「TOEIC900点」にはもう意味がない…本物の英語力を求める企業が導入し始めた"もう一つの試験"の名前
■「AIで英会話を勉強」する人の末路
最近、ChatGPTや音声AIアプリを使って「AIで英会話を勉強する」という方法が流行っています。
安価で、いつでも、気兼ねなく話せるAI英会話は、確かに画期的です。しかし、これはあくまで英会話学習の「手段」の話に過ぎません。
その先の未来、特に「出口(目標設定)」まで意識できている人は、実は非常に少ないように感じています。
英会話学習をする人のほとんどは、次のような壁にぶつかります。
「始めたのはいいけれど、いま自分はどれくらい上達しているんだろう?」
「一体、どこまでやればゴールなのだろう?」
特に「AIを使った英会話」から始めた人ほど、実はやめる理由を見つけやすい傾向にあります。「どうせ無料(あるいは安価)だから、いつでもやめていいや」と、あっさりと挫折してしまうのです。

■暗いトンネルを遅々として歩いていくだけ
確かに、学習の成果を感じられる瞬間はゼロではありません。旅行先で英語が通じた、インバウンドの観光客に道案内できた、仕事の英語プレゼンがうまくいった……などなど。
しかし、これらはすべて「主観的な満足感」のレベルにとどまります。「具体的で客観的な数値目標」がない学習は、手応えを感じにくく、モチベーションを維持するのが極めて困難です。
「無料だから」「手軽だから」という理由だけでAI英会話に飛びつくのは、出口の見えない暗いトンネルに自ら入っていくようなものなのです。
対面のスクールやオンライン英会話に通っている人であっても、目標が曖昧なままだと、やがて惰性で続けるだけになってしまいます。
■「勉強ができない子」と「できる子」の決定的な違い
以前、ある学習塾の先生による、「勉強ができない子」と「勉強ができる子」の違いについてのとても興味深い話を見聞きしました。
どちらの子も、勉強に対する意欲は十分にあるという前提です。しかし、たとえば数学のテストで平均点しか取れなかったとき、両者の「目標設定」に差が生まれます。
・勉強ができない子:「数学の成績がもう一つだったから、次はこれまで以上に勉強時間を増やして頑張る!」(精神論・曖昧な目標)
・勉強ができる子:「数学が平均点だったので、次の10月の公開模試で偏差値60を取れるように、毎日食後の夜8時から9時までの1時間、問題集を5問ずつ解く」(具体的・定量的な目標)
要するに、両者の違いはやる気でも地頭の良さでもなく、単に目標設定が「極めて具体的であるかどうか」に尽きる、ということでした。(※1)
僕はこの話を読んでハッとしました。子供の勉強に限らず、大人の英会話学習にも完全に当てはまると思ったからです。
■「TOEIC(L&R)」「英検」では不十分
では、既存の英語試験で、「英会話力」を客観的に数値化でき、目標設定に使えるものはあるでしょうか。
日本で代表的な試験といえば「英検」と「TOEIC(L&R)」の2つです。しかし結論から言うと、これらは「英会話」の指標としては不十分です。
まず英検は、一次試験で「読み書き」、二次試験で「面接(話す)」がありますが、基本的には英語の「総合的な基礎力」を測るためのものです。英会話に特化した試験とは言えません。
そして、多くの企業で最も重視されている「TOEIC(L&R)」。これはその名の通り、Listening(聴く)とReading(読む)の試験であり、「話す(Speaking)」プロセスが一切含まれていません。こちらも英会話力の指標とするには心許ないでしょう。
実際、僕自身もかつてTOEIC(L&R)で900点以上(935点)を取得しましたが、その時点ではまったくと言っていいほど英会話ができませんでした。

(※1)実は、このエピソードはアメリカの心理学者ロックが提唱した著名な「目標設定理論(Goal-Setting Theory)」とその後の研究によって支持されています(Locke, E. A., & Latham, G. P. (1990). A theory of goal setting & task performance. Prentice-Hall, Inc.)。端的に言えば、曖昧な目標より、明確な目標のほうがモチベーションと成果の両方が最大化されるということです。この理論は、もともとは従業員のモチベーションを高めるための「組織心理学」から始まりましたが、現在では塾での学習指導を含む「教育心理学」の分野やスポーツ心理学など様々な分野で活用されています。
■「英会話力」の指標となる“もう一つのTOEIC”
そこで僕が英会話力の指標としておすすめするのは、TOEICのなかでも「スピーキング」の試験です。
「スピーキングテスト」と聞くと、多くの人は「英語でスピーチ(演説)をするような試験ではないか?」と身構えてしまうかもしれません。しかし、それは大きな誤解で、実際のTOEIC Speaking Testは、ほぼ英会話の試験と言ってよい設計になっています。
全11問の問題構成を見てみると、そのことがよく分かります。
・写真描写問題:2問
・応答問題:3問
・提示された情報に基づく応答問題:3問
・意見を述べる問題:1問
11問中6問(過半数)が「その場でのリアクション(応答力)」を問う問題なのです。あらかじめ用意した原稿を暗記して一方的に話すような問題は一つもありません。
「相手が何を求めているか」を判断し、その場で英語を返す力――まさに「英会話」そのものです。

■発音・文法より「意思疎通」がポイント
そして、採点基準には、「内容の妥当性(質問に合っているか)」と「内容の完成度(必要な情報を伝えられているか)」が明確に含まれています。
どんなに流暢で文法が完璧であっても、質問と関係のない独りよがりな話をしていれば評価されません。逆に、シンプルな英語であっても、相手の意図を汲み取って言いたいことを分かりやすく伝えられれば、高く評価されます。
公式サイトにも、こう明記されています。(※2)
まさに、実践的な「英会話力」を数値化するために、非常にうまく設計された試験だと言えるのです。
(※2)https://www.iibc-global.org/iibc/activity/iibc_newsletter/nl146_feature_02.html
■近い将来、TOEIC(L&R)は主役の座を譲る
そして、このTOEIC Speaking Testの点数は、今後、ビジネスパーソンの英会話力の指標として一般的なものになると僕は考えています。大多数の人が受験するメジャーな試験になる前に「先読み」してベンチマークとして活用すれば、時代の一歩先を行けるはずです。
すでに多くの方が実感している通り、英語のメールやビジネス文書の「読み書き」は、生成AIを使うことで、以前より遥かに速く、正確に処理できるようになりました。
英語が「読める」「書ける」だけでは、勉強した人とそうでない人の差がほとんどつかなくなってしまったのです。
精密機器大手の島津製作所は、生成AIで効率化し、「翻訳」業務を中心とする外部委託費用を年間8000万円も削減したそうです。(※3)難解な特許文献の「翻訳」という高度な英語のスキルであっても、生成AIによって取って代わられてしまうのです。
僕自身、海外の人とのメールでのやり取りは、「読む」のも「書く」のも生成AIで9割9分完結していて、この能力では差がつかなくなっていることを痛感しています。
これからの時代に圧倒的な差がつくのは、「会って英語で話ができるかどうか」=スピーキングの力です。
現在はまだ多くの企業が従来のTOEIC(L&R)のスコアを基準にしていますが、これは単に人事評価制度のアップデートが追いついていないだけです。近いうちに、TOEICの主役の座はL&Rから、Speaking Testへと完全に移行するはずです。
■「スピーキング力の可視化」を企業が求める時代へ
その兆しは、公式な数字に顕著に表れています。
TOEIC主催団体の最新の公式発表によると、TOEIC(L&R)の企業単位での受験者数(※4)の伸びが前年度比で約1.4%増とほぼ横ばいだったのに対し、TOEIC Speaking Testの受験者数は過去最多を記録し、前年度比でなんと約43%増という急激な伸びを記録しています。(※5)
また、株式会社レアジョブがグローバル人材育成に取り組む企業101社を対象に行った調査(2024年)でも、英語力の評価基準として、言語の「運用」能力を重視する世界標準の指標「CEFR(セファール)」を過去3年以内に導入した企業が65%に達しています。導入理由の第1位は、全体の約60%を占める「会話力を重要視しているから」でした。(※6)
時代の潮流は、完全に「スピーキング力の可視化」へとシフトしているのです。
AI英会話であろうと、英会話を始めること自体は素晴らしいことです。大切なのは、その先に明確な「出口」を設定することです。

そのためには、まだ多くの人が十分には活用していない「もう一つのTOEIC」を受けて、自分の現在地を数字で確認してみてください。点数で「見える化」できれば、次に何を伸ばせばよいかも、どこまで続ければよいかも見えてきます。
「英語を専門にするわけではないが、自分の仕事のツール(道具)として英語を使えるようになりたい」というビジネスパーソンであれば、200点満点中「160点」を取れれば十分だと思います。
英会話学習を、出口の見えない暗いトンネルにしないために――。「何を使って学ぶか」だけでなく、「何を目標に、どこまで進むのか」まで決めてから、歩き始めてみてはいかがでしょうか。
(※3)「島津製作所、知財業務をAIで効率化 新会社でサービス外販」(日経新聞2026年3月25日)(2026年8月3日アクセス)
(※4)企業側が求めるスキルを見る意味で、公開テストではなくあえてIPテスト(団体受験)の受験者数を見ています。
(※5)「TOEIC® Program DATA & ANALYSIS 2026」6ページ、12ページのグラフの数字から筆者が算出。
(※6)株式会社レアジョブ「人事評価基準が変わる、人的資本経営の時代にCEFR導入が急増TOEIC®L&RからCEFRへ、研修から人事評価まで幅広い活用が進む」 (2026年8月3日アクセス)
----------
まんじろう某大学大学院教授(医学博士)、全国通訳案内士
英検(実用英語技能検定)1級。日本生まれ、日本育ちの“純ジャパニーズ”で、帰国子女でもなく留学経験もなく、英語はすべて独学で身につけた。TOEIC900点を超えても英会話が思うように上達しなかった自身の経験から、日本人の英会話学習者が抱える最大の課題は、むしろ「言い換え(バリエーション)の知識の多さがもたらす選択の迷い」にあると考えるに至る。そこで、日本語で言いたいことを1つの英語表現に固定し、迷いなく話すための「一択・会話テンプレ」方式を開発。このアプローチを、日本人の日本人による日本人のための英語=“Janglish”と名付け、「日本人全員が楽しく英語を話せる世界」を目指して情報発信を続けている。現在は大学院で教鞭を執る傍ら、主にSNSやnoteを通じて英語に苦手意識を持つ人々に向けた啓発活動を行っている。趣味は映画鑑賞。
----------
(某大学大学院教授(医学博士)、全国通訳案内士 まんじろう)
