【前川 裕奈】【ウィルソン 麻菜】人事部に即通報するZ世代と「もう若者と話さない」と諦める管理職…ハラスメント対策で崩壊寸前の職場を救う方法

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「髪型変えた? 似合ってるね」「最近シュッとしたんじゃない?」――かつては職場の円滑な潤滑油、あるいは「良かれと思って」放たれていたこんな何気ない雑談が、今や「ルッキズム(外見至上主義)」「ハラスメント」として厳しく断罪される時代になった。

その結果、職場で起きているのは、何を言えばいいか分からず、「もう若い世代としゃべるのはやめた」と心を閉ざす中年層の“萎縮”と、ハラスメントという強力な武器を手に入れた若年層の“告発ムーブ”による、決定的な世代間分断だ。

新刊『つまり、それがルッキズム 〜23の事例と解説〜』を上梓した起業家の前川裕奈さんと、共著者でライターのウィルソン麻菜さんに、お互いが萎縮せず、かつ踏み込みすぎない「これからの職場のコミュニケーション」の落としどころについて話を聞いた。

「若い子としゃべるのやめた」マネジメント層の悲鳴

――Z世代が社会の中心に入り、職場の脱ルッキズムやコンプライアンス意識は急速に高まりました。一方で、マネジメント層からは「何を言ってもハラスメントになりそうで怖い」という萎縮の声も聞こえます。現場の現状をどう見ていますか。

前川裕奈さん(以下、前川):私は仕事柄、Z世代やさらに下のアルファ世代の学生たちとやり取りする機会が多いのですが、その一方で私自身もアラフォーになり、かつて新卒で入社した不動産デベロッパーの同期たちは、今や現場で部下を持つ管理職になっています。彼ら同世代のマネジメント層と話すと、多くの人が「もう職場の若い子と雑談するの、やめたんだよね」と言います。

私たちの世代は、バリバリの体育会系、ガチガチの根性論という社内風土で育てられてきましたし、実際それで成果を出してきました。だから「それ以外の育て方がわからない」というのが本音です。

さらに心の奥底では「どうしてこれができないの?」と思ってしまう瞬間もあって、でもそれをそのまま口にしたり、ちょっとした容姿や雰囲気のいじりを交えてコミュニケーションを取ろうとしたりすれば、一発で「ハラスメント」として訴えられかねない。

自分たちがそういうポテンシャルを持っていることも自覚しているので、「トラブルになるくらいなら、業務連絡以外はしゃべらないのが正解」という結論に至ってしまうんです。

――関わりをシャットアウトしてしまうわけですね。

前川:そう、本当にもったいない話だと思いますし、企業として危機的ではないかと感じます。私の元同期たちも含め、40代、50代のビジネスパーソンは本当に仕事ができるし、いくつもの修羅場をくぐって獲得した高いスキルや知恵を持っています。

それなのに、上の世代が「もうしゃべらない」と殻にこもってしまったら、Z世代やその先の若い世代は、彼らから暗黙知を学ぶ機会を失ってしまいます。そうなれば企業の成長は止まり、組織の中に深い断絶、空白が生まれてしまいます。どちらが100%正しい、間違っているという問題ではないからこそ、この断絶は非常にもったいないと感じますね。

ハラスメントを盾にする若者たち

――受け手である若い世代の側には、どのような変化を感じますか。

前川:先日、ある大学で講義をした際、最後の質疑応答で男子学生から強烈な質問を受けました。 「今の時代は縦社会をなくそう、ハラスメントに気をつけようという社会になっていますが、職場にはまだ何かとうるさい『昭和のおじさん、おばさん』がいます。そういう人たちはいつ消えますか?」と。 これには戸惑いました(笑)。

「いや、私もその昭和のおじおばの類だし、消去されないといけないのか」と思いつつ、彼らのマインドに危うさを感じました。たしかに、ハラスメントは絶対にダメだけれど、この質問は、その意味をはき違えてると思ったからです。

今の若い世代の中には、ルッキズムやセクハラ、パワハラといった「ハラスメント批判」を盾にすれば、社会の縦社会やルール、マナーそのものをすべて取り払えると思っている人たちがいますが、それは明らかな「はき違え」です。

もし、今すぐ社会に出て、現在40代、50代、60代の先輩たちに実力で勝てる天才なら、縦社会などは無視してガンガン進めばいい。でも、そんな実力を持つ人は日本に数人しかいません。ハラスメントを都合の良い言い訳にして、上の世代から教えを受ける態度やマナーまで度外視するのは、結局のところ自分自身が成長の機会を逃して損をするだけだと思います。

ウィルソン麻菜さん(以下、ウィルソン):「ハラスメントをやめよう」「ルッキズムに気をつけよう」というムーブメントは本来、お互いがリスペクトを持って、気持ちのいいコミュニケーションをするために生まれたはず。上の世代を殴るための武器に変えてしまっては本末転倒ですよね。これらの言葉を使った瞬間に、会話が拒絶に変わり、さらに分断が深まってしまうのだとしたら、それは言葉の使い方が間違っています。

前川:その通りで、「ルッキズム」という言葉は、相手を断罪するための凶器ではなく、お互いの価値観のズレを話し合うための「中間地点(落としどころ)」であるべきなのです。

SNSを見ていると、「おじさんってこうだよね」「Z世代ってこれだから」という主語の大きなラベリング(属性での決めつけ)が強くなっていると感じます。もちろん、ハラスメント発言だらけの上の世代もいれば、その世代の中にも対話ができる素敵な人はたくさんいる。「最近の若い子はこうだから関わるのはやめよう」「おじさんには言ってもムダ」とラベルだけで判断せず、まずはそのラベルをいったん外して、目の前の「個」を見る努力をお互いが諦めてはいけないと思います。

「良かれと思って放った一言」が最悪の事態を招く

――職場で特に根深いのが、「本人は良かれと思って、あるいは親しみを込めて言っている容姿への言及」です。髪型、体型の変化への指摘など、悪気がないからこそ難しいケースについて、どう対処すべきでしょうか。

前川:言い方の工夫を考える前に、まず発信側が「自分と相手の正確な関係値(距離感)」を思い出すことが大切ではないでしょうか。

先日私は、ある経営者向けの集まりで「ルッキズム」に関する90分の講演をしました。その主催者の一人である年長の男性は、過去に一度、駐在先でのコミュニティで挨拶をした程度の間柄で、その後はSNSで繋がっているだけの関係でした。つまり、プライベートでの交流はなく、下の名前も知らないような距離感です。

それなのに講演後、記念写真とともに彼から送られてきたメッセージには「裕奈ちゃんは意外と短足だね。短足裕奈ちゃん可愛いね。これがルッキズム? でも、僕と裕奈ちゃんの関係値だから許してちょ」と書かれていて……。さすがに「何言ってんの?」と絶句しました(笑)。

――それは距離感のバグが深刻ですね……。

前川:本人は「親しみを込めて、いじってあげた」つもりなのだと思います。お互いの関係によっては、これでもいいのですが……。

前川:例えば私のある友人は、上司から「部署が変わって太ったなー」などと職場でいじられても、自分が周囲から「お堅い、怖い女」に見られないためのクッションとして、そのいじりを利用していると言います。

彼らには長年の信頼関係があるからこそですが、問題はそのやり取りを「周囲の後輩たちが見ている」ということ。上司側が「彼女にはこれを言っていいんだから、他の若い人にも同じノリでいじっていいだろう」と勘違いしたら、それは大事故になります。ここでも先ほどいった「個」をみる、に繋がります。

ウィルソン:発信側は、言葉を放つ前に「自分はこの相手と、本当にそのレベルのいじりをしていい距離感にいるか?」を立ち止まって考える必要がありますね。そして、職場での「愛想笑い」を、都合よく「オレたちは仲が良い!」と勘違いしないことも大切! それが愛想笑いかわからないくらいなら、やっぱりいじりをしないほうがいいと思います。

2往復の対話をスキップ 「即、通報」する若者たち

――近年の新入社員の間では「退職代行」は当たり前ですし、職場での出来事を先輩や上司本人ではなく、すぐに「人事」に連絡するケースが増えているようです。

前川:そうなんです。私も後輩に、非常に優秀で自己主張もしっかりできる若い女性がいるのですが、あるとき彼女が自分の職場の上長を訴えるという事件が起こりました。上長が彼女の金髪やメイクをクライアントの前で「貶めた」というのです。

彼女は激怒し、即座に役員や自分の親まで呼び出して、「ルッキズムでありハラスメントだ」と大抗議。私はその上長のこともよく知っていますが、彼におそらくまったく悪気はなかった。むしろ、厳格なクライアントたちが、彼女の「ギャルっぽい見た目」に不安を覚えないよう、彼女もクライアントもやりやすくなるよう、彼なりの親しみと配慮を込めて「面白く」紹介しようとしたのだと思います。

確かに他者の前でルックスをいじるのは良くない。私もきっと不快になっていたと思います。けれど、一方で上の世代には彼なりの「意図や背景」があったはずとも感じるんです。 もし彼女がその場か、あるいは終わった後に上長本人に「なぜあんな言い方をしたのですか? 傷つきました」と直接伝えていたら、彼も「そうか、彼女にはこれはダメだったんだ。申し訳なかった」と謝罪し、軌道修正できたかもしれない。

あとほんの「2往復」ほどの会話があれば、歩み寄れたかもしれないと思うととてももったいなく感じます。直接の対話をすべてスキップして、ルッキズムという言葉を盾にいきなり組織の力で処罰しようとするのは、あまり建設的ではないなと思います。

ウィルソン:先輩や上司世代が「髪切った?」「痩せた?」と声をかける根底にある目的は、決してディスりたいわけではなく、単に「あなたと仲良くなりたい」「コミュニケーションのきっかけが欲しい」ということなんですよね。

ウィルソン:それが彼らの生きてきたバブル期などの「普通」だったのだろうし、その裏には当時のドラマやメディアの「容姿をフックにするのが手っ取り早い」という風潮があったのだと思います。古い癖のようなものですよね。

だから受け手側も、言われた言葉を額面通りに受け取って「ルッキズムだ!」と反射的に食ってかかるのではなく、「ああ、この人はただの挨拶として、私とコミュニケーションを取りたくて不器用に声をかけてくれたんだな」と、相手の背景に想像を巡らせるリテラシーを持ってあげられたらと思います。そう思えれば、「あー、そうなんですよ。それより……」と、受け流すこともできるはずですから。

服装・メイクの「TPO」と「ルッキズム」の境界線

――職場で、もう一つ線引きが難しいのが「服装やメイクのマナー」です。「個性の尊重」と「職場としての規律やTPO」のバランスはどう考えればよいでしょうか。

ウィルソン:服装は自由ですが、当然「TPO」は存在します。仕事の場はプロフェッショナルが集まる場所ですから、何でもかんでも「自分の好き」を押し通していいわけではないと思います。

例えば、裕奈さんは講演会に行くときは、プロとしての信頼感を持たせるためにきっちりとしたスーツを着用しています。でも、その「スーツという枠組み」の中で、華やかなピンクを選んだり、自分のお気に入りのアクセサリーを合わせたりして個性を楽しんでいて、私はそれがすごくいいな、素敵だなと思っています。

自分の選んだ業界や職種において、仕事がスムーズに回る、「顧客から信頼されるスタイル」をキープしながら、その中でいかに自分の好きなものを取り入れてアレンジしていくか。そのバランスを考えること自体が、大人のプロフェッショナルの楽しさだと思います。「TPOのすべてがルール縛りで嫌だ」と突っぱねるのではなく、その仕事を選んでいる自分としての「理想のスタイル」を追い求めればいいのではないでしょうか。

前川:社会はルールで成り立っています。そして各業界や企業の中でもルールはあって。たとえば銀行員が「これが自分の個性だから」と金髪で窓口に立つのは、やはり業界の信頼ルールとして難しいですよね。その職業を自分で選んでいる以上、守るべきラインはあると思います。

お葬式にド派手なドレスを着ていかないのは当たり前のマナーです。 ただ、「おじさんはパーカーを着るな」「おばさんはノースリーブを着るな」といった誰にも迷惑をかけない、ただの主観の押し付けに対しては、従う必要は一切ありません。

もし、オフィスのファッションで「この柄のブラウスはセーフかアウトか」といった微妙なラインで迷ったら、まずは着てみて、一回怒られたら「あ、うちの職場はこれはダメなんだな」と軌道修正すればいいだけのこと。私も服装のマナーを身につけるまではたくさん失敗をしてきました(笑)。

ハラスメントにならない「最強の雑談フレーズ」2選

――最後に、若い世代とのコミュニケーションに迷い、萎縮してしまっているマネジメント層へ向けて、ハラスメントにならずに距離を縮められる具体的なアドバイスをお願いします。

ウィルソン:根底にある目的が「コミュニケーションを取りたい」であるならば、容姿の話題はまず封印して、オープンクエスチョン(はい・いいえの二択で答えられない、開かれた質問)を投げるのが一番安全じゃないかなと思います。 おすすめはシンプルに「最近、調子どう?」。

この一言を投げて、もし相手が「実は最近、プライベートでいろいろあって……」と乗ってきてくれるなら、その距離感に合わせて話を聞けばいいですし、「いや、ぼちぼちですね」とそっけない返事なら、「これはこれ以上踏み込まれたくない距離感なんだな」と察して、それ以上は追わない。ボールをいったん相手に委ねて、相手が返してきたトーンで距離を測るのが、最も安全なアプローチかと思います。

前川:「最近どう?」「元気?」みたいな大きめの質問が私は少し苦手なので、逆に「あの横断歩道を渡ったところにあるお寿司屋さんのランチ、安くてめっちゃ美味しかったんだけど知ってる!?」といった、小さめの質問だけど当たり障りないものから入ります。これなら、個人のプライベートや趣味に踏み込まない客観的な情報なので、言われた側も警戒せずに答えられるはず。

「いや、行ったことないです」と言われたら、「お昼はお弁当が多いけど、お料理するの好き?」とか、相手から出てきた言葉のかけらを拾って、自然に話を広げていけばいい。いきなり「休日は何してるの?」と個人の領域に土足で踏み込まれると、若い世代は「干渉されている」「プライベートを品定めされている」と感じて不快感を抱きやすいものです。

「食」や「場所」の話題から入るって、パーソナルすぎないけど相手のことも知れるし良いなって思います。ハラスメントやルッキズムを恐れるあまり、「さよなら」と関係を切ってしまうのは、組織にとっても個人にとっても、これ以上ない損失です。 傷つける意図のハラスメントは断固として撲滅していくべきですが、過渡期である今だからこそ、発信側も受け手側もリテラシーを高め、双方が一歩ずつ「中間地点」へ向けて歩み寄る努力を続けてほしいと思います。

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