昔の参考書と今の参考書を見比べれば一発でわかる…20〜30年前の中高生と"残酷な学力格差"ついた根本原因
※本稿は、西岡壱誠『子どもの地頭が育つ後悔しない子育て』(総合法令)の一部を再編集したものです。

■便利すぎてバカに? 今どきの「過保護学習」
私たちは今、かつてないほど豊かな情報環境に生きています。スマートフォン一つあれば、知りたいことの大半は瞬時に手に入る環境です。AIによる自動解説、動画学習、暗記アプリ、オンライン家庭教師など、教育サービスの進化は目覚ましく、「学びの格差」が急速に解消されつつあるようにも見えます。
かつては、都市部と地方、進学校とそうでない学校、家庭の経済状況などによって、受けられる教育には大きな差がありました。
都市部では、頻繁に模試が受けられ、塾や予備校も豊富にあり、進学校には受験に強い先生や大学進学の情報がそろっていました。一方、地方や過疎地では、教材や情報が限られ、近くに塾もなく、経済的な理由で通えない家庭も多くあったのです。
教育における「スタートライン」は、今よりずっと不均等だった……。子どもたちの学習環境は、ここ数十年で劇的に改善されています。
教材はフルカラーで図解豊富で、わかりやすい解説がつき、解けなければ動画を見ればいいといった整った学習環境です。昔とは比べ物にならないほど、参考書の種類が増えていて、スタディサプリのような授業動画も充実しています。
■昔の中高生のほうが、学力が高かった
では、いきなりですが、問題です。
どうでしょうか?
正解は、「昔の中高生のほうが、学力が高かったのではないか」です。
経済協力開発機構(OECD)が実施する「国際学習到達度調査(PISA)」によると、15歳の学生を対象に行われ、日本の読解力の平均スコアは2000年には522でしたが、2022年には516点まで減少しています。
数学リテラシーに関しても、2000年の557点から、2003年には534点に急落し、そのあとも2018年には527点、2022年には536点と低空飛行が続いています。
模試の結果や学習状況の調査でも昔と今を比べると、同様の傾向が確認され、全体的に学力向上が停滞、あるいは低下傾向にあると考えられています。
当たり前の話ですが、これは「どこをきり取るか」の問題はあります。科目や調査対象によって大きく結果が変わるのは当然ですから、一概に「今の学生のほうが賢くない」と断言することはできません。
ただし、全体的な傾向として、今の学生のほうが学力的に落ちている面があるのは事実です。
■学習環境は向上も、学力は上がらない
学びの環境と学力については、さまざまな要因が考えられます。
スマートフォンの普及により、毎日、画面の前で過ごし、SNSやゲーム、動画に触れることで、学習に割く時間や能力を奪っているという指摘もあります。
ほかにも、入試形態の変化も挙げられます。知識を問う問題が主体でしたが、最近は「思考力、表現力、問題解決力」などを重視する、より実戦的な問題へと移行しています。
これらの原因が重なって、便利に学べている環境になっているはずなのに、学力の向上が数値として表れていないのではないか、といわれているのです。
■植物に水をやりすぎると根腐れして枯れる
私は学力低下の要因を、「与えすぎ」の問題だと思っています。
植物に水をやりすぎると、かえって枯れてしまうように、今の子どもたちに大人が「情報」や「答え」を与えすぎているのではないでしょうか。よかれと思って与え続けた行為が、子どもの思考力や探究心の芽を弱らせているのだと感じています。
昔の参考書と今の参考書を比べてみると、わかりやすいです。

かつての参考書は情報が少なく、自分で調べて書き足したり、理解できない場合はほかの資料を見て、理解できるように自分で語呂合わせをしたりして工夫していました。
一方、今の参考書は非常に多くの情報が載っています。
英単語帳一冊でも、昔は書かれていなかったような類義語や反対語、覚え方のコツ、例文、発音まで、すべてが網羅された完璧な参考書が増えています。
自分で調べて、自分の理解をカバーするための補足情報を書き込む必要がありません。すでに重要なところには線が引かれていて、自分でマークをつけることすら少なくなっています。
■「調べて覚える」「考えて整理する」時間の消滅
さらに、わからないことに対する向き合い方も、大きく変わりました。
以前は英単語を調べるのに、英和辞典をめくるのが当たり前でした。アルファベット順にページを探し、意味を確認し、関連語を見つける。一つの単語を確認するだけでも、数分かかることも珍しくありませんでした。
時間も手間もかかる作業でしたが、その過程には「自分で探す」「ついでにほかの単語も目にする」といった副次的な学びが多く含まれていたのです。

今やそれらの問題は、スマートフォンですぐに解決します。
一つの問題に悩みすぎずに答えを手に入れられ、学ぶための手間がかからず便利で効率的になっています。
ですが、考える前に答えが手に入ることで、「調べて覚える」「考えて整理する」といった時間がなくなり、思考力や記憶力が落ちているのではないでしょうか。
情報を取得する速さが、学習を作業に変え、「探すことで深める」「悩んで独自の工夫をする」などの体験を奪ってしまう。数学でも、理科でも、難しい問題があると、すぐに「わからないから」と答えを見てしまう。検索したら答えが出る便利になった学習環境が、皮肉にも考える力を育てにくくしているのです。
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西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
カルペ・ディエム代表
1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。
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(カルペ・ディエム代表 西岡 壱誠)
