9年前のミラノ万博を席捲した「日本館」 大盛況のフードコートでイタリア人が「最高」と評した意外な日本食とは
第1回【大阪万博が盛り上がらなくても9年前は…ミラノ万博の「日本館」が“行列9時間の超人気パビリオン”になった納得の理由】のつづき
気づけば大阪万博まで約5カ月。一体どうなるのか予測もつかないが、どうせやるのなら日本にとってプラスの効果があることを期待したいものである。そこで参考にしたいのが過去の成功事例。2015年10月末に閉幕したミラノ万博では、並ぶのが嫌いなはずのイタリア人が「日本館」で最長9時間もの行列を作った。また、和食のプロたちが出店したフードコートで、イタリア人が「最高!」と評したメニューとは?
(全2回の第2回:「週刊新潮」2015年10月29日号「イタリア人が行列9時間! 参加140カ国中の断トツ! ミラノ万博『日本館」』が圧倒的な人気になった理由」を再編集しました。文中の役職等は掲載当時のものです)
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【写真】インタラクティブに「和食」を学ぶ…ミラノ万博「日本館」の展示内容
食玩と模型で伝統食を再現
続く第2シーンは、押し花が展示された石畳風の回廊を抜けて、「ダイバーシティ」という部屋につながる。ちなみに、14種類の押し花はそれぞれ異なった香りを放ち、各地の四季を象徴しているという。ダイバーシティは中央に“滝”があり、日本の食材や料理などを映した1000を超えるという写真が次々と流れ落ち、画像に触れるとスマホに取り込める仕組みだ。
「レガシー」という廊下に抜けると、「一汁三菜」「発酵・天日干し」「出汁・うま味」など日本の伝統食を彩る食材や食品が、食玩という精巧な模型となって壁面に展示、そのしつらえ方まで示されている。また、小さな子供の目線の高さに日本の農村風景がミニチュア模型で再現されていたりと、工夫が凝らされていた。
次に「イノベーション」と題された第3シーンヘ。ここでは05年の「愛・地球博」で使われたキャラクター、モリゾーとキッコロが登場し、気候変動や途上国の農業支援など、地球規模の食の課題に日本がどう取り組んでいるかが、触れると情報が浮かび上がる地球儀などを通じて示される。
第4シーン「クールジャパン・ギャラリー」は、日本各地の伝統工芸に最新のデザインを施した食器を展示。経産省の管轄である。
寿司やラーメンだけが日本ではない
そして最後が、第5シーン「ライブ・パフォーマンス・シアター」。ダイニングテーブル風の客席に着席して、男女2人が先導する15分ほどのショーを見ながら、箸を手に取って、テーブル上に次々と現れる映像の懐石料理を味わうのだ。
「イタリア人は和食に、寿司やラーメンなど単品のイメージを抱いている人が多く、“コースの料理があるんだ”と驚く方もいます。生魚ばかり食べていると思っている人が“日本では肉も魚も野菜もバランスよく食べているんだ”と驚かれることもありますね」(前出の20代女性アテンダント)
アテンダントの数も日本人だけで100人超、イタリア人を含めると200人超と、全パビリオン中で圧倒的な数だとか。それが滝川クリステルのあの言葉につながっているそうで、「日本館」の陳列区域政府代表を務める加藤辰也氏は、「日本の“おもてなし”で快適にお迎えしている」と強調すると同時に、
「イタリアにはテーマパークがあまりないから、期待値を含めて興味を持たれているのではないか」
と語る。たしかに、展示中心の他パビリオンにくらべ、日本館はアナログと最新のテクノロジーがうまく組み合わされ、テーマパークに通じる演出が施されているのは間違いない。
「そんなに待つなら日本へ行くよ」
だが、入館者は本当に満足しているのか。何人かに声をかけてみた。ミラノ市内から来て、入館をあきらめたという30代の男性は、
「5、6時間も待つなんてクレージーだ。そんなに待つなら日本へ行くよ」
と言い、サルデーニャ島のカリアリから来たという10代の女性も、
「6時間待ちなんて人生で初めて。日本のアニメが好きだから見に来たのに、全然なくてがっかり」
という感想だが、中部イタリアのリヴォルノから来た20代のカップルは、
「インターネット上でみんなが、“日本館が一番美しい”とコメントしているので来ました。4時間半待ちは人生で最長だけど、もともと好きだった和食がもっと好きになりました」
中部イタリアのマルケ州から来た20代男性も、
「すでに観た友人から勧められて来て、3時間半待った価値はあった。前から日本が好きだったけれど、食べ物のことは知らなかったから、勉強になりました」
日本の食をPRできたようだ。もっとも、20代と30代のアフガニスタン人のカップルのように、
「友人たちから日本館が一番いいと言われ、待ってでも入って、待った価値もあったけど、和食はあまりおいしそうに見えないから、食べたいと思わない」
という例や、高齢者と障碍者、子ども連れの入館方法に不満の声もあったが、イタリアの最有力紙「コリエーレ・デッラ・セーラ」が8月に行った人気投票では、「万博を観たあとで訪れたい国」として日本を挙げた人が最も多かったから、総体としては成功と言えるのだろう。
フードコートが大賑わい
こうしてひと通り展示を観終った入館者を、レストランが待ち構えている。京懐石の美濃吉のほか、フードコートと呼ばれるエリアに、CoCo壱番屋、サガミ、京樽、人形町今半の4軒が連なっていた。その脇にイベント広場がある。
「農水省は20年までに、日本の農林水産物の輸出を現在の6000億円から1兆円に増やす目標です。それには、食に関して保守的なヨーロッパにも、日本の食材を売り込む必要があります。その点、この万博では日本の食材について、多くの特例が認められ、よい前例になっています」
そう語る加藤政府代表が具体例として挙げるのは、
「日本の和牛は4カ所の屠場のものしかヨーロッパに輸出できなかったのが、美濃吉のステーキに、それ以外の産地の肉を使うことが認められた。イベント広場でも、禁止されていた日本産の鰹節が使えています」
広報の尾高氏によれば、山口県のイベントでは、イタリアでは「毒魚」として禁じられているフグの調理が認められたという。
「天ぷらそばがすばらしかった」
また、フードコートは大賑わい。座席数は160だが、1日のレジ数は2500〜4000だという。
「驚異的な数字です。各店は客の需要をとらえるプロ中のプロばかりで、彼らが今後、ヨーロッパで和食を展開すると、広がりのスピードが変わってくる」
と、加藤政府代表は期待を寄せる。再び入館者に尋ねてみよう。
「10代の娘が日本文化好きで、どうしても見たいというからわざわざ来て、6時間待ったけど、娘が満足しているからよかった。でも、私は日本館よりここで食べた和食に満足。天ぷらそばがすばらしかった」(シチリア島から来た40代の女性)
「前回はお寿司、今回は天ぷらそばを食べたけど、天ぷらそばは最高だ」(ミラノから来た20代と30代のカップル)
2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことを契機とし、ミラノ万博で弾みのついた和食ブームをどう活かせるか、それが今後の日本の課題となるだろう。
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第1回【大阪万博が盛り上がらなくても9年前は…ミラノ万博の「日本館」が“行列9時間の超人気パビリオン”になった納得の理由】では、開会当初も会場内では工事が続き、閑古鳥が鳴いていたという当時の状況や、ほどなくして日本館に人だかりができ始めたという証言などを伝えている。
デイリー新潮編集部