荷物の配達を担うウラディスラブ・クリサ(左)とワレリー・ビノクロフ(7月27日、ウクライナ北部チェルニヒウ州で)=武藤要撮影

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 【キーウ=倉茂由美子】ロシアによる侵略が続くウクライナでは、露軍の激しい攻撃にさらされる地域に残る高齢者らのため、食料や薬の配達まで担う郵便配達員が生命線となっている。

 露軍はそんな最後の住民サービスも絶とうと、配達員たちを標的にしている。

 「住民が1人でもいる限り、行かなければ。見殺しにできない」。ウクライナ北部チェルニヒウ州で、国営郵便「ウクルポシュタ」の配達員ウラディスラブ・クリサ(54)とワレリー・ビノクロフ(51)は、自らを鼓舞するように話した。

 2人は同州の露国境に近い八つの村を担当する。露軍の無人機(ドローン)が頻繁に飛来し、国境付近から戦車の砲弾も飛んでくる。2人は郵便を届けるだけではなく、年金の支給、薬や新聞の配達も担う。村には店がなく、水や缶詰などの食料品を積んで「移動スーパー」の役目も果たす。停電が続けば携帯電話の充電まで請け負う。

 だが、その頭上は常に狙われている。5月下旬、クリサは配達車内に設置された画面に、自分たちの車が映っているのを見た。無人機から発信される通信を傍受し、無人機がとらえた映像を映し出す機器だ。「今、追われている」。猛スピードで走り、振り切ろうとしたが、無人機は執拗(しつよう)に追いかけ、画面に車が映り続けた。「もう無理だ」と思った瞬間、爆発でフロントガラスが砕け散った。無人機は車ではなく木に衝突したため、軽傷で済んだ。

 2週間後には、ビノクロフが郵便局を出発するため車に近づくと、ブーンと音がして上空にFPV(一人称視点)無人機が待ち構えていた。「まずい」と体を車にすべりこませたと同時に爆発がおき、左半身が血だらけになった。

 2人は声をそろえる。「配達は、いつも死と隣り合わせだ」(敬称略)

バスにも攻撃、飛び降り回避

 ロシアによる侵略開始以降、ウクライナで郵便局は攻撃の標的となってきた。物流や市民生活の妨害が目的とされ、今年2月時点で郵便局47か所と配達車両418台が攻撃を受け、従業員45人が死亡した。その後も被害は増え続けている。

 国営郵便「ウクルポシュタ」の配達員ウラディスラブ・クリサ(54)とワレリー・ビノクロフ(51)が担当する北部チェルニヒウ州の露国境沿いでは、侵略当初、大きな被害はなかったという。だが、次第に砲撃や空爆が増え、決定的に状況が悪化したのが2年ほど前に露軍が無人機(ドローン)を使い始めてからだ。

 元々は14の村を担当していたが、そのうち六つの村は破壊されて消滅し、今は8村だけになった。避難できる人は去り、各村には行き場も、金もない人が数人ずつ残るだけだ。

 できるだけ力になりたいと思う一方、中には親露派の住民が1人で残る村もあり、「露軍を待ちわびる人にウクライナの年金を渡すため、命をかけて通う意味があるのか」と疑問に思うこともあるという。

 それでも、配達に行った時の皆のうれしそうな表情を見ると、使命感がよみがえる。電気や通信が途絶えた村では、クリサらの話や配達する新聞が唯一の情報源で、「今、村の外では何が起きているの?」と質問攻めにあう。お礼に貴重な食料で昼食を用意してくれたり、牛乳を振る舞ってくれたりする住民もいる。

 最近までこの地域の住民だったテティアナ・チュプリチ(75)は、「周囲が次々に焼き払われて恐ろしい光景になる中、2人が週2回訪れてくれるのが、唯一世界とのつながりで、心の支えだった」と感謝する。

 クリサは「いつまでこの仕事が続くかわからない」と言いつつも、「きっと明日もあさっても車を走らせているだろう」とほほえんだ。

 東部の前線に近い町では、鉄道の運行が中止され、民間のバスが長距離移動の唯一の手段となっている。多数の人が乗り合うバスも、攻撃の標的となる。

 8月上旬早朝、キーウのバス乗り場に、大きな荷物を手にした人たちが次々と集まってきた。運転手のドミトロ・シソエフ(51)はハンドルを握り深呼吸をした。これから約12時間かけて、東部ドネツク州クラマトルスクまで向かう。行く先々で無人機が待ち構えているはずだ。

 同州コスチャンチニウカ出身で、工場の送迎バスの運転手だった。2022年秋、近郊で戦闘が激化したのを機に家族でキーウへ逃れた。東部への路線は危険だが、やっと得られた運転手の仕事は生活に必要だった。

 バスの運行には戦況の変化が如実に表れる。前線が押される度に人々は西へ逃げ、通れない道も増える。給油所も攻撃され、毎回安全なルートを見極める必要がある。

 だが、空からの危険は予知できない。6月には、追いかけてきたFPV無人機が車体の下に潜り、爆発。シソエフは直前に運転席から飛び降り助かったが、車体は損傷した。立ち往生すれば次の攻撃が来るため、パンクしたタイヤで走り続けた。「アクション映画のような光景が、日常にある」

 それでも、バスで繰り広げられる人間模様には心を動かされる。遠ざかる自宅をいつまでも見つめる高齢者の避難民。前線の兵士と再会し抱き合う恋人たち。ペットだけでも安全な場所にと犬を預ける人。徴兵事務所の検問で、バスから降ろされ軍に徴用された男性もいた。「感情は様々だが、乗客たちはいつも泣いている」

 だから乗客がいる限りは、運転手を続ける。そして「何も話しかけず、運転席からそっと見守りたい」。(敬称略、倉茂由美子)