(※写真はイメージです/PIXTA)

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「離れて暮らす親」をどう支えるか。考えなくてはいけないのに、つい「後回し」にしてしまいがちな問題のようです。「元気だよ」という親の言葉を鵜呑みにした結果、心身の変化に気がつくことができず、大きなトラブルに発展してしまうケースも少なくありません。本記事では事例をもとに、高齢の親を支える「事前の対策」と「これからできること」について、CFPの山粼裕佳子氏が解説します。

月1回の電話では「元気だよ」と返事…90歳母の安否確認をする65歳息子

「もしもし、母さん。元気? その後、変わりない?」

ミツルさん(仮名・65歳)は、大分県に住む母・マサヨさん(仮名・90歳)に、「安否確認」の電話を毎月1日に必ずかけることにしています。

ミツルさんは、18歳まで実家で両親と暮らしていましたが、大学進学を機に上京。そのまま関東で就職しました。

28歳のとき社内結婚をして、一男一女をもうけました。その後、神奈川県の郊外に4LDKの建売住宅を購入。住宅ローンはすでに完済しています。

大分の実家では、15年前に父が亡くなりました。以来、マサヨさんは一人暮らしを続けています。ミツルさんから見たマサヨさんは、元小学校教師をしていたこともあってか、「聡明でとてもしっかりした人」という印象でした。

マサヨさんは、昔から「こっちは大丈夫だから。あなたは自分の家族を守りなさい」と、口癖のように繰り返しました。父が亡くなったあとも、そのスタンスは変わりませんでした。

父が他界した際、マサヨさんには月額19万円の年金収入があり、預貯金も2,000万円ほどあると聞いていました。金銭的な心配はないと考えたミツルさんは、実家に帰省する頻度が徐々に減っていきました。

物理的に距離があることもあり、1年に1回の帰省が徐々に減り、気づけば最後に母の顔を見たのは3年前となっていました。月に一度の電話では毎回、「元気だよ」という言葉が返ってきていたため、すっかり安心していたのです。

3年ぶりに実家へ帰省も…待ち受けていたのは「荒れ果てた庭」

マサヨさんが90歳の誕生日を迎えるというタイミングで、ミツルさんは帰省する決心をしました。

マサヨさんに電話で帰省する旨の連絡を入れると、「あーそう、わかったわ」と、このときは特に変わった様子は感じませんでした。

数日後、予定通り実家へ到着。すると、まず最初に目に飛び込んできたのが「荒れ放題の庭」でした。3年前に帰省したときは、庭は綺麗に整えられて、玄関前ではマサヨさんがガーデニングを楽しんでいる様子が見られたのです。ところが、今目にしているのは雑草に覆われた石畳です。

なんとなく嫌な予感を抱きつつ、「ただいま。母さん、今着いたよ」と玄関の扉を開けると、ミツルさんはさらなる異変を目の当たりにしました。

空白の3年間に母を襲っていた“まさかの悲劇”

目の前に飛び込んできたのは、高く積み上げられた段ボールとゴミ袋の山だったのです。急いで靴を脱ぎ、居間へ向かうと、不思議そうにこちらを見つめるマサヨさんと目が合いました。

「どうしたの、急に来るなんて……びっくりしたよ」

どうやら、先週電話で帰省を伝えたことはすっかり忘れているようです。さらに、シンクには洗われていない食器が山積みになっていました。

「家がずいぶん荒れているみたいだけど、どこか具合でも悪いの?」とミツルさんが問い詰めても、「別に……元気だよ」と、電話口で聞くのと同じ言葉が返ってくるばかり。

ふと食卓に目をやると、マサヨさんの財布が無造作に置かれています。中を確認すると、小銭と共に大量のレシートが押し込まれていました。

「母さん、たしか家計簿つけていたよね。ちょっと見せてくれない?」

「家計簿なんてつけてないよ」というマサヨさんの空返事に、いよいよ違和感を覚えたミツルさんは、通帳を確認することにしたのです。すると、2ヵ月前に300万円も引き出されている形跡を発見しました。

問い詰めると、マサヨさんは「銀行員を名乗る男に一時的にお金を預けた」と口にしたのです。詐欺にあったことは明白でした。ミツルさんは予定を変更して、その日から2週間あまり実家に滞在することにしました。

母と一緒に警察へ出向いて被害届を出しつつ、「健康診断をしておこう」と母に言い含めて、この地域で一番大きな総合病院へ連れて行きました。

一通りの検査を終え下された診断は「認知機能の低下がみられる」とのことでした。しっかり者の母が、詐欺行為に気づかなかったのはそのせいだったのでしょう。

ミツルさんは、電話口での母の「元気だよ」という言葉を過信しすぎてしまったことを深く悔いています。「定期的に母親の元を訪ねていれば、もっと早く異変に気づくことができたのに」と、自分を責めています。

【CFPの助言】離れて暮らす親の“異変”に気づくには?

健康寿命が延びている一方で、65歳以上の認知症およびMCI(軽度の認知機能低下)の有病率は増加傾向であることがわかっています。

普段、親とのコミュニケーションが頻繁でない場合、「親の異変に気がつかなかった」というケースは少なくありません。認知機能は一気に低下するのではなく、少しずつ変化していくため、離れて暮らしている家族ほど気づきにくいものです。

毎月定期的に電話をすることは一定の効果はありますが、「元気?」「元気だよ」というやりとりだけでは、生活の変化をすべて把握することは難しいことがわかります。

たとえば、もう一歩踏み込んだ具体的な質問「今朝は何を食べたの?」「昨日は何してたの?」「何か困っていることはない?」など具体的に聞いてみることで、小さな違和感や認知機能の変化に気づくきっかけになることがあります。

普段、筆者自身が相談を受けていて感じることは、「自分の親は大丈夫」という思い込みを持っている相談者が少なくないことです。もちろん、親が歳を重ねていることはわかっていても、「変わらずにいてほしい」という願望が「まだ、大丈夫」という希望的観測に変換されてしまっているのかもしれません。

口座凍結の前に…親が元気なうちに家族でできる「お金の対策」

高齢者を狙った特殊詐欺が横行している昨今、親が元気なうちに財産管理について、親子で話し合っておく必要があります。

たとえば、金融機関の取引通知を家族も確認できるようにしたり、ATMの出金限度額を見直したりする方法はすぐにできる対策です。

同時に預貯金、年金、生命保険、不動産など、親の資産を家族が把握しておくことも大切です。

認知機能の低下を金融機関が把握すると口座が凍結されてしまい、家族であっても自由に資産を移動できなくなる可能性があります。医療費や介護費用など親自身の支出であっても自由に出金できないこともあるため、元気なうちに何らかの対策を講じておくことが望ましいです。

銀行預金は、「予約型代理人サービス」の利用により、あらかじめ登録した代理人により入出金、振込、解約などが可能になります。

民間保険では、「指定代理請求制度」や「契約者代理制度」を利用することで、保険金の請求や解約などを代理人が行うことができます。

財産全般を任せたい場合は、本人に認知能力があるうちに、子どもなどを「任意後見人」として選任し公正証書で契約しておくこと。これにより、不動産売却を含めた契約の代理が可能になります。

家族で話し合う「将来の備え」…親子双方の安心を守るために

マサヨさんには、月19万円の年金と2,000万円の預貯金があります。現時点で一定の経済的余力があるため、今後は「本人の生活のために、資産をどう使うか」を考える段階です。

近くの「地域包括センター」などに相談をして、どのような介護サービスが受けられるか確認をしてみましょう。

一人暮らしを続けるのであれば、訪問介護や在宅サービスを利用する方法があります。また、将来的には施設への入居も選択肢です。

「親が元気なうちに、将来のことを話し合う」ことは、親の大切な財産を守りながら、子ども自身の老後生活を守るためにも必要な準備です。

「大丈夫でなくなったら、どうするか」を、あらかじめ家族で考えておくことが、親子双方の安心につながります。

山粼 裕佳子
FP事務所MIRAI
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
CFP®