大学教授がおすすめする“夏休みに読みたい名作文学”。「人間失格」「老人と海」のあらすじと読み方も
教科書で読んだ作品や、タイトルだけはよく耳にする世界の名作も、「どんな話だった?」と聞かれると意外と思い出せないもの。今回は、『きみの心を強くする名作103』を監修する明治大学文学部教授の齋藤 孝先生に、子どもと一緒にぜひ読んでほしい名作「人間失格」「老人と海」について教えてもらいました。子どもの夏休みの読書感想文にはもちろん、大人にとっても新たな発見があるかもしれません。

お坊ちゃんでもコンプレックスだらけだった太宰治
『人間失格』や『走れメロス』など、数々の名作を残した太宰 治。その人生は、決して順風満帆なものではありませんでした。太宰の半生や作品が生まれた背景を知れば、物語の印象も少し変わるかもしれません。
●生まれながらのスーパーエリート
太宰治は、じつは青森の大地主の家に生まれた、けっこうなお坊ちゃんでした。家は広い土地と財産をもち、使用人もたくさんいるという、絵に描いたようなお金もち。
普通ならうらやましがられる立場ですが、太宰本人はそんな恵まれた環境がずっとしっくりこなかったようです。そのため「自分はこの家にいていいのだろうか」という違和感を、子どものころからずっと抱えていました。
●挫折続きの日々で、私生活もハチャメチャ
太宰の青春時代は、はっきり言ってうまくいかないことだらけでした。大学にはなんとか入学したものの、授業にはほとんど出席せず、卒業できないまま中退。憧れていた作家としての評価もなかなか得られず、「自分にはなんの価値もないのでは」と悩むことに。エリートな家に生まれつつも、じつは失敗の連続だったのです。
仕事や学業だけでなく、太宰のプライベートもかなり波乱万丈でした。お酒や薬に頼ってしまう時期もあり、借金を繰り返したことも。さらに女性との恋愛関係でもいろいろなトラブルを抱え、何度も思いつめてしまう出来事がありました。
●苦しみをそのまま物語にした人
しかし、こうした生きづらさや失敗の数々を、太宰は隠すどころか、堂々と作品にぶつけました。「かっこいい自分」ではなく「弱い自分」をそのまま見せることで、作品を生み出したのです。
39歳の若さで太宰は自ら命を絶ち、この世を去りました。しかし、生きづらさを最後まで抱えつつも、その苦しみを正直に書き続けたからこそ、太宰の作品は時代を超え、たくさんの人から共感され続けるのでしょう。
生きづらさを描いた『人間失格』
太宰 治の代表作として、長く読み継がれてきた『人間失格』。人とうまく関わることができず、道化を演じながら生きてきた主人公・大庭葉蔵が、苦悩や挫折を重ねていく姿を描いた物語です。
『人間失格』のあらすじを、イラストと一緒にご紹介します。

人への恐れや孤独を抱えながら、どうにか周囲になじもうとする葉蔵。しかし、酒や女性に頼るうちに、その人生は少しずつ崩れていきます。葉蔵がなぜここまで追いつめられていったのか。その心の動きにも注目しながら、物語をたどってみてください。
自身も戦争を体験したヘミングウェイ

『老人と海』『武器よさらば』など、数々の名作を世に送り出したアメリカの作家、アーネスト・ヘミングウェイ。彼の人生も、波乱万丈なものでした。
●19歳で志願して、イタリアの戦場へ
ヘミングウェイは19歳のとき、第一次世界大戦の真っただ中に、地方紙の見習い記者をやめ、自ら志願してイタリアの戦場に向かいました。
本当は兵士として戦いたかったものの、目が悪いという理由で不合格に。それでもあきらめきれず、ケガをした兵士を助ける赤十字の救急車運転手として、なんとか戦場にたどり着いたのです。「文豪」というより、まるで映画の主人公のような若者時代を送っていました。
●大ケガを負いながらも仲間を助けた
ところが戦場に着いてわずか数週間で、ヘミングウェイは大事件に巻き込まれます。負傷兵を助けようとしていたところ、すぐ近くに砲弾が落ち、その破片が体じゅうに突き刺さるという、命に関わるほどの重傷を負ってしまったのです。
最終的に200か所近い傷を負っていたといいますから、想像するだけで痛そうです。それでも本人は、自分よりひどいケガをした仲間を先に安全な場所まで運ぼうとしたというから驚きです。病院では何度も手術を受け、長いリハビリ生活を送ることになりました。
●戦場の記憶が名作を生んだ
このときの強烈な体験は、ヘミングウェイの心に一生残りました。彼の作品には「死」や「勇気」、そして戦争のむなしさが繰り返し描かれます。
じつは退院後、戦場で出会った看護師に恋をして結婚の約束をしたものの、結局その恋は実りませんでした。そんな戦争と恋の苦い経験と痛みをもとに書かれたのが、戦争小説の名作『武器よさらば』です。
実際に戦場で重傷を負い、大切な人との別れも経験したからこそ、戦争が人から奪うものをリアルに描き、文学史に残る物語を生み出すことができたのでしょう。
『老人と海』
ヘミングウェイの代表作として、世界中で長く読み継がれてきた『老人と海』。年老いた漁師サンチャゴが、たった一人で海へ出て、巨大なカジキとの壮絶な戦いに挑む物語です。
『老人と海』のあらすじを、イラストと一緒にご紹介します。

何日も魚が釣れない不運が続いても、決して諦めないサンチャゴ。ようやく出会った巨大なカジキと、何日にもわたって力の限り戦い続けます。自然の厳しさや、生きることの苦しさを描きながら、そのなかでも誇りを失わず立ち向かう人間の強さを描いた作品です。
サンチャゴはなぜ、傷つき疲れ果てても戦い続けたのか。その姿に込められた「人間の強さ」とはなんなのかにも注目しながら、物語をたどってみてください。
