三菱重工業の株価は直近4年間で約20倍に急伸した。投資家の阿部修平さんは「これは個別企業の現象ではなく、30〜40年に一度のインフラ大転換の象徴だ」という。Forbes JAPAN編集長藤吉雅春さんとの対談をお届けする――。

※本稿は、阿部修平、藤吉雅春『コンパウンドグロース投資 世界を牽引する日本の新時代』(リンクタイズ)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Thossaphol
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Thossaphol

■ある日突然、株価が10倍に

【阿部】僕は、「じゃあ、世界で今、起きている構造の転換とは何だろう」ということをずっと考えていたんですが、最近、ようやくそのヒントを見つけました。そのきっかけとなったのは、三菱重工業の株価でした。

【藤吉】ここ最近の上がり方がすごいですね。2022年ごろまで270円程度だった株価が、直近では4000〜5000円台にまで達してます。テンバガーどころか、20倍に近い。

【阿部】しかも上がり始めたのは、ある日突然なんですよ。僕が株式市場を見始めた40年以上前からずっとある大企業ですが、1970年代から2022年ごろまでは、ずっと株価も利益も横ばいでした。それがこの3年ぐらいで急に10倍になっている。まるでスタートアップやベンチャー企業のような上がり方をしている。これはいったい何なんだ、と。僕らも三菱重工の株はもっていて、この会社を調べるアナリストもいるから、個別の理由は分析できる。けれどこの急騰の仕方というのは、個別企業の現象として説明して、それで終わりにすべきじゃないというのが僕の問題意識です。

【藤吉】なるほど。

撮影=大中啓
スパークス・グループ社長の阿部修平氏(左)とForbes JAPAN編集長の藤吉雅春氏 - 撮影=大中啓

■三菱重工を動かす「国防」と「環境」

【阿部】まずは個別の理由として「わかること」から押さえていくと、今、三菱重工を収益面でけん引しているのは、「国防」と「環境」です。

国防でいえば、これから多極化時代を迎える中で、世界の防衛が新しいかたちを求めているという前提があります。従って主要な覇権国、軍事大国は国防上、必要な武器弾薬防衛装備を再度見直して、集めなきゃいけない時期にあたる。では日本の防衛省がそれをどこに頼むかといえば、頼めるのは三菱重工のほか、一握りの企業しかない。これはインフラを支える企業の特徴で、競合相手がほとんどいない寡占的な市場なんですよ。

【藤吉】国防も環境もつまり、インフラですね。

【阿部】そうです。環境でいえば、三菱重工で今、好調なのは、ガスタービンです。その背景に近年の世界的なCO2削減のトレンドがある。ある日突然「これからは環境汚染はいけないよ」という制約がインフラに加わったことで、二酸化炭素の排出量を減らしつつ、ガスを使って発電するガスタービンの需要が急に高まったわけです。

■40年に一度のインフラの大転換期

【阿部】ところが、ガスタービンというのは、数千億円規模の研究投資が必要な「超資本集約型」の部門なんですね。だから2000年代以降、太陽光や風力など再生可能エネルギーが注目を浴びると、火力を使うガスタービンは“古い技術”とみなされて、欧米の企業などでは、だいたいリストラしてしまったんです。だから、今、新たにつくろうと思っても、つくれるところがほとんどない。三菱重工はその需要に応えられる世界的に見ても数少ない企業なんです。

【藤吉】ガスタービン不遇の時代も維持し続けたのが、今になって効いている。

【阿部】それはインフラをつくる企業の特徴でもあります。公共に資する仕事だから、ずっと鳴かず飛ばずの事業だったとしても、ずっともってなきゃいけない。インフラが出来上がってしまうと、次の転換期まで需要はないんです。

【藤吉】その転換期がようやくめぐってきたわけですね。

【阿部】それも30年から40年に一度のインフラの大転換期ですよ。だから、この三菱重工の事例は、新たなインフラをつくることで新しいインフラ企業が稼働し始めた象徴的な出来事として見るべきだというのが、僕の結論なんです。

しかもエネルギーという極めて根幹を成すインフラで、この大転換の影響は世界に及ぶ。そして世界中探しても、三菱重工を代替する企業は基本的にない。モノポリーなんです。だから三菱重工の株価上昇は防衛需要によるものだけでなく、インフラ企業としての本質的価値の再評価がなされた、と僕は見ています。

■世界三強の中でも三菱重工に分がある

【阿部】今日はウチで三菱重工を担当しているアナリストの宮崎君にも来てもらっているので、もしもっと詳しいことが聞きたければ、どうぞ。

【藤吉】ではちょっと個別のお話を伺わせてください。今、世界でガスタービンを作っている企業は、重工以外にどこがあるんでしょうか?

【宮崎】三菱重工、アメリカのGEベルノバ、ドイツのシーメンスが、ガスタービンの三強ですね。GEベルノバはGEが発電部門を分社化した会社です。この3社でほぼ世界の大きいGTCC(ガスタービン発電システム)を手掛けてます。

【藤吉】品質面ではやはり重工に分がある?

【宮崎】そうですね。燃焼効率と耐久性の面で、重工にやや分があるようです。やはり数十年規模で安定稼働することが大事なので。今、アメリカ、日本、あとはアジアで需要が、何十台という受注が積み上がっているという状態です。

これが三菱重工の売上高と利益の推移を示したチャートです(図表1)。この「エナジー」というのがガスタービンを中心とした発電システムですが、グローバルにじわじわと伸びているのがわかります。それに加えて直近では、防衛・航空・宇宙、特に防衛がけん引しています。

図表作成=スパークス

■赤字でも防衛を切り捨てなかった成果

【宮崎】エナジーはもちろん収益性が高いんですけど、株価の評価がドンと上がっているのは、やはり防衛の収益拡大への期待が高まったのが大きいかな、と。

阿部修平、藤吉雅春『コンパウンドグロース投資 世界を牽引する日本の新時代』(リンクタイズ)

【阿部】PER(株価収益率)も2024年から上がってるね。1株あたりの利益に対する評価の割合が急速に拡大したということ。ただ、それまでの評価があまりに低かったという言い方もできます。

【宮崎】航空・防衛・宇宙セグメントに関しては4年前まで、ほぼ利益は出ていませんでした。けれど、たとえ赤字であっても、技術としては保有し続けなければならない。低採算のものも含めて複数の事業を国防のために維持する必要があって、三菱重工自体が一種コングロマリット(複数の事業を持つ複合企業)化してきたのだろうな、と思います。

【藤吉】もともとの祖業というのは造船ですよね?

■「多数の事業を長く続ける」企業は強い

【宮崎】そうですね。1884年(明治17年)に官有の長崎造船局を事業承継したのが始まりです。興味深いのは、それがコングロマリット化していく過程で、これまでに何度となくセグメント(事業区分)を入れ替えて、“見せ方”を変えているんですよ。

例えば2010年ごろは「船舶・海洋」「原動機」「航空・宇宙」というような7つのセグメントで分けていたんですが、直近では「エナジー」と「航空・防衛・宇宙」という2つを、大きな成長の柱として見せています。いずれにしろ大型の動力システム、つまり「燃料を燃やし、回転エネルギーを生み出し、巨大な動力に変える技術」が、すべてのセグメントに共通する「コア技術」ということになります。

【藤吉】このスライドには撤退事業も書いてありますね(図表2)。

図表作成=スパークス

【宮崎】あえてそれを書いたのは、複数の大きな成長事業をやっているのに対し、実は大きな撤退は過去はあまりしていないということを言いたかったんです。

それこそ2010年ごろとかは、株式市場から“コングロマリットで評価しづらい”という批判もあったので、セグメントの見え方をシンプル化したんですが、大きな撤退はあまりしていない。

実際にやめたのは工作機械(2021年売却)、МSJ(旧MRJ)のジェット旅客機(2023年撤退)と新聞印刷機も2024年に撤退する方針を発表しました。2025年には三菱ロジネクストというフォークリフト事業の売却を決めましたが、それぐらいですね。そういう意味では、多数の事業を長く続けることが価値だというのが、この会社のカルチャーですね。

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阿部 修平(あべ・しゅうへい)
投資家
1954年札幌生まれ、1978年上智大学経済学部卒業、1980年にバブソンカレッジでMBA取得。帰国後、株式会社野村総合研究所入社。企業調査アナリストとして日本株の個別企業調査業務に従事。その後、1982年4月にノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル(ニューヨーク)に出向し、米国機関投資家向けの日本株のセールス業務に従事。1985年、アベ・キャピタル・リサーチを設立(ニューヨーク)。クウォンタムファンド等欧米資金による日本株の投資運用・助言業務を行うとともに、欧米の個人資産家の資産運用を行う。1989年に帰国後、スパークス投資顧問(現スパークス・グループ株式会社)を設立、代表取締役社長に就任(現任)。2005年ハーバード大学ビジネススクールでAMP修了。2012年6月より株式会社国際協力銀行(JBIC)リスク・アドバイザリー委員会委員を務める。
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藤吉 雅春(ふじよし・まさはる)
Forbes JAPAN編集長
1968年佐賀県生まれ。2019年3月より『Forbes JAPAN』編集長。著書『福井モデル 未来は地方から始まる』(文藝春秋)は2015年、新潮ドキュメント賞最終候補作になった。2016年には韓国語版が発売され、韓国オーマイニュースの書評委員が選ぶ「2016年の本」で1位に。2017年、韓国出版文化振興院が大学生に推薦する20冊に選ばれた。他に『ビジネス大変身! ポスト資本主義11社の決断』(文藝春秋)や『未来を「編集」する シンクタンクAPIの実験』(実業之日本社)などがある。
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(投資家 阿部 修平、Forbes JAPAN編集長 藤吉 雅春)