こちらは、ハッブル宇宙望遠鏡が観測した輝線星雲「干潟星雲」(Lagoon Nebula、Messier 8)の中心部です。干潟星雲はいて座の方向、地球から約4000光年先にあります。


【▲ ハッブル(Hubble)宇宙望遠鏡が観測した輝線星雲「干潟星雲」の中心部(Credit: NASA, ESA)】

視野いっぱいに広がるのは、黄色やオレンジ色の霧が幾重にも重なり、うねりながら流れていくような光景。まるで浜辺に打ち寄せた波が固まったような、あるいは風紋の残る砂丘のような雰囲気が印象的です。ところどころに散らばる青白い光点は、暗い雲に埋もれながらも周囲を明るく照らす若い星々です。


干潟星雲は差し渡し100光年にも及ぶ広大な星形成領域であり、ガスと塵の集まりである分子雲がゆっくりと収縮しながら、次々に新しい星を生み出しています。星々が放射した紫外線によって周囲の水素が電離し、特徴的な赤色の光を放つことから、こうした領域は電離水素領域(HII領域)と呼ばれます。


条件の整った暗い夜であれば、干潟星雲は肉眼でもぼんやりとした灰色の斑点として見ることができます。18世紀にフランスの天文学者Charles Messier(シャルル・メシエ)が自身の天体カタログにこれを記載したことが、「Messier 8」という別名の由来です。


紫外線が生み出す「波」の正体

ESA(ヨーロッパ宇宙機関)によると、干潟星雲という名前は、星雲の中を横切る幅広い干潟状の暗黒帯に由来しています。


ただし、この暗黒帯は広い視野で撮影した際に目立つ構造であり、今回のようなクローズアップ画像には写り込んでいません。それでもなお、砂浜や砂丘を思わせる模様や質感は、「干潟」という穏やかな名前通りの不思議な説得力を持っています。


【▲ 参考画像:ベラ・ルービン天文台のシモニー・サーベイ望遠鏡で観測された「干潟星雲」(Messier 8、中央下)と「三裂星雲」(Messier 20、右上)(Credit: RubinObs/NOIRLab/SLAC/NSF/DOE/AURA)】

もちろん、この模様の正体は潮の満ち引きとはまったく関係がありません。ESAによれば、若い高温の星から放たれる強烈な紫外線がガスと塵を侵食し、拡散させることで、こうした波状の構造が形作られるのだといいます。


生まれたての星々が刻む降着の証拠

星雲の奥では、誕生したばかりの星をめぐるもうひとつのドラマが進行しています。干潟星雲を調べてきた天文学者たちは、周囲のガス雲から物質を取り込む「降着」と呼ばれるプロセスによって星形成が今なお進行していることを示す明確な証拠を、近年になって見出しました。


降着円盤をまとった若い星は、時折その両極からジェット(細く絞られた高速なガスの流れ)を勢いよく噴き出します。このジェットが周囲のガスに衝突すると、発生した衝撃波がガスを加熱して原子を励起させ、「ハービッグ・ハロー天体」と呼ばれる輝く小さな塊のような領域が生じます。干潟星雲ではハービッグ・ハロー天体が複数見つかっており、水素の豊富な領域における星形成理論を裏付ける手がかりとなってきました。


最近も相次ぐ干潟星雲の新たな観測成果

こうした降着活動は過去の出来事ではなく、現在も進行中であることが、複数の新しい研究によって裏付けられています。干潟星雲の外縁部にある若い星では2022年に激しい増光現象が検出されたほか、星雲中心部のガスについても電離状態や化学組成に関する新たな知見が得られています。


干潟星雲は、生まれたばかりの星々が周囲のガスを彫刻し、時に爆発的な成長すら見せる“若々しい”星形成の現場であり続けているのです。


冒頭の画像はESAから2010年9月22日付で公開されたもので、ESAのハッブル宇宙望遠鏡公式Xアカウントが2026年7月30日に改めて紹介しています。


 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


関連記事ベラ・ルービン天文台が待望の画像初公開 おとめ座銀河団と三裂星雲・干潟星雲を観測赤い星雲に彩りを添える星団の星々 ハッブルが撮影した干潟星雲の散開星団NGC 6530ダイナミックな星形成領域 ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた輝線星雲「干潟星雲」の中心部参考文献・出典ESA/Hubble - Breaking waves in the stellar Lagoon