これは私のお金でしょ?…25年以上にわたって亡き父が管理していた「娘名義の預金」。長女が税理士の判断を〈真っ向否定〉も、裁判であっさり負けたワケ【税理士が「名義預金」の帰属判断について解説】
相続税対策として、親が子どものために「子ども名義」で預金を作ることは珍しくありません。しかし、この「名義預金」は、相続税の場面でトラブルになりやすい財産のひとつです。本記事では、相続税評価における預貯金の基本的な評価方法と、名義預金が問題となる理由を、実際の裁判例をもとにくわしく解説します。
〈登場人物〉
吉田課長:A社で働く課長。3人きょうだい(吉田さん、弟、妹)の長男で、2人の子を持つ。税理士とは業務上のやり取りがある。
相続税における「預貯金」の評価はシンプル
吉田課長「今回は相続財産としての「預貯金」についてお聞きしたいです」
まずは、相続税における「預貯金の評価」について説明します。下記1.のように、大きく2つのタイプに分かれます。
1.預貯金の評価(財産評価基本通達203)
次の(1)、(2)の区分に従い、それぞれの方法で評価する。
(1)定期預金、定期郵便貯金および定額郵便貯金など
相続開始時において、次の算式により計算した金額によって評価する。

(2)普通預金、通常貯金など((1)以外)
相続開始時点の既経過利子が少額なものに限り、同時点の預入高によって評価する。
定期預金などは、相続開始時の預入高(元金)に、利子計算期間の初日から相続開始時までに発生した税引後利子(既経過利子)を加えた金額が相続税の評価額になります。
一方、普通預金や通常貯金などいつでも引き出し可能な預金は、原則として相続開始時の預入高で評価します。
吉田課長「わかりやすいですね。実務では預貯金の評価はあまり問題にならないのではないでしょうか?」
たしかに評価方法そのものはシンプルです。しかし、「預貯金の所有者は誰なのか」という点において、しばしばトラブルになることがあります。預貯金の名義人が、必ずしも所有者とは限らないからです。
たとえば、親が子どもの名義で定期預貯金を作った場合、次の2つの可能性があります。
・親が自分の現金を子ども名義の定期預貯金に預け替え、その通帳を子どもに渡すことにより子どもへの贈与が成立している
・名義は子どもであるものの、実質的には親が自分の財産として預貯金を保有し続けている(名義を借りただけで、所有者は親のまま)
実務では、このどちらに該当するかを巡って、納税者と税務署とのあいだでトラブルになることが少なくありません。また、有価証券でも同様の問題が発生しています。
吉田課長「具体例を教えていただけますか?」
【判例】申告直前に判明した「複数名義」の預金
平成26年4月25日の東京地裁の裁判例で考えましょう(下記2.(1))。なお、この件は東京高裁、最高裁でも争われましたが、いずれも納税者側の主張は認められず、棄却(不受理)となっています。
2.親族名義預貯金の帰属に関する裁判例
(1)裁判
平成26年4月25日東京地裁(棄却)、平成26年10月22日東京高裁(棄却)、平成27年6月30日最高裁(棄却・不受理)
(2)概要
被相続人(亡乙)の相続人である原告は、亡乙の死亡に伴う相続税の申告書を税務署長に提出した。その際に申告した相続財産のうち、原告および原告の子ら(原告ら)名義の預貯金(本件申告預貯金)について、「亡乙から生前に贈与を受けたものであり、相続財産ではない」として更正の請求を行った。
事例の概要は上記2.(2)のとおりです。原告(長女)は他の相続人と共同で相続税の申告を行いましたが、同時に長女だけが「申告内容に誤りがある」として、更正の請求(誤りの是正)を申し立てました。
吉田課長「同時に申告と更正の請求を行うなんて、なんだか珍しいですね」
たしかに、通常ではあまり見られない流れです。相続人である丁(長男)は、相続税の申告をO税理士とP税理士に依頼しました。
その過程で、申告期限が迫っていた平成22年2月上旬、長男は亡乙(被相続人)が保有していた定期預貯金の証書の名義が、被相続人だけでなく、丙(後妻)、丁(長男)、戊(二男)、原告(長女)、さらにその子どもたち(孫)と、複数の家族名義になっていることを発見しました。長男はこの事実をO税理士に伝え、申告内容の検討が始まりました。
税理士は複数名義の預貯金をすべて「父の財産」と判断
吉田課長「O税理士はどのように対応したのですか?」
O税理士は、これらの定期預貯金を亡乙の相続財産として申告すべきだと判断し、相続税申告書のほとんどを作成しました。これに対し原告(長女)は、亡乙名義以外の定期預貯金については、亡乙から生前に贈与を受けたものであり、相続財産として申告するのは誤りだと反発しました。
しかし、相続税の申告期限が迫っていたため、遺産分割協議書や申告書を作り直す時間はありません。
そこで原告(長女)は、他の相続人と同様に遺産分割協議書(下記2.(3)③イ.)に署名・押印したうえで、その内容に沿って相続税の申告を行い、同時に「申告内容に誤りがある」として更正の請求をしたのです。
吉田課長「遺産分割協議書には、問題の定期預貯金の記載もあるんですよね?」
はい。「遺産分割協議書」とは、被相続人の財産を確認し、その財産を誰が相続するかについて、相続人全員が合意したことを示す文書です。
本件では、原告が「相続財産ではない」と否認している預貯金(本件申告預貯金。前掲2.(2))についても、遺産分割協議書に記載されていました。したがって、遺産分割協議書に署名・押印しておきながら、更正の請求で是正を求めるというのは、矛盾した行為だと言わざるを得ません。
ただし、この裁判では、本件申告預貯金を遺産分割協議書に記載したこと自体は、直接の争点にはなっていません。
2.親族名義預貯金の帰属に関する裁判例
(3)問題となった預貯金の事実関係
①昭和55年頃
亡乙は、K農協、L信用金庫において、亡乙、丙(後妻)、丁(長男)、戊(二男)、原告(長女)、丁・戊の子どもなどの名義で、定期預貯金の預け入れ・解約・継続を繰り返していた。
②平成21年4月25日(亡乙の死亡時)
相続人全員の名義預金と、原告の子どもを含む「相続人の子ども名義」の預貯金などを合わせた本件申告預貯金等は合計45口存在していた。このうち、原告ら名義の預貯金(本件申告預貯金)は10口、合計828万2,785円であった。
③平成22年2月22日
イ.本件遺産分割協議書が作成された。
ロ.本件申告預貯金等は、遺産分割の対象となる相続財産として記載された。
ハ.本件申告預貯金等については、共同相続人がそれぞれ自分の名義の預貯金を取得し、共同相続人の子名義の預貯金については、その親である共同相続人が取得すると記載されていた。
ニ.相続税の申告書にも本件申告預貯金等が相続財産として記載されていた。
(4)原告による更正の請求
原告ら名義の本件申告預貯金について、原告は「亡乙が生前に各名義人へ贈与したものであるにもかかわらず、誤って相続財産として申告してしまった」として、亡乙の死亡に係る相続税の更正を求めた(本件更正の請求)。なお、原告以外の共同相続人は更正の請求をしていない。税務署長はこの更正の請求を認めず、争いは裁判に発展した。
吉田課長「原告(長女)はなぜこのようなことをしたのでしょうか?」
原告には「強い想い」があったのだと思います。その始まりは、昭和55年頃に遡ります(上記2.(3)①)。亡乙はこの頃から、自身が死亡した際の相続税負担を軽くする目的で、妻・子ども・孫などの名義で定期預貯金を作り続けていました。定期預貯金の解約も含め、亡乙が亡くなるまで25年以上にわたり続けられていました。
こうした亡乙の行為について、O税理士は「これらの預貯金はすべて亡乙の財産である」と判断しました。原告は、父が自分のために贈与していた“自分の財産”がすべて父自身の財産であると判断され相続税負担が増えることに、反発したのです。
「名義預金」は誰のもの?…判断のポイント
吉田課長「本件申告預貯金がすでに原告へ移転していたのか、それとも亡乙が持ち続けていたのか、その判断はどうやって行うんですか?」
当事者の主観だけでは判断できません。亡乙と原告などの関係者が実際にどのような行為・行動をとっていたのか、客観的な事実関係を総合的に分析して判断します。ここでは、亡乙と原告が行った行為に絞って整理します。
裁判所は、①預け入れ時の名義人名・住所・登録印、②原告名義の預貯金の解約と使途、③預貯金証書の保管状況、④その後の登録印の保管状況の4点を検討しました(下記2.(5)~(8))。
2.親族名義預貯金の帰属に関する裁判例
(5)預け入れ時の名義人名・住所・登録印(原告の場合)
①平成11年11月25日前に存在していた本件申告預貯金
名義人は原告の旧姓「乙」が使用され、住所は亡乙の住所地であった。
②平成11年11月25日以後に開設された本件申告預貯金
名義人は原告の現在の姓「甲」が使用され、住所は原告の住所地となった。登録印には、原告が保管していた「甲」の印鑑が使用された。
(6)原告名義の預貯金の解約と使途
原告は平成14年3月、東京都の自宅隣接地を購入するため、手付金500万円を不動産業者に支払った。原告から事情を聞いた亡乙は、500万円を原告に渡した。
この500万円が「原告名義の本件申告預貯金から支出されたのか」「亡乙自身の預貯金から支出されたのか」が、裁判において争点となった(前者であれば、原告はすでに本件申告預貯金の贈与を受けていたことになる)。
(7)預貯金証書の保管状況
亡乙は、本件申告預貯金等に係るすべての定期預貯金証書を自ら保管しており、名義人である原告ら親族に渡すことはなかった。
(8)その後の登録印の保管状況
亡乙は、本件申告預貯金等の登録印として使われていた「甲」(原告)や「Q」(戊。二男)の印鑑を保管していた。ただし、平成15年以降は原告および戊に対し、それぞれ印鑑を交付している。
吉田課長「今回の裁判で問題になっているのは、原告(長女)とその子どもの名義の預金だけですよね」
そのとおりです。税務署は、預貯金証書に記載された「名義」「住所」「登録印」に注目します。本件では、他の相続人は訴訟に参加していないため、原告ら名義の預貯金について集中的に審理されました。
原告は結婚により姓が「乙」から「甲」に変わりました。本件申告預貯金が原告のものであれば、名義や住所を正しく変更するのが普通です。
原告が結婚したのは昭和62年ですが、その約11年後に初めて、原告名義の預貯金が旧姓のまま、住所も実家のままであることに気づきました。そこで、原告はこの点を亡乙に話し、平成11年11月25日に名義・住所・登録印の変更を行いました。
この事実から、もし贈与を受けていたのであれば「なぜ約11年間も名義変更をしなかったのか」という疑問が生じます。
ただし、同日以降に開設された本件申告預貯金については、名義人の姓を「甲」、住所を原告の住所地、登録印を「甲」に変更しており、この時点で名義・住所・登録印の問題は一応解消されています。
税務の観点では、預貯金口座の贈与を受けたのであれば、金融機関に姓・住所の変更を届け出て、登録印は贈与者と異なるものに変え、自ら保管しておくことが重要です。
吉田課長「『②原告名義の預貯金の解約と使途』ですが、この事例では農協と信用金庫に預けていたのですね」
はい。金融機関には、全国で営業する金融機関と、地域限定で営業する金融機関があります。本事例は後者で、地域限定の金融機関に預けられた預金でした。
原告は東京に住んでいたため、すぐに出し入れすることはできません。そこで、父である亡乙に預かってもらっていた、というのが原告の主張です。
このような場合、もし贈与が成立しているのであれば、預貯金通帳を預かる亡乙には「これは預かり物である」という強い自覚が必要になります。
「500万円の出所」が争点に
吉田課長「でも、父は原告名義の預貯金を一部解約したんですよね」
はい。約382万円分を解約しています(下記2.(9)②ハa)。しかし、これでは自宅隣接地の購入に必要だった手付金500万円(前掲2.(6))には足りません。
そこで亡乙は、解約した約382万円のうち一部を現金で払い戻し、残りを自身名義の普通預金口座へ入金しました。そのうえで、亡乙名義の普通預金口座から500万円を出金し、原告に渡したのです(下記2.(9)②ハa・b)。
原告名義の預貯金は他にもありましたが、解約しませんでした(上記2.(9)③ハb)。ここで、「なぜ解約しなかったのか?」という疑問が生じます。
もし亡乙が、500万円以上の手取りになる原告名義の預貯金を解約し、そのまま原告へ渡していたなら、税務署の受け止め方は少し違っていたのではないかと思います。
また、「この預貯金は預かり物である」という自覚は、贈与したすべての相続人とその子ども名義の預貯金に一貫して反映されていなければなりません。本件では、亡乙にその自覚が徹底していなかったことが、敗因であると考えられます。
2.親族名義預貯金の帰属に関する裁判例
(9)原告の主張と、東京地裁による事実認定、結論
①原告の主張
イ.亡乙は原告に対して、昭和55年頃から毎年、贈与税の非課税枠の範囲内で贈与する旨を約束をしており、その贈与契約に基づいて原告ら名義の本件申告預貯金が預け入れられた。したがって、これらは贈与の履行である。
この場合、預入額は贈与税の基礎控除額(60万円、平成13年以降は110万円)以内であるため、贈与税は課税されない。
ロ.自宅隣接地の購入に際し、亡乙から500万円を受け取ったことについては、原告が亡乙に相談したところ、亡乙は原告名義の定期預金を事前に解約して準備し、平成14年6月3日に500数十万円を帰省した原告へ渡した。
②東京地裁による事実認定
イ.亡乙の行為について
a.亡乙は相続税対策として、毎年のように、贈与税の非課税枠内で、原告ら親族名義で預貯金の預け入れを行っていた。
b.本件申告預貯金等に係る口座はいずれも、亡乙自身の財産を原資として開設されたものである。
c.2.(5)~(7)の事実
ロ.原告(長女)、丁(長男)の行為について
a.平成11年の名義・住所変更手続き以前、原告ら名義の預貯金の全容を正確に把握していたとはいえない。
b.丁(長男)が亡乙の生前に本件申告預貯金等の存在を認識していたと認めるに足りる証拠はない。
ハ.①ロ.の500万円の出所について
a.平成14年5月2日と20日に解約された原告名義の預金は合計382万9,498円(前者:72万7,948円。現金払い戻し、後者:310万1,550円。亡乙名義の普通貯金口座に入金)であり、500万円には届かない。
b.平成14年6月3日に亡乙名義の普通預金口座から出金された金額、および翌日に原告名義口座へ入金された金額はいずれも500万円である。
ニ.贈与契約書
本件申告預貯金等を贈与する旨の書面は作成されていない。
贈与があったか否かを判断するポイント
吉田課長「ほかにも、贈与があったか否かを判断するポイントはありますか?」
あります。それが、③預貯金証書の保管状況と、④その後の登録印の保管状況の確認です(前掲2.(7)(8))。
亡乙は、他の相続人や孫名義の本件申告預貯金等をすべて自ら保管していました。当時はネット銀行がありませんので、預貯金の預け入れや解約は、預貯金証書と登録印を使って行います。
このように、「預貯金証書と登録印の実質的な支配者は誰か」という点も、贈与が成立していたかどうかを判断する重要な判断材料になるということです。
なお、裁判所は、原告が本当に贈与を受けていたと認識していたかどうかについて、平成11年の名義・住所変更手続き以前は、原告ら名義の預貯金の全容を正確に把握していなかったと判断しています(前掲2.(9)②ロa)。
つまり、原告は「どれだけの預貯金が、どのような経緯で作られていたのか(=贈与を受けていたのか)」を完全には説明できなかったということです。
丁(長男)についても同様で、丁自身とその子ども名義の本件申告預貯金等が存在していたにもかかわらず、裁判所は丁がその存在を知らなかったと認定しています(前掲2.(9)②ロb)。
親族間の贈与は曖昧になりやすいため、贈与の事実を明確にする方法として「贈与契約書」の作成があります。
本件では、亡乙から原告ら親族への本件申告預貯金等の移転に際し、贈与契約書が作成されていませんでした。裁判所はこれを、贈与があったと認められない理由の一つとしています(前掲2.(9)②ニ)。
吉田課長「なるほど。よくわかりました」
【結論】名義預金に贈与の意思は認められず
判決文の結論を確認しましょう。裁判所は、ポイントを大きく2つに分けて判断しています。
2.親族名義預貯金の帰属に関する裁判例
(9)原告の主張と、東京地裁による事実認定、結論
③東京地裁の結論
イ.結論1
原告に具体的な資金需要が生じたり、亡乙自身において具体的な資金需要が生じた際に、必要に応じてこれを解約し、各名義人の各預貯金の金額とは直接関係のない金額を現実に贈与したり、あるいは自ら使用することを予定していたとみるべきである。
ロ.結論2
亡乙においては、昭和55年頃当時またはその後の各預け入れの当時、将来の預入金額またはその後の預け入れに係る各預入金額を、直ちに各名義人に贈与するという確定的な意思があったとまでは認められない。
ハ.(9)②ハ.の500万円の出所についての結論
次のa~dの理由により、原告の主張は採用することができない。
a.亡乙が平成14年5月2日および20日に解約した原告名義の貯金の金額は合計約382万円にすぎないこと。
b.同月の時点において解約可能な原告名義の貯金は他にもあったが、解約されなかったこと。
c.同年6月3日に亡乙名義の普通貯金口座から出金された金員およびその翌日に原告名義の普通預金口座に入金された金員はいずれも500万円であること。
d.原告の亡乙から500数十万円を受け取ったという主張(図表の2(9)①ロ)に対しては、亡乙が500万円を超える金額の現金を原告に交付したことを裏付けるに足りる客観的な証拠はないこと。
1.名義人(長女)への贈与とは認められない
亡乙は、相続人やその子ども名義で本件申告預貯金等を作っていました。しかし、原告に資金需要が生じたときには、原告名義の預金だけでなく、亡乙名義の預金を取り崩して援助していました。場合によっては、亡乙自身が使うためにも本件申告預貯金等を利用していました。
つまり、預貯金を作った時点で「名義人へ贈与した」とはいえないというのが裁判所の結論です(上記2.(9)③イ)。
2.贈与の確定的意思は認められない
昭和55年に本件申告預貯金等を預け入れた当時から、亡乙に「名義人へ贈与する」という確定的な意思があったとは認められない、と裁判所は判断しました(上記2.(9)③ロ)。
おそらく亡乙自身は、裁判所が述べたような気持ちで預貯金を作っていたわけではないと思います。しかし、亡乙がとった実際の行動が、贈与したことを裏づけるものでなかったことが、結果的に敗訴につながりました。
名義預金を「贈与」と認めてもらうために必要なこと
吉田課長「この裁判から学ぶべきことは?」
ポイントを下記2.(10)にまとめました。
2.親族名義預貯金の帰属に関する裁判例
(10)親族名義預貯金が被相続人の預貯金とされないポイント(まとめ)
①贈与者の意識
贈与者は「この預貯金は預かり物である」という強い自覚を持つこと。
②名義・住所・登録印の一致
預貯金は受贈者の名義・住所で管理し、登録印も贈与者とは別のものを届け出ること。
③受贈者への資金移動の方法
受贈者にお金を渡す場合は、受贈者名義の預貯金を解約・払い戻しして渡すこと。贈与者名義の口座から渡すのは不可。
④通帳・印鑑を贈与者が預かる場合
①~③を満たす場合であっても、贈与者が受贈者名義の通帳や印鑑を預かる合理的な理由が必要。
⑤贈与を受けたことを明確にする方法
・受贈者が通帳と登録印を保有する
・贈与契約書を作成する
すでに述べたとおり、贈与者は受贈者名義の預貯金を「預かり物」として扱う自覚が必要です(上記①)。
また、これも当然のことですが、預貯金の名義・住所・登録印は受贈者のものでなければなりません(上記②)。さらに、受贈者に資金を渡す際は、必ず受贈者名義の預貯金を取り崩すことが重要です(上記③)。
②と③は、預貯金が受贈者の財産として成立していることを示す客観的な証拠になります。
今回取り上げた事例では、②・③の事実を十分に証明できなかったため、原告側は敗訴しました。また、①~③を満たしていても、贈与者が通帳や印鑑を預かっている場合は、税務署から理由を問われる可能性があります(上記④)。
そこで、税務署とのトラブルを避けたい場合は、受贈者が通帳と印鑑を贈与者から受け取り、自分で管理することが最も確実です(上記⑤)。
なお、贈与者と受贈者が同居している場合でも、受贈者が通帳を使って入出金を行い、税務署から質問された際には「使途」「原資」を説明できるようにしておくことが重要です。また、現代では、口座振込による贈与も一般的です。この場合は、当然ながら受贈者が普段使っている口座に振り込んでもらう必要があります。
要するに、受贈者が通帳のお金を自由に出し入れしている実績を作ることが、贈与の証明として有効です。
また、贈与を明確にする方法として「贈与契約書」を作成しておくことも有効です。
これにより、贈与者(親)と受贈者(子)が贈与契約を結んだ事実が客観的に残り、双方の「贈与した/贈与を受けた」という意識も明確になります。
多田 雄司
税理士

