50代以上に多い「前頭側頭型認知症」に”根治治療”はある?医師が解説!
前頭側頭型認知症は、行動の変化や人格の変容、言語障害などが特徴的に現れる認知症の一つです。アルツハイマー型とは異なる経過をたどるため、適切な理解と対応が重要です。本記事は、前頭側頭型認知症の薬物療法と非薬物療法の基本や進め方、日常生活での関わり方も含めて解説します。
監修医師:
伊藤 規絵(医師)
旭川医科大学医学部卒業。その後、札幌医科大学附属病院、市立室蘭総合病院、市立釧路総合病院、市立芦別病院などで研鑽を積む。2007年札幌医科大学大学院医学研究科卒業。現在は札幌西円山病院神経内科総合医療センターに勤務。2023年Medica出版社から「ねころんで読める歩行障害」を上梓。2024年4月から、FMラジオ番組で「ドクター伊藤の健康百彩」のパーソナリティーを務める。またYou tube番組でも脳神経内科や医療・介護に関してわかりやすい発信を行っている。診療科目は神経内科(脳神経内科)、老年内科、皮膚科、一般内科。医学博士。日本神経学会認定専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本老年医学会専門医・指導医・評議員、国際頭痛学会(Headache master)、A型ボツリヌス毒素製剤ユーザ、北海道難病指定医、身体障害者福祉法指定医。
前頭側頭型認知症の治療

治療は、症状に応じた薬物療法と環境調整などの非薬物療法を組み合わせて行います。本人の特性を理解し、適切な対応を続けることが大切です。
前頭側頭型認知症とは
前頭側頭型認知症(前頭側頭葉変性症)とは、脳の前頭葉と側頭葉が主に障害されるタイプの認知症で、アルツハイマー型認知症とは異なり、初期からもの忘れよりも性格や行動、感情表現、言葉づかいの変化が目立つ病気です。
自制心の低下や同じ行動を繰り返す常同行動、マナーを守れないなどの症状がみられ、人柄が変わったと感じられることも少なくありません。主な発症年齢は50~60歳代とされますが、さらに若い世代での発症もあり、家族の戸惑いや負担が大きくなりやすいです。
前頭側頭型認知症の治療の基本方針
根本的に進行を止める治療法が確立されていないため、症状の緩和と生活の質の維持を目的に行います。行動障害や感情の変化に対しては薬物療法を検討しつつ、環境調整や関わり方の工夫など非薬物療法を重視します。
前頭側頭型認知症の根治療法の現状
現在のところ病気そのものを治す根治療法は確立されていません。そのため、治療の目的は進行を止めることではなく、行動障害や感情の変化などの症状を和らげ、できるだけ長く生活の質を保つことに置かれています。
近年、脳内物質や遺伝子を標的とした治療薬など新しい治療の研究も進められていますが、いずれも臨床試験段階であり、一般診療で広く使える段階にはいたっていません。
前頭側頭型認知症の症状を和らげる薬物療法

行動の変化や抑うつ、不安、不眠などの症状に対し、抗うつ薬や抗精神病薬、気分安定薬などを慎重に用いて、生活のしづらさを軽減します。
行動異常への対応
まず環境調整と関わり方の工夫で対応します。危険な行為や他者への迷惑が出やすい状況をあらかじめ避け、予定をできるだけ一定に保つことで、混乱や興奮を減らすことができます。また、注意や説得で行動をやめさせようとするより、別の行為にさりげなく誘導したり、刺激を減らしたりして静かな環境に移動するなど、否定しすぎない対応が大切です。どうしても危険性が高い場合には、医師と相談し薬物療法も併用しながら、安全性を確保します。
睡眠障害への対応
まず生活リズムと環境を整えることが重要です。日中に適度な活動や日光浴の時間を確保し、昼寝は長くなりすぎないようにします。就寝前はテレビやスマートフォンなどの刺激を減らし、毎日ほぼ同じ時間に寝起きする習慣をつけることが役立ちます。また、寝室の明るさや室温などを整え、安心感を重視して休める環境を整えることも大切です。
気分症状への対応
うつ状態や不安、イライラの高まりなどの気分症状がみられることがあり、早めの対応が大切です。まずは、生活リズムを整え、成功体験を得やすい簡単な活動や役割の用意で、気分の落ち込みを和らげます。また、本人の言動を頭ごなしに否定せず、つらい気持ちを受け止める声かけを意識すると安心感につながります。
それでも強い抑うつや不安が続く場合には、主治医と相談します。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬や抗不安薬を、眠気や転倒リスクに注意しながら少量から慎重に使用します。
前頭側頭型認知症の非薬物療法と日常生活の工夫

薬だけでなく、生活リズムを整える、環境をシンプルにする、役割や楽しみの活動を用意するなどの非薬物療法が重要です。家族や専門職と協力しながら、本人の特性に合った関わり方を工夫します。
生活リズムの整え方
毎日の生活リズムをできるだけ同じパターンに整えることが大切です。朝は決まった時間に起きてカーテンを開け、日光を浴びながら朝食や着替えを行うことで、体内時計が整いやすいです。日中は散歩や家事など、無理のない範囲で役割や活動の時間をつくり、長時間の昼寝は避けます。夕方以降は入浴・夕食・就寝の順番や時間帯をほぼ一定に保つことで、夜間の落ち着きやすさにつながります。
環境調整
環境そのものを治療の一部と考えて整えることが大切です。まず、物や予定をシンプルにし、目に入る情報量を減らすことで、混乱やイライラを和らげます。貴重品や危険物は手の届かない場所に片づけ、同じ場所・同じ順番で生活できるように配置を固定しておくと安心感につながります。
コミュニケーションの工夫
言葉遣いと態度の両方の工夫が大切です。まず、「またそんなことをして」などの否定的な言葉を避け、短く具体的な言葉で、ゆっくりとはっきり伝えるようにします。また、本人のこだわりや言動の背景にある気持ちを想像し、「不安だったんですね」などと気持ちに共感する声かけを心がけると、安心感が高まります。
前頭側頭型認知症の治療を受けられる医療機関

もの忘れ外来や認知症外来のほか、各都道府県に設置されている認知症疾患医療センターでは、専門的な評価と治療・支援につなげる体制が整えられています。
認知症疾患医療センター
認知症の専門医療機関として都道府県や政令指定都市が指定する病院内に設置され、認知症の鑑別診断、専門医療相談、合併症や周辺症状(行動・心理症状)への対応などを行う拠点です。
脳神経内科や精神科
診断と治療は、主に脳神経内科や精神科で行われます。脳神経内科では、脳や神経の専門として、画像検査や神経心理検査などを通じて原因疾患を見極め、てんかん発作や歩行障害などほかの神経症状も含めて総合的に評価します。一方、精神科では、抑うつや不安、興奮、攻撃性などの行動・心理症状への対応に力を入れており、必要に応じて抗うつ薬や抗精神病薬などを用いながら、生活全体の支援を行います。
前頭側頭型認知症で利用できる医療費助成制度

前頭側頭型認知症は前頭側頭葉変性症として指定難病に含まれており、一定の条件を満たせば、指定難病医療費助成制度により自己負担額が軽減されます。さらに、介護保険を利用した在宅サービスや施設サービスのほか、症状や生活への影響の程度によっては、障害年金や自立支援医療(精神通院医療)などの公的支援制度を併用できる場合もあります。
「前頭側頭型認知症の治療とは?」についてよくある質問
ここまで前頭側頭型認知症の治療とは?薬物療法と非薬物療法の進め方などを紹介しました。ここでは「前頭側頭型認知症の治療とは?」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
アルツハイマー型認知症の薬は使えますか?
伊藤 規絵医師
アルツハイマー型認知症で使われるコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)は、前頭側頭型認知症では有効性がはっきりせず、かえって興奮や行動異常を悪化させる可能性が指摘されています。一方、メマンチンは一部で症状改善の報告もありますが、十分なエビデンスがなく、標準治療には位置づけられていません。症状の進行を遅らせる方法はありますか?
伊藤 規絵医師
前頭側頭型認知症では、残念ながら現在のところ病気そのものの進行を遅らせる治療法は確立していません。ただし、早期から専門医とつながり、行動障害や睡眠障害、気分の落ち込みなどの症状を抑える薬物療法や非薬物療法での適切なコントロールは、本人と家族の生活のしやすさを保つうえでとても重要です。編集部まとめ

前頭側頭型認知症は、行動や言動の変化から始まり、次第に言葉や日常生活の自立が難しくなり、末期は寝たきりや意思疎通の低下へ進行します。治療やケアの工夫を参考に、病状の段階ごとにできる対応を知っておくことで、本人の尊厳と家族の心身の負担軽減につなげていきます。
前頭側頭型認知症と関連する病気
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
関連する病気
アルツハイマー型認知症レビー小体型認知症
血管性認知症
進行性核上性麻痺(PSP)
大脳皮質基底核変性症(CBD/皮質基底核変性症)
前頭側頭型認知症と関連する症状
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
関連する症状
社会性の欠如(身だしなみへの無関心、非常識な行動など)
抑制が効かなくなる(暴言・暴力、マナー違反、反社会的行動など)
同じことを繰り返す常同行動(同じ道順・動作・言葉を延々と繰り返す)
感情の鈍麻・共感性の低下(他人への思いやりや感情移入が乏しくなる)
自発性な言葉の低下・言語障害(話し出さない、同じ言葉の繰り返し、言葉が出にくいなど)
参考文献
『前頭側頭型認知症 』(健康長寿ネット)
『前頭側頭葉変性症(指定難病127)』(難病情報センター)
『8 章 前頭側頭葉変性症』(日本神経学会)
『若年性認知症を来す前頭側頭葉変性症に対する治療薬候補と治療標的分子のiPS創薬による同定』(京都大学iPS細胞研究所)
『前頭側頭型認知症』(日本神経学会)
『認知症疾患医療センターのご紹介|札幌市の総合病院』(国立病院機構北海道医療センター)
『指定難病患者への医療費助成制度のご案内』(難病情報センター)

