上司を問いただすと、返って来た答えは――

写真拡大

【前後編の後編/前編を読む】僕らを捨てて若い秘書と逃避行した母が、フラれてあっさり戻って来た…それでも父は「ここにいればいい」 「女性の不気味さ」を知った40歳夫が選んだ“交際ゼロ日婚”

 山片浩樹さん(40歳・仮名=以下同)は、妻の「重大な秘密」を知って以来、心に重いものを抱えているという。姉と両親の4人家族で育ったが、両親は浩樹さんの大学進学を機に離婚。母は経営していた塾を手放し、秘書と逃避行したものの、1年ほどで戻ってきた。そんな母を受け入れた父だったが、浩樹さんが大学生のときに急死してしまう。未婚のまま母親になっていた姉も含め、「女性のわけわからなさ」を感じたという浩樹さん。就職すると、2年先輩の里緒さんに惹かれ、交際ゼロ日での別居婚をスタートさせた。

上司を問いただすと、返って来た答えは――

 ***

【写真を見る】「夫が19歳女子大生と外泊報道」で離婚した女優、離婚の際「僕の財産は全部捧げる」と財産贈与した歌手など【「熟年離婚」した芸能人11人】

 浩樹さんは30歳、里緒さんは32歳。周りが言うように、ふたりとも大人である。結婚当時、浩樹さんは「友だち以上恋人未満」の別の相手がいた。ときどきデートはするもののまったく関係が進展しない。いや、進展させる気がなかったのかもしれないと彼は振り返る。

「つきあっているという認識はなかった。結婚後、その彼女から連絡が来たとき、『実は結婚したんだ、交際ゼロ日で』と言ったら、『あら、そうなの。おめでとう』で終わりでした。僕のほうはそんな感じと言ったら、里緒は『私はもともとフリーだから』って。タイミングがよかったんだなと思っていました」

 結婚していてもいつも一緒にいる必要はない、ひとりの時間も必要だというのが里緒さんの考え方で、浩樹さんも同意していた。「今日はひとりでいるわ。明日は私が行くね」と里緒さんから夕方、メッセージがあれば彼は学生時代の友だちに会ったり、あるいは自宅でひとり音楽を聴いていたりした。連絡せずに急に訪ねることは、お互いにしないという暗黙の了解があった。

妊娠しても「誰かと一緒に暮らすのが怖い」

 3年後、浩樹さんが異動になった。やはり別の部署のほうが仕事はやりやすいと彼自身が判断し、希望を出したのだ。

「同じチームにいるときはプライベートであまり仕事の話をしなかったんですが、違う部署になったら仕事の話をよくするようになりました。僕がいる部署との関連も強いので、むしろ会社全体の仕組みがよくわかってやりやすかったですね」

 里緒さんが38歳のときに妊娠がわかった。たまたま浩樹さんの賃貸マンションが更新時期だったので「どうする?」と聞くと「私はこのままのほうがいい」と言われた。同居を拒まれているのではないかとチラッと感じたが、里緒さんは「誰かと一緒に暮らすのが怖いのよ」と言った。

「その気持ちは少しわかりました。僕も里緒も大学進学と同時にひとりで暮らし始めて、もうひとりの生活に慣れている。結婚後、彼女が僕のところに来ることが多かったんですが、僕がたまに彼女の部屋に行くと、ものすごくきれいすぎて落ち着かない。潔癖症とまではいかないけど、相当なきれい好き。そのあたりもふたりが同居に踏み切れなかった原因かもしれません」

 高齢での妊娠だったが、里緒さんは特につわりもひどくなく、元気そのものだった。出産ぎりぎりまで仕事をし、産休に入って1週間ほどで出産。まるまるとしたかわいい女の子だった。里緒さんは仕事さながら、産後の計画もきちんとたてていた。実母と友人たちに手伝いを頼み、シフトも組んでいた。

「そこに僕は入ってなかったんですよ。『あなたは私と共同体だから』と言っていましたが、なんとなく寂しさは感じましたね。完全に自立して隙のない女性なんだなと。もちろん頼られすぎると、こっちも負荷がかかりすぎるけど、もうちょっと弱みを見せてくれてもいいのになとは思った」

急に里緒さんと娘に会いたくなり…ばったり出くわしたのは

 退院後はさすがに連絡なしに里緒さんのところへ行くようになった。それでも里緒さん宅には、母や友人、ときにはベビーシッターもいたりするので、どことなく居心地はよくなかった。

「やっと家族3人でいられる時間がとれるようになったのは、生後半年ほどたったころですね。ただ、新しい部署はけっこう出張が多くて、1ヶ月のうち3日くらいの出張が2、3回入るような状況でした」

 ある日、出張帰りの飛行機が大幅に遅れた。終電に間に合わなくなり、空港で30分以上も並んでようやくタクシーに乗った。急に里緒さんと娘に会いたくなった。浩樹さんは、「何かを急に思い立って行動する」ことはめったにない。

「なのに、なんでしょうね。その日に限って、なぜか急にそんな気分になったんですよ。すでに午前0時を回っていたから、里緒は寝ているかもしれない。でもこっそり入ってふたりの寝顔を見たい。翌日が休日だったからそのまま泊まってもいいしと思って行ってみました」

 里緒さんが住んでいるのは5階だ。エレベーターが降りてきて、乗ろうとすると中から人が出てきた。誰かが乗っていると想定していなかったので、おっと浩樹さんは体を引いた。「すみませんと言った人を見たら、なんと里緒の上司である課長でした。僕にとっても上司だった人。彼はすでに部長に昇進していましたが、変わらず里緒の上司だった。『どうして……』とつぶやいたら、上司もあわてて『え、きみたち、ここに住んでるの? オレの知り合いがここにいるんだよ』って。用意していたような口調でしたね。『何階の誰ですか』と言ったら答えられなくなった。どういうことなんですかと言ったら、彼は走って行ってしまった」

思えば怪しいところが…

 浩樹さんは何を思ったか、里緒さんのところへ行くのをやめて自宅に戻った。衝撃が強すぎて、そのまま里緒さんに会う気になれなかったのだという。

「そういえば僕らがノリで結婚するということになったとき、いちばん喜んでいたのは課長だった。重荷になりかけていた里緒を僕に押しつけられると思ったのだろうか、あるいはふたりとも結婚していれば不倫がうまくいくと思ったのだろうか。結婚後もずっとふたりは会っていたのか。いろいろ考えたけど、もちろん真実はわかりません。その日は一睡もできなかった」

 おそらく上司から里緒さんに連絡がいっただろう。翌日昼過ぎ、里緒さんから電話があった。

「これから行っていいかなと。3人でお昼食べようとも。玄関で迎えると、里緒はいつもとまったく同じ感じでした。出張だったんでしょ、お疲れさまと言って。僕がパスタを作り、里緒はその間、娘に離乳食を食べさせていた。バレているとわかっていながら、ああいう言動がとれるとしたら、たいしたものだと僕は里緒を見ながら思っていました」

 結局、浩樹さんは何も問いただせなかった。里緒さんも何も言わなかった。それからも変わらない生活が続いた。その間、ずっと「このままではいけない」「こんな中途半端な気持ちでは家族を愛せない」と思いながら、彼は一歩踏み出せずにいた。

「うじうじと悩みながら、父だったらどうするかなと思っていました。母が出ていってしまったとき、父は探そうとはしなかった。戻ってきたから受け入れたけど、決して自分から探してはいなかった。そういう意味では僕も父に似たのかもしれない」

ひょっとしたら娘は…

 ただ、上司と里緒さんを「共有」するのは、なんとも納得がいかなかった。里緒さんは、それほど上司への執着が強かったのか。周りの同僚たちはみんな知っていたのだろうか。まるで自分がピエロだなと思った。屈辱は人を頑なにする。

「僕は浮気というものはしたことがなかったんです。二股をかけたこともない。それは潔癖でありたいというわけではなくて、めんどうだから。嘘をついたり取り繕ったりするのが苦手だし。考えれば里緒は、計画的なタイプだから、そのあたりもうまくやれるのかもしれませんけど」

 ひょっとしたら娘は上司の子かと疑ったが、そこまでは考えたくなかった。

 ずっと話せないまま時間がたったが、その間、里緒さんは「尻尾を出さなかった」という。「あの日はただ里緒に会いにきただけなのかもしれないと僕も、記憶を塗り替えようとしていました。そして半年ほどまえ、その上司が別の女性とホテルに入っていくのを偶然、見てしまったんです」

上司を問いただすと…

 翌日、浩樹さんはかつて直属の上司だった彼を社内でつかまえ、時間を作ってほしいと頼みこんだ。その日、ふたりは小料理屋の個室で対峙した。

「先日、ホテルへ行ったのは誰だと聞いたら、『それはプライベートだから話せない』と。里緒とはどうなっているのかと言うと『もともと個人的な関係はない』と言い張る。あの日、どうして家に来たのか聞いても、本当にあのころは知り合いがいたんだと。わかった、里緒に電話すると言ったら、ようやく観念したみたいでした」

 あっさり不倫関係を認めて頭を下げてくれれば、そのまま帰るつもりだった。許せる話ではないが、今さらふたりを責めてもどうにもならないからだ。だがその上司は、観念したように見えて、まだ自分をさらすことはしなかった。

「里緒とは遊びだったと言い張ったんですよ。きみには悪いが、もともと自分は離婚するつもりはなかった、プレイを楽しんでいただけだって。プレイって何だよって話ですよね。里緒には仕事もアッチも教え込んだんだよと。子どもを生んだ里緒に急に興味をなくし、里緒からは連絡が来ていたがいっさい会わなかった。あのとき里緒の部屋へ行ったのは、里緒が『今日中に会えなかったら死ぬと言ったからだ』って。里緒はそんなことを言う女ではない。すごくバカにされているような気がしてだんだん怒りがわいてきて……。ついには上司を一発殴って退場しました」

 そんな卑劣な上司ではないと思い込んでいた自分にも腹が立った。里緒さんに妙な同情がわいた。

里緒の様子がおかしい

 だがそれから数日後、その上司が会社を辞めたと知った。自分の悪事がバレないようにさっさと逃げたのだと浩樹さんは思った。仕事への情熱すら失いそうになっていた。

「その後、ちょっと荒れたんですよ、僕。もう誰も信じられなかった。ふらふら繁華街を歩いて風俗にはまって……。なじみの子ができて、本気でその子と一緒にどこかに逃げてしまおうかと思ったくらい」

 ある日、娘に会いにいくと、保育園で描いた絵を見せてくれた。「パパとママ」と書いてあり、自分自身を含めた3人が屈託なく笑っていた。

「それを見て、もうとらわれるのはやめようと思いました。その後、例の上司が出家したと知りました。親しくしていた社内の人間からの情報でした。その日、里緒のところに行ったら、ちょっと様子がおかしかった」

 彼は気づいた。上司がわざと悪役を買ってでたことを。それは里緒さんを守ろうとしたのではなかったか。上司は浩樹さんの性格もわかっているはずだ。自分が「遊びだった」と言って悪役になれば、少なくとも里緒さんに危害は及ばないと察していたのではないだろうか。

「里緒は何も言わないし、僕ももう聞く気はありません。荒れた気持ちもおさまり、風俗通いもやめました。どうせなら娘が喜ぶことにお金を使いたい」

 すっきりしたわけではないが、この重さを抱えたまま人生を歩んでいくしかないのだという気持ちになりつつある。今年中には、「家族3人で同居する予定です」と、浩樹さんは少し哀しい笑みを浮かべながら、口調だけははっきりとそう言った。

 ***

 里緒さんを問いただすことなく、重さを抱えたまま「家族」でいると決めた浩樹さん。記事前編では、彼が育った家庭と、夫婦のことは夫婦にしかわからないと考えるようになった背景を紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部