インドネシアの集落サラレ・アイア外周でトラの足跡を見つけるラノさん=2026年2月(共同)

 絶滅危惧種スマトラトラが生息するインドネシアのスマトラ島。殺傷が禁じられているスマトラトラと共存するため、密林周辺の農民らが巡回活動を担う新組織「パガリ」が設けられた。「トラに優しい村」を目指し、人里に来たトラはすぐに捕らえずに追い返す工夫を重ね、家畜の被害を減らしている。(共同通信ジャカルタ支局=山崎唯)

 「これはトラの足跡。3歳くらいですね」。西スマトラ州の山あいの集落サラレ・アイアの外周を巡回中、農家ラノさん(44)は次々と痕跡を見つけた。5年前、収入源の牛2頭をトラに食い殺され、対策を学ぼうと巡回に参加するようになった。「トラを殺して復讐するつもりだったが、生態を学んでとりこになった。名前も付けたんだ」と笑顔を見せる。

 パガリの班長として月2回、森を歩き、無人カメラの映像で往来や個体数を確認している。

 餌の野生のイノシシがはやり病で大量に死んだことがきっかけで、トラが人里に侵入するようになった。政府の自然資源保護事務所は2021年、トラを追い払う巡回方法を指導するため有志を募りパガリを発足させた。トラの通り道に倒木があれば片付けて歩きやすくし、道からそれて民家に近寄らないよう森を整備する。同州でパガリを導入した集落は10に上る。

 保護事務所によると、トラは年に30回ほど出没。森に追い返すのが最優先で、パガリの住民は空砲で威嚇する。それでも侵入が続く場合は保護事務所が出動し、獣医師が麻酔銃を使って捕獲する。人里から遠い別の森に戻す場合もあるが、密猟防止のため場所は秘匿されている。

 「人里に来るのは、老いたり、農作物を守るわなにかかってけがをして狩りが難しくなったりした個体だ」とラノさんは説明する。主なわなはワイヤ型で、動き回るほどきつく絞まり四肢が壊死する。集落でわなの撤去を進め、けがをするトラが減った結果、家畜の被害はほぼなくなった。

 同州ブキティンギの動物園には足を失うなどした4頭が保護されている。獣医師ビランさんは「森の面積が減り、スマトラトラは400頭程度になった。わなの問題を知ってほしい」と訴える。

 島ではスマトラトラは先祖の化身として敬われ「しま模様の祖父母」と呼ばれる。果実ドリアンが旬を迎え、熟して落ちた最初の実は、トラにささげるよう語り継がれてきた。食べ物を巡って人と接触するのを避ける祖先の知恵だ。保護団体を運営する写真家アンドリさんは「トラと人が平和に共存してきたことを忘れてはいけない」と話した。

インドネシア・ブキティンギの動物園で保護されている、わなで前足を失ったトラ=2026年2月(共同)

インドネシアの集落サラレ・アイア外周を巡回するラノさん(右)ら=2026年2月(共同)

リハビリセンター内で放されたスマトラトラ=2017年7月、インドネシア・西スマトラ州(ゲッティ=共同)

インドネシア・西スマトラ州

スマトラトラの状態をチェックする獣医師=2021年1月、インドネシア・西スマトラ州(ゲッティ=共同)