樋口可南子、有村架純、山田杏奈、吉永小百合、真木よう子…女優たちの演技が光る「夏の山の映画」5選
海派か、山派か? 四季を通じて楽しく論争できるテーマだが、夏はひときわ盛り上がるかもしれない。開放的で太陽の光が弾ける海、木々が作る影と静けさの中にある山。物語の世界では、前者なら青春と恋、後者は人生をテーマにしたものが目立つ。映画解説者の稲森浩介氏が、後者のなかから女優たちが演技が光る5本を紹介する。
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【写真】有村架純、山田杏奈、吉永小百合、のん…夏の山映画の女優といえば
村で再生する心
〇「阿弥陀堂だより」(2002年)
桜や菜の花が咲く春の山道を登る夫婦。売れない小説家の孝夫(寺尾聰)と、医師の美智子(樋口可南子)は東京から孝雄の故郷に移ってきた。心の病にかかった美智子はここで診療所を開く。そして村の子供たちと遊んだり山を歩いたりしながら、少しずつ回復していく。

夫婦は、村の死者を祀る阿弥陀堂に住む96歳のおうめ婆さん(北林谷栄)と知り合う。おうめ婆さんは村の広報誌に「阿弥陀堂だより」というコラムを連載していて、それを聞き書きしているのが小百合(小西真奈美)だ。小百合は喉の病気で喋ることができなかった。
美智子と孝夫は夏が近づくと、渓流で釣った魚を囲炉裏で焼いて食べたり、田植えをする。お盆には迎え火をたき、灯籠流しや線香花火と、美しい夏に浸るように過ごす。この時期の「阿弥陀堂だより」にはこう書かれている。
「お盆が来ると亡くなった人がたくさんやってきます。怖くはありません。話しているうちに自分がこの世のものなのかあの世なものかわからなくなります。夢のようでこのまま醒めなければいいと思ったりします」
一年を通して100日間ほどかけて撮影された。四季の移ろいや美しさは日本の原風景のようだ。阿弥陀堂はロケ地である長野県飯山市に建てられたセットだが、現在も美しい棚田が見下ろせる場所に残されている。
壊れかかった心を、明るい光へ向かわせようとする樋口の静かな演技が素晴らしい。最近はCMでしかその姿を見ることはないが、またスクリーンで見たい人だ。
父とホタルの思い出
〇「夏美のホタル」(2016年)
今やあまり見ることができなくなった夏のホタル。本作は、幼い時に父と見たホタルを求めて旅に出た女性と、そこで知り合った人々との触れ合いを描く。
河合夏美(有村架純)は写真家を目指している。恋人の相羽慎吾(工藤阿須加)との関係がギクシャクしたある日、バイクレーサーだった亡き父の形見のバイクに乗って、思い出の地へと向かった。美しい棚田を抜けて森に入ると渓谷に出る。そこは幼い時に父とホタルを見た場所だった。川に差す木漏れ日や水音、緑眩しい木々。夏美はホタルを撮影するためにテントを張る。
夏美は町のよろず屋を営むヤスエ(吉行和子)と恵三(光石研)の親子に出会い、泊めてもらうことになった。そこに慎吾もやってきて2人で居候することに。近所の子供たちと川遊びや花火など、夏の日を過ごす2人だったが恵三が突如倒れて入院することに……。
夏美は亡くなった父の思いを初めて知ることになる。バイクレーサーをなぜやめたのか。幸せな人生だったのか。そんな思いを胸に秘めながらホタルの写真を撮る。この夏の出会いと別れの哀しみを灯すように、ホタルは儚く瞬いていた。
本作での有村は、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(2013年)で注目され、前年の「ストロボ・エッジ」や「映画 ビリギャル」でブレイクした頃だ。公開時の舞台挨拶で「親が子供をどう思っているのかがわかった。そして、親をより深く愛していきたいなと思えた」と語っている。
山に祈り、山に生きる
〇「山女」(2022年)
柳田國男の『遠野物語』に着想を得て、福永壮志監督が映画化。18世紀後半の東北の山深い村を舞台に、山には神が棲むという日本古来の信仰を下敷きにしている。
冷害が続く夏、凶作のため村民は困窮していた。凛(山田杏奈)と父(永瀬正敏)と弟の一家は、過去の出来事により村人から蔑まれながら生きてきた。ある日事件が起き、凛は家を出て早池峰山(はやちねさん)に入る。そこで、伝説の山男(森山未來)に遭い、やがて一緒に暮らすことに……。
どんよりとした山並みの風景が映し出される。季節は夏なのに村に日が差すことはなく、荒れ果てて痩せた田畑が横たわる。凛がいつも手を合わせて祈る早池峰山は、盗人の女神が宿ると言われる。死んだ人間の魂はみんなそこに行くという山だ。凛は山男に「あの山見てると思うんだ。どんな人間でもこの世にいていいって」。そういう凛の言葉を黙って聞く山男は、神々しくも悲しく見える。
暗く深い緑、鳥や獣の鳴き声、吹き抜ける風。凛は山の中を裸足で彷徨う。「山の中で凛の心が解放されていく感覚を味わえて、彼女らしさを取り戻していくのが演じていても楽しかったんです」(「with digital」2023年7月1日)と山田は語っている。
山田の特徴である力強い目に引き込まれる。それは逆境に生きながら決して諦めない精神を宿しているようだ。続いて出演した「ゴールデンカムイ」(2024年)では、ヒロインのアイヌの少女を演じて大きな話題となったのも記憶に新しい。山田はその前の本作で新境地を開いていたといえよう。
山に登って分かること
〇「てっぺんの向こうにあなたがいる」(2025年)
エベレストを初めて登頂した女性登山家として知られる、田部井淳子さんの歩んだ道を描く。吉永小百合が主演し、青年期をのんが演じた。
多部純子(のん)たち女性だけのチームはエベレスト登頂に成功するが、純子だけが注目されると徐々に仲間が去ってしまう。長男(若葉竜也)は、有名人の母(吉永小百合)に反発する。華々しさだけではなく挫折した姿が描かれる。しかし、純子は「山が好きなただのおばさん」であることを誇りに思い、がんで余命宣告を受けてからも山を登り続けた。
田部井さんは亡くなる直前の7月に、富士山に登っている。東日本大震災の後、東北の高校生を富士山に連れていく活動だ。七合目までしか行けなかったが、これが最後の登山となった。その場面が本作で描かれている。七合目から雄大な景色を見下ろしながら、夫の正明(佐藤浩市)に「ずいぶん高い所まで来て降りられるかと思ったけど大丈夫。私の帰るところはここだから」と言って夫の胸に触れる。家族がいたからここまで来られたのだ。
阪本順治監督が吉永に「青年期はのんさん一択でどうですか」と聞くと、吉永も「私もそう思っていました」と即答したという。そののんは、吉永をこう語っている。「相手の瞳の奥を覗き込むような視線が印象的で、田部井さんがエベレストを見ている時と通じている」と(「週刊文春CINEMA」2025年秋号)。
富士山以外にも夏の御霊櫃峠(ごれいびつとうげ)など山の美しいシーンが多く出てくる。田部井さんの人生に思いを馳せながら、山はやはりいいなあと感じる作品だ。
吊り橋で起きたこと
〇「ゆれる」(2006年)
山奥の吊り橋で起きた事件をめぐる真実とは? 兄弟と幼なじみの女性との複雑な感情が絡み合う。
写真家の早川猛(オダギリジョー)は、法事で久しぶりに帰郷する。父と兄の稔(香川照之)はガソリンスタンドを経営していて、そこには幼なじみの智恵子(真木よう子)も働いていた。3人は以前よく行った渓谷に出かけるが、そこに架かる吊り橋から智恵子が転落して亡くなってしまう。側には稔がいたのだが、果たして稔が突き落としたのか、それとも事故だったのか。
後半は裁判場面が続く法廷映画仕立てだが、話が進むに連れて3人の微妙な関係が明らかになる。智恵子はかつて猛と付き合っていて、今回猛が帰郷した時も再び関係を持ってしまう。地方に燻っている自分が嫌で、猛に東京へ連れて行ってほしいと願っていた。一方、稔は智恵子と一緒になりたかったが、吊り橋の上で拒絶されてしまう。その後に何があったのか。真相は最後まで伏せられ目が離せない。
物語の象徴となる吊り橋は、新潟県・津南町の中津川渓谷に架かる見倉橋だ。秋山郷の宝石とも言われる美しい木製の橋で「新潟の橋50選」にも入っている。
兄弟の間で「ゆれる」女を好演している真木に注目したい。同年の「ベロニカは死ぬことにした」の主役を務め注目され、本作では山路ふみ子映画賞新人賞を受賞。女優として大きく飛躍した年だった。その後「さよなら渓谷」(2013年)や「アンダーカレント」(2023年)など、鬱屈を抱えた女性の役を演じれば一頭地を抜く女優となった。
稲森浩介(いなもり・こうすけ)
映画解説者。出版社勤務時代は映画雑誌などを編集
デイリー新潮編集部
