なぜユニクロは世界的企業に成長できたのか。ファーストリテイリングの元執行役員で、教育・人材育成に携わってきた宇佐美潤祐さんは「ユニクロは日本企業の最大の弱点である将来の成長期待アップを、イノベーションをドライブする“仕組み化”を通じて行っている」という――。

※本稿は、宇佐美潤祐『ユニクロの仕組み化』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

Meir Chaimowitz/NurPhoto/共同通信イメージズ
ニューヨークのユニクロ(=2024年3月27日) - Meir Chaimowitz/NurPhoto/共同通信イメージズ

■「仕組み化」で日本企業の弱点を克服

通常仕組み化というと経営効率の向上、つまりROE向上に効くというように思われがちです。もちろんその要素も大きいのですが、ユニクロファーストリテイリング)の場合はイノベーションをドライブする仕組み、すなわち将来の成長期待PER向上に効く仕組み化も同時に行っていることが他社と一線を画し、企業価値創出力No.1実現の大きな原動力になっていると私は考えています。

前回「伊藤レポート」の話をしましたが、2014年に「伊藤レポート」が出てからの10年を振り返り、日経ビジネスが「伊藤レポート10年 生みの親・伊藤邦雄名誉教授のメモににじむ無念」という興味深い特集記事を組んでいました。

日本企業はROEは9%台に改善はしてきたものの、PERは横ばい、つまり市場からの将来の成長期待は相変わらず低いという分析結果が出ています。

ユニクロは日本企業の最大の弱点である将来の成長期待アップを、イノベーションをドライブする仕組み化を通じて行ってきました。ここにユニクロの仕組み化の最大の特長があり、日本企業・読者のみなさんに大きな示唆があるのではないかと思っています。

■根幹となる基本戦略「グローバルワン・全員経営」

ここではユニクロを企業価値創出力No.1企業にならしめた仕組み化の話をしていきます、その全体像を図表1に示しました。

図表=『ユニクロの仕組み化』

PBR=ROE×PERという企業価値創出の方程式にユニクロの仕組みがどう連関しているかを示したものです。

前述した通り、生産性を上げる仕組みのみならず、イノベーションを促す仕組みが、意識を高める仕組み、成長を促す仕組みと相まって、ROEとPERを高め、結果としてPBR(企業価値創出効率)を高める構造になっています。各仕組みについては序章以降で詳しく話していきますが、ここでは仕組みの根幹となる基本戦略である「グローバルワン・全員経営」について頭出しをしておきます。

グローバルワン・全員経営は、ユニクロが事業を行うに当たり最も大切にしている考え方です。世界で一番良い方法を全員で実行する。それを通じて世界一を目指す最強の集団になる、という意味です。

世界で同じ経営理念、価値観を共有することは大前提ですが、その実現のための行動が必要で、その行動の基本となる考え方がグローバルワン・全員経営です。今自分がやっていることは本当に世界で一番良い方法なのかを真剣に考え、実行しては改善を繰り返し、全員が情報共有して、より良いものに進化させていく、それが集約されればすごい力になる。これがグローバルワンの本質です。

■世界中の全ての社員が経営者感覚を持つ

全員経営とは、世界中の全ての社員が経営者感覚を持ち、全員で経営をしていくことをいいます。

柳井さんは「自分で考えて、自分で行動する。これが商売の基本だ」と常々口にしています。そのマインドを役員や管理職だけでなく、店舗のスタッフも持つ仕組みをユニクロでは構築しています。

写真=iStock.com/tadamichi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

たとえば、東京の吉祥寺店のウィメンズアウターの担当者でしたら、その売り場を経営者の意識でマネジメントします。自分の担当部門で地域のニーズに合ったどんな品ぞろえ・売り場にしてどれくらいの売り上げ・利益を稼ぎ出すのかを経営者として考え抜き実践し、PDCAサイクルを回します。社員でもアルバイトでも経営者の意識を持って働きます。

もちろん、ハードルは高いですが、それが実現できたときのやり甲斐は大きなものがあります。そのハードルを全ての働いている人が飛び越えるための仕組みが必要になるのです。

世界共通の土台である「グローバルワン」という仕組みに、誰もが自分で考えるマインドを持つ「全員経営」という仕組みを掛け合わせる。全ての社員が経営者マインドを持ち、全ての社員の叡智を集めた世界で最も良い方法を実行していくことがグローバルワン・全員経営です。

■過去の延長できちんと回すことはあまり評価されない

ユニクロを世界的企業に成長させ、市場からも高い評価を得る原動力になったといっても言いすぎではありません。ユニクロでリーダーに求められるのは「変革と創造」とよくいわれます。変革とは仕組みを変えることで、創造は仕組みをゼロからつくることです。

日本の企業では既存の仕組みを効率良く回すことが評価されがちですが、ユニクロでは過去の延長できちんと回すことはあまり評価されません。リーダーとは仕組みをアップグレードさせたり、つくったりする人なのです。​

たとえばユニクロの最近の最重要プロジェクトといわれている「有明プロジェクト」というDX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクトがあります。このプロジェクトが何を変えたかというと、サプライチェーンと顧客体験という会社のあり方そのものを変えました。

ユニクロの急成長の原動力は他社が真似できない品質の商品を大量生産することでした。日本でトップのSPAの地位を確立しましたが、このプロジェクトでは情報製造小売業への進化を試みています。デジタルデータを活用して、必要なものを必要な量つくり、無駄なく消費者に届けるという製造業の最大の課題に挑んだのです。

■「ビジョンをつくる」1割、「仕組みをつくる」9割

当然、実現するためには商品開発、生産、物流、全てを変えることになります。サプライチェーンを大改革する巨大プロジェクトです。これは全社レベルでの「変革」ですが、ユニクロでは地域や店舗、店舗の特定の売り場で毎日のように「変革と創造」が繰り返されています。

宇佐美潤祐『ユニクロの仕組み化』(SBクリエイティブ)

私は教育・人材育成という切り口でユニクロの現場で仕組みをつくり、そして広げる役割を担ってきました。本書では、仕組みづくりのノウハウを含め、私の経験・知見と社員へのインタビュー、公開情報に基づきお伝えします。

リーダーの本質は「ビジョンをつくる」ことと「仕組みをつくる」ことです。それに尽きます。それ以外のことをやる必要はありません。ウェイトで言えば「ビジョンをつくる」こと1割、「仕組みをつくる」こと9割です。

カリスマ性がなくても、リーダーシップを発揮するのが苦手でも、問題ありません。経営者や、経営者を目指すみなさんに求められているのは、仕組みづくりです。仕組みづくりは誰でもできます。最も重要なのは、仕組みをつくろうとする姿勢と要諦の理解です。それでは一緒に仕組みづくりの要諦を、ユニクロの仕組みを題材に見ていきましょう。

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宇佐美 潤祐(うさみ・じゅんすけ)
UNLOCK POTENTIAL代表取締役CEO
東京大学経済学部卒業。ハーバード大学ケネディ大学院修了(政策学修士)。アーサー・D・リトル経営大学院修了(経営学修士、首席)。 1985年に東京海上に入社。米国留学を経て、戦略コンサルティング業界へ。ボストン コンサルティング グループ(BCG)ではパートナー、組織プラクティスの日本の責任者を務め、Organization Practice Awardを受賞。その後、シグマクシスを経て、2012年から2016年の間、ファーストリテイリングの経営者育成機関FRMIC担当役員を務めた。その後アクセンチュアの人材組織変革プラクティスのジャパン全体の責任者を経て、リード・ザ・ジブンを起点にした人材組織変革を手掛けるUNLOCK POTENTIAL(「人と組織の可能性を解き放つ」の意味)を設立。デジタルトランスフォーメーションにともなう人材組織変革、経営者人材育成、経営チーム変革、組織風土変革、新規事業創出等のコンサルティングおよび研修・講演を行なっている。
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(UNLOCK POTENTIAL代表取締役CEO 宇佐美 潤祐)