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大手決済代行会社・全東信の破綻では、預金残高の水増しや架空債権の計上、営業権の過大計上など、大規模な粉飾決算の疑いが明らかになりつつある。こうした事件が起きるたび、「なぜ見抜けなかったのか」に注目が集まるが、より本質的な問題は、なぜ企業は粉飾に手を染め、一度始めると抜け出せなくなるのかという点にある。粉飾決算が始まる背景や雪だるま式に膨らむ仕組み、金融機関が決算書のどこを見ているのかについて、公認会計士・税理士の貝井英則氏の解説を交えながら読み解く。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

粉飾は「会社を守るため」から始まる

粉飾決算というと、最初から悪意を持った犯罪のような印象を受ける。しかし実際には、その入口はもっと身近なところにある。経営者はさまざまな事情を抱えている。資金繰りに行き詰まり、「今回は何とか乗り切れば来期には業績が回復する」と考え、利益を水増ししたり架空の資産を計上したりするケースは少なくない。

しかし、その「今回だけ」が、会社の運命を大きく変えてしまう。

公認会計士・税理士の貝井英則氏(シェル総合会計事務所代表)は、粉飾は最初から悪意を持った犯罪として始まるケースばかりではないと指摘する。

「実際には『今期だけ何とか乗り切りたい』『銀行から追加融資を受けたい』『取引先や従業員に不安を与えたくない』といった切迫した事情から始まることが少なくありません。中小企業では、売上の前倒し計上や在庫の過大計上、回収が難しい売掛金をそのまま資産として計上し続けるなど、利益を実態より良く見せる処理が比較的多い印象です」

ここで押さえておきたいのが、決算書の数字はすべてが粉飾を意味するわけではないという点だ。企業の決算書は、本来は会社の経営実態を適正に表す「会計」の考え方に基づいて作成される。一方、法人税は税法に基づいて計算されるため、両者では資産や費用の計上方法が一致しないケースも少なくない。

決算書で資産が多く計上されているからといって、直ちに粉飾とはいえないという。貝井氏は、税法と会計基準の違いによって生じるケースもあると説明する。

「中小企業では税務申告を前提に決算を組むことも多くあります。税法上は在庫評価損や貸倒引当金の損金算入が限定されているため、会計上あるべき金額より資産が多く計上されるケースもあります。そのため、資産が多く計上されているからといって、直ちに粉飾とは言えません。これは税法と会計基準の違いによるものであり、意図的な粉飾とは区別して考える必要があります」

一度始めると抜け出せない理由

粉飾決算の最大の恐ろしさは、一度始めると正常な状態へ戻すことが極めて難しい点にある。

たとえば、本来は赤字だったにもかかわらず利益を上乗せして黒字決算を作れば、翌期はその架空の利益を打ち消すだけでも同額以上の利益を稼がなければならない。しかし、そのような急激な業績改善は容易ではない。

その結果、翌年も利益を水増しし、さらに翌年も粉飾を続ける。こうして粉飾は雪だるま式に膨らんでいく。

貝井氏は、その仕組みを次のように説明する。

「粉飾は利益を生み出しているわけではなく、本来計上すべき損失を先送りしているだけです。存在しない1億円の売上を計上すると、その見合いとして1億円の売掛金が貸借対照表に計上されます。しかし、その売掛金は実際には回収されません。金融機関や監査人は売掛金の残高や回転期間も確認しますので、『なぜ回収されないのか』『本当に回収できるのか』という違和感を持つきっかけになります」

そして、問題は先送りした損失が消えるわけではないことだ。

「その売掛金は最終的には貸倒処理などを行わなければならず、利益はどこかで減少します。つまり、利益を『作った』のではなく、将来の損失を先送りしただけなのです。そのため、翌年も粉飾、さらに翌年も粉飾という悪循環に陥り、雪だるま式に粉飾額が膨らんでいきます」(貝井氏)

最初は数千万円だった粉飾が、数十億円、数百億円へと膨らんでいく事件は珍しくない。粉飾は経営改善を先送りするだけでなく、経営者自身が会社の実態を正確に把握できなくなる危険性もはらんでいる。

過去にもあった山一、オリンパス・・・

この構図は、日本の大型粉飾事件にも共通している。

1997年に自主廃業した山一證券は、含み損を抱えた有価証券を簿外へ移す「飛ばし」を続けた結果、簿外債務は約2,600億円に膨らみ、負債総額約3兆5,000億円で経営破綻した。

また、オリンパス事件では、運用損失を連結対象外のファンドへ移し、M&Aを利用して穴埋めする手法により、約20年間にわたって損失を隠し続けた。

規模や手法は異なるものの、「今回だけ乗り切れば」という判断を繰り返した結果、取り返しのつかない事態に陥った点は共通している。全東信でも20年以上にわたり粉飾が続いた可能性が指摘されているが、その背景にも同様の構造があった可能性がある。
 

銀行が見ているのは利益だけではない

中小企業が粉飾に手を染める理由の多くは、金融機関から融資を受けるためだ。しかし、金融機関は利益だけを見て融資を判断しているわけではないという。

「売掛金や在庫の増減、回転期間、キャッシュフロー、関係会社との取引など、貸借対照表も含めた決算書全体の整合性を見ています。今回報じられている全東信の事案でも、預金の水増し、架空債権、営業権の過大計上、未払金の未計上など、貸借対照表全体を書き換えるような粉飾が疑われています。一般的な中小企業の粉飾よりも手口は複雑ですが、『実態より会社を良く見せたい』という本質は同じです」(貝井氏)

また、決算書は「会社の健康診断」のようなものだという。

「赤字決算は健康診断で『要注意』という結果が出た状態です。健康診断で異常が見つかったら治療をします。数字を書き換えても病気は治りません。決算も同じで、赤字は改善の出発点ですが、粉飾は改善の機会そのものを失わせてしまいます。もちろん改善すべき問題ですが、原因を分析し、改善策を考えるきっかけにもなります。一方、粉飾決算は健康診断の数値を書き換えて『異常なし』と報告するようなものです。病気は治っていないため、本来必要だった治療の機会を失い、結果として会社の状態をさらに悪化させてしまいます」(貝井氏)

銀行も、赤字という結果だけで融資を止めるわけではない。

「赤字になった理由や改善策を説明できる会社であれば支援を継続することもあります。一方で、決算書そのものが信用できない会社は、金融機関との信頼関係を失います」(貝井氏)

近年は金融機関もデータ分析を高度化させており、不自然な資金移動や財務内容の変化を以前より把握しやすくなっている。決算書だけを取り繕えば融資を受けられる時代ではなくなりつつある。


 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班