敗退という見た目上のリザルトや、ドライバビリティの悪さといった要素に覆い隠されていたものの、予選の時点でもっと高い実力はあったということだ。
【リザルト以上に大きな前進】決勝ではさらに、タイヤへの優しさというアドバンテージを生かし、ポイント争いに躍進した。
「最後の30周くらいはポイントが見える状況で、それを獲りにいくレース展開でした。チーム側は(フレッシュタイヤで追いかけてくる角田裕毅やピエール・ガスリーから)どうやってポジションを守るのか、我々もそこに対してどうアシストできるか、ということをずっとやりながらのレースでしたので、ポイントが獲れた瞬間はみんな大喜びでした」(折原GM)
予選では見えなかった実力を、決勝では確認することができた。
そしてスペック2のパワーユニットについても、出力の向上だけでなく、信頼性も確認できている。このレース週末のなかでトライしたドライバビリティ改善の取り組みを通じて、進むべき方向性は見えていると折原GMは語る。
「パフォーマンスの向上は確認できています。ドライバビリティの課題に対して投入した変更が想定どおりに機能していることも確認できたので、『こういう方向性に行くべきだ』ということが見えたのはよかったと思います。
もちろん、本当は一発目から100%を出しきれれば、それに越したことはなかったんですが、これから改善のプロセスをたどっていけば性能が上がっていくのは見えていますので、スペック2が失敗だとは捉えていません。これから、どんどん熟成を図っていきます」
シーズン後半戦へ向けて、そして2027年に向けて、アストンマーティン・ホンダは9位というリザルト以上に大きな前進を果たした。
米家峰起●取材・文 text by Mineoki Yoneya
