「小泉進次郎大臣が覚醒」保守層の評価が反転 ポスト高市への“隔岸観火”の舞台裏を解説

2026年8月15日、高市早苗氏が総理として初めて迎えた終戦の日。立っていたのは、全国戦没者追悼式が行われる日本武道館の駐車場だった。わずか数百メートル先の靖国神社に向かって、二拝、二拍手、一拝の「遥拝(ようはい)」を行った。
「ずっと参拝を続ける」としていたが…
保守を自認する高市氏は、2022年にこう言っていた。「(総理になっても)ずっと参拝を続けたい思いだ。途中で参拝を止めたり、中途半端なことをするから、相手がつけあがる面はある。どんなに批判されても淡々と続ける」。
最終的に参拝せず、中国などに配慮した形となったが、遥拝したことを発信する姿に高市総理の苦悩がにじむ。
初当選以来、毎年8月15日に参拝してきた小泉進次郎防衛大臣も姿を見せた。しかしこれまでと意味が違う。ジャーナリストの青山和弘氏は「現在の日本の実力組織・自衛隊のトップである防衛大臣が、戦前、軍国主義の中心的な施設だった靖国神社に参拝する意味は、ほかの閣僚とは比べ物にならない」と語る。
“前例”を駆使して「ぶれないアピール」
ただ現職の防衛大臣として、2024年に木原稔氏が参拝していた。現在の官房長官で、高市総理の最側近だ。今回進次郎氏が参拝について相談すると、木原氏はこう言ったという。「私が前例を作っておきました」。
中国外務省や韓国国防省は抗議したが、かくして防衛大臣は自分の足で靖国神社に赴き、総理は代理を立て遠くから手を合わせた。青山氏は「『自分はぶれない政治家だ』とアピールする、格好の機会と考えたのだろう」と見る。
青山氏によれば、進次郎氏は周辺に強気の姿勢を見せたという。「防衛大臣になったからこそ、参拝は続けるべきだった。国のために亡くなった人に手を合わせるべきだ」(進次郎氏)。
敵陣から火が上がっても攻めない
一方で進次郎氏は次の総裁選への意欲を語っていない。そしてこの1年、高市総理の批判を一度もしていない。
「兵法三十六計」に「隔岸観火(かくがんかんか)」という言葉がある。岸を隔てて、火を観る。敵の陣から火が上がったとき攻めない。内側から崩れるのを対岸でじっと待つ。対岸で燃えているのは、高市総理だ。
始まりは2025年10月4日、自民党総裁選の決選投票で、高市氏185票、進次郎氏156票を獲得したこと。足りなかったのは党員票。その多くが保守層の支持だ。ではこの1年、何が変わったのか。
「バッシング→拍手」保守層からのイメージ変化
2025年の総裁選では、進次郎氏をたたいていたのは保守層だった。ところが今、その層が支持に回りつつあると青山氏は言う。「『進次郎氏は覚醒した』などと保守層の評価は完全に反転した。進次郎氏本人はその変化に『自分は変わっていないのに』と驚きつつも、悪い気はしないようだ」。
以前はリベラル的な立ち位置であった進次郎氏だが、このところ保守層が喜びそうな言動が増えている。その言動は8月15日だけではない。参拝のあと小泉大臣は取材に応じず、Xに書いた。しかも通信社の記事を引用し、批判する。
「なぜ日本のメディアが外国政府から提供された写真で、このような内容の記事を配信するのか理解不能」。このポストは1000万回以上表示され、「メディアへの圧力だ」という批判も出た。一方でこの投稿は、かつて「進次郎構文」とやゆしていた層から拍手で迎えられた。
核に踏み込む発言連発
7月17日、小泉大臣はネット番組「言論テレビ」に出演。対談の相手は保守論客の櫻井よしこ氏で、「日本にとって議論するのが非常に難しい課題だが、触れざるを得ないのは、1つは核だ」と発言した。
また、5日後にも「あらゆる政策をタブーなく議論し進めなければならない」と話し、非核三原則の見直しを示唆したとも受け取られた。
会見ではこう補足した。「防衛政策に関する一般論として、あらゆる選択肢を排除することなく、国民の皆様に丁寧に説明しながら議論をしていくことが重要である」。
一連の発言に対しては、長崎の被爆者団体など32団体が抗議声明を出した。
「進次郎氏は官邸サイドともやり取りしたうえで、核に対する高市政権の自由度を高める役割を果たしている」(青山氏)
「反高市ではない」の印象づけ
総裁選は、議員票でも決まる。2025年の決選投票では、その差わずか4票だった。誰が誰に入れるのか。それを先に押さえておく必要がある。派閥の多くが解散したいま、その受け皿になっているのが「勉強会」だ。
今年5月21日、「国力研究会」が発足した。発起人は麻生太郎副総裁、茂木敏充外務大臣ら。そこに進次郎氏の名前がある。自民党国会議員の8割以上(347人)が入会し、高市政権の政策を推進する、表向きは「支える会」だ。
ただしこの名簿は、来年の総裁選で、そのまま票読みの名簿になる。進次郎氏は麻生氏と同じテーブルに座った。なお去年の総裁選で麻生派は高市氏を推した。
これを青山氏は「『自分は反高市ではない』。麻生氏も認め、高市総理の後継にもなれる政治家だと強く印象付けた」と読む。官邸は、この動きに気づいているという。
かつての遺恨も…ヤジには援護射撃
青山氏によれば今年3月、イラン情勢への対応を巡る関係閣僚会議で、内閣官房から防衛省にこんなメールが届いていた。「防衛大臣は発言等求めず出席のみをお願いする」といった内容だったという。
外務大臣にも経産大臣にも、そんな連絡はない。防衛大臣だけだ。つまり「スタンドプレーは慎め」「余計なことを言うな」ということだ。
進次郎氏はこれについて何も言及していない。それどころか、6月の沖縄全戦没者追悼式で、高市総理の追悼の辞にヤジが飛んだとき、Xに書いたのは進次郎氏だった。「あいさつ中の高市総理に対するヤジは残念なものでした」。
もっとも2人には遺恨がある。2025年の総裁選、小泉陣営が用意した文例に、高市氏を指すとされる「ビジネスエセ保守」があった。一方で今年、追及されているのは高市陣営の側だ。進次郎氏らを中傷する動画を作り拡散した疑惑。総理側は、疑惑を否定している。
国旗損壊罪、皇室典範、消費減税…
岩盤支持層に向けたとされる法律がある。国旗損壊罪だ。世論調査では賛成が上回ったが、議論も尽くされず、立法事実がないという批判のなか数の論理で通した。
法律が施行されると、SNSにこんなハッシュタグが並ぶ。「#国旗損壊チャレンジ」。ネットでは、あえて国旗を損壊するかのような動画が投稿され、法律の是非を問う現象が起きた。
ある自民党議員は「こんな法案がなぜ必要なのか、いまだに分からない。維新と保守派へのアピール以外の何物でもない」と語っていた。
皇室典範改正法問題でも、衆参による「立法府の総意」を反故(ほご)にする形で、議論は尽くされず、なかば強引に採決した。
暮らしのほうは、どうか。高市総理は、1月の衆議院解散表明会見で「(減税は)私自身の悲願でもありました」と発言。しかし選挙の街頭演説では一度も触れなかった。
食料品の消費税を来年4月から1%にすることを閣議決定。そのあいだにも円安は進み、長期金利は1996年以来の高さになった。住宅ローン金利が上がる、物価高が続く。そして、あれだけ支持されていた人の一挙手一投足がたたかれ始めている。
熊本地震で批判殺到、期待感が薄れている?
7月28日、熊本を震度7が襲った。高市総理が現地に入ったのは8月3日。その日のうちに、官邸が動画を出した。なぜか全編にピアノが流れる。この動画には批判が殺到した。
作家の平野啓一郎氏はXで「何でもかんでも首相のプロモーションビデオの素材にしていい訳ないだろう。アホか」と苦言。木原官房長官は「被害の状況を視察した際の様子を国民の皆様に分かりやすくお伝えする必要がある」と説明した。
圧倒的だった支持率は下落している。7月に行ったANN世論調査では、内閣支持率が6月の60.1%から、7月には49.2%と、11%近く下落。朝日新聞の7月の世論調査では特に30代の女性の支持率が急落し、2025年10月の85%から、今年1月の88%を経て、7月には48%へ。新しいうねりを期待し支持したであろう層が離れ始めている。
青山氏は「一言でいえば『政治を変えてくれるのではないか』という、高市総理への期待感が薄れてきている」と指摘する。
チーム再建&ライバル対策…どうなる内閣改造
歴代の総理が朝にやってきた答弁の読み合わせを、高市総理はやらない。中傷動画疑惑の質問通告が前日の昼に届いていたのに、総理が知ったのは、翌朝3時30分だという。「ほとんど睡眠もとっていません」の答弁にはそんな背景があった。
青山氏の取材では、自民党幹部からこんな声を聞いている。「高市さんはもうちょっと根回しや妥協も覚えないと、周りがついていけない」。
今後の焦点は、来月に行われるとみられる内閣改造と党の役員人事だ。誰をどこに配置するか。人事では秋の臨時国会に向けて、調整力不足が露呈した「チーム高市」の立て直しが急務だが、一方で来年の総裁選を見据えたライバルの取り込みなど、どう布石を打つかも焦点になる。
しかし、内閣からあえて出たいという声もあるという。「林芳正総務大臣は周辺にそろそろ閣外に出たいと漏らしているようだ」(青山氏)。
焦点は総裁選を最後まで争った進次郎氏をどこに置くのか。「抜群の発信力を持つ進次郎氏は、高市総理にとって警戒すべき存在」。留任させればさらに実績を積み、閣外に出せば総裁選に向けて自由に動けるようになる。どちらにもリスクがある。
高市総裁の任期は来年9月末まで。無投票での再選を狙っているとされる。一方、進次郎氏の1年は、「派閥をつくらない」「防衛大臣として靖国参拝」「X投稿」「核に触れる」「勉強会の名簿に名前を並べる」、そして総理批判は一度もしていない。
官邸に発言を封じられても黙っている。ヤジが飛べば総理をかばう。火は対岸で燃えているが、水をかけない。あおりもしない。ただ静観しているように見える。まさに「隔岸観火」。岸を隔てて、火を観ながら、足りなかった25票を埋めようとしているのか。
「内閣支持率の低下傾向が明らかな今、来年の総裁選に向けた水面下の駆け引きはもう始まっている」(青山氏)
(『ABEMA的ニュースショー』より)
