紙ストローをやめたスターバックス

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 世界的なプラスチック削減の動きのなか、一時期、やり玉にあげられたのが「プラスチックストロー」(以下、プラストロー)だ。プラストローの削減は、レジ袋の有料化と並ぶ、SDGsやエコロジーブームの象徴的な存在だった。実際、2020〜22年頃にかけて、「スターバックス」や「マクドナルド」など、外食チェーン店がこぞってプラストローを廃止していった。

 その代わりに導入されたのが「紙ストロー」である。だが、導入されるや否や「飲み心地が悪い」「紙の味がする」「すぐふやける」などの苦情が続出。SNSでは不満を書き込む人が後を絶たなかった。有料レジ袋はすっかり定着した感があるが、一方の紙ストローはどうなっているのだろうか。【取材・文=山内貴範】

【写真】紙ストローに代わって登場したスターバックスの「バイオマス素材のストロー」

紙ストローはもはや懐かしの存在

 結論から言えば、一時的に紙ストローを導入した外食チェーン店の多くは、既に提供を取りやめている。先日、東京都美術館1Fにある「上野精養軒」が経営するレストラン「cafe Art」でクリームソーダを注文したら、久しぶりに紙ストローを見た。懐かしさすら感じてしまったくらい、紙ストローを見る機会はほぼなくなった。

紙ストローをやめたスターバックス

 スタバでは紙ストローが廃止され、以前の緑色のプラストローに似たバイオマスプラスチックストローなるものに変更されている。舌触りも飲み心地も良く、以前のプラストローと比較してもなんら遜色ない。アイスコーヒーもキャラメルマキアートもおいしく飲める。

 マクドナルドは容器の蓋を改良し、飲み口付きにしている。希望すればプラストローを貰うこともできるうえ、この容器自体が使い勝手がいいため、不満を抱く人は少ないようだ。「ケンタッキー・フライド・チキン」でも同様に、飲み口付きの蓋を採用している。

 そのほかのチェーン店でも、しれっと紙ストローを廃止した例が多いようだ。日本企業は鳴り物入りで導入したものを変更したがらない傾向があるが、紙ストローは2〜3年であっさりと廃止する例が目立ったことから、一種の社会実験は大失敗に終わったといえる。いったいなぜ、これほどまでに受け入れられなかったのだろうか。

とにかく紙の味がする、すぐふやける

 紙ストローの最大の問題は、とにかく「紙の味がする」ということであった。おいしいコーヒーを提供していることがウリのコーヒーチェーン店で、これは致命的だったと思う。紙ストローで飲むと味が悪くなってしまうのだ。実際、紙ストローが提供されていたころのスタバでは、アイスコーヒーをグラスに口をつけて飲む人も多く見られた。

 一応、スタバではレジで言えばプラストローも提供してもらえたのだが、当時はコロナ騒動の真っ只中で会話を自粛する風潮があり、なかなか言い出しづらいという人も少なくなかったようだ。

 また、「耐久力が低すぎる」点も紙ストロー特有の問題だった。製品によって差はあるものの、使い始めてしばらくするとふやけてしまい、コーヒーやドリンクをゆっくり味わうことができないのである。紙ストローは紙を螺旋状にぐるぐる巻きにして作られたものが多かったが、耐久性が低いものだと、飲んでいるうちにふやけてバラバラになってしまうケースもあった。

 つまり、紙ストローはシンプルに製品としての完成度が低かったのである。もちろん頑丈で質の高いものもあるのだろうが、それを飲食チェーン店で無料提供することは費用面でもできないだろう。そのうえ、紙ストローから人体に有害な有機フッ素化合物が検出されたという研究が発表され、健康面でのリスクも取り沙汰され始めた。

 こうした理由で消費者から嫌われ、クレームが殺到したと思われる。飲食チェーン店もついには音を上げ、廃止に動いたということなのだろう。

ウミガメの影響力は絶大だった

 そもそも、どのような経緯で紙ストローの使用が広まったかご存じだろうか。アメリカやヨーロッパでは、プラスチックの使用を見直す動きがあったが、2015年、たった1匹のウミガメの写真が世論を変えてしまった。ウミガメの鼻にプラストローが刺さり、痛そうにしている写真がネット上で広まってしまったのである。

 このウミガメのような事例は、言うまでもなく稀にしか起こらないものだ。しかし、結果としてエコロジーブームに火をつける形となり、プラスチック製品がやり玉にあげられたのである。レジ袋が有料化され、プラストローが紙ストローになった。結果的に消費者に大きな負担を強いたという意味でも、社会的影響力の大きさという意味でも、あのウミガメは世紀のインフルエンサーだったといえる。

 企業がレジ袋を有料化し、紙ストローを導入したのも、真剣に地球環境問題を考えているというよりは、イメージアップ戦略の一環、パフォーマンスのためと言ってよかった。しかし、消費者の反発を招く結果になってしまっただけで、イメージアップには貢献できなかった。

 バブル期やその直後、1980〜90年代にもエコロジーブームが起こった。これは、当時の派手好みの文化や金権的な経済観念に対する反動として、流行した側面があったといえよう。しかし、物価高に苦しむ人が多い今は、エコロジーブームに乗るほど消費者に余裕がなくなっている。紙ストローからプラストローへの回帰は、そうした時代の空気感を投影しているといえそうだ。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部