小児科を標榜しているのに「小児科専門医」がいない…現役医師が受診前の確認を強く勧める病院サイトの項目
■診療科を標榜する際のルール
診療所(クリニック)や病院が、「小児科」「内科」「外科」などの診療科を表に出すことを「標榜」といいます。標榜は「厚生労働省のルール」に則って行われるもの。よく医療機関の看板やWEBサイトなどに書かれていますね。
ただ単に内科・外科というだけでなく、内科系だったら○○内科、外科系だったら○○外科といったように病気の部位や病気を組み合わせて標榜することもできます。例えば「呼吸器内科」「循環器内科」、「脳外科」「整形外科」というような診療科を見かけたことがあるでしょう。「糖尿病・代謝内科」のように病名と診療科がセットになったものもあります。
また「児童精神科」「男性泌尿器科」というように患者さんの性別や年齢を組み合わせたり、「ペインクリニック科」のように医学的処置を標榜することもできます。これは患者さんが受診したいときに、どこの医療機関に行ったらいいかわかりやすくするためのものです。
■標榜イコール専門医ではない
ただし、標榜している診療科は、各診療所や病院の「うちではこんな病気を診ます」という意思表示に過ぎず、専門医がいるかどうかを保証するものではありません。外看板やWEBサイトに「小児科」と書いてあるからといって、その医療機関に必ず「小児科専門医」がいるとは限らないのです。
さて、みなさんは専門医制度についてご存じでしょうか。これは日本専門医機構によって設けられた制度で、行動目標に「国民だれもが、標準的で安心できる医療を受けることのできる制度を目指します」とあります。医療機関にかかりたい人、患者さんが安心して医療を受けられるように、医師の質を担保する制度なんですね。
専門医になるためには、医師が日本専門医機構や各学会から専攻医登録サイトで専攻医として登録し、決められた医療機関で働きながら3〜5年間の専門研修プログラムを受け、症例報告などを提出し、さらに専門医試験に合格して認定を受ける必要があります。
小児の専門的な経験と知識を持った人が「小児科専門医」、骨や筋肉なら「整形外科専門医」というように、診療を行う臨床医が持っている基本的なものです。患者さんと一対一で会うことのあまりない「病理医」にも専門医資格があります。
■専門医をいくつもは取れない
この専門医資格において、「基本領域」と呼ばれる大きな資格をいくつも取ることはなかなかできません。基本領域というのは、内科、小児科、皮膚科、精神科、外科、整形外科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、脳神経外科、放射線科、麻酔科、病理、臨床検査、救急科、形成外科、リハビリテーション科、総合診療です。同時に、複数の領域の専攻医登録をすることはできません。
さらに専門医資格は、取得後も5年ごとに更新する必要があり、そのためには日々研鑽を続けなくてはなりません。具体的には、どのように診療をしているかを記載し、バランスよく単位を取ります。専門医の更新に必要な単位は、専門医共通講習と領域講習を受けたり、学会に参加したり論文を書いたりすることで取得できます。でも、診療業務をしながら単位を取るのは時間のかかるものです。
そのため、複数の専門医資格を持っている医師は非常に稀です。つまり、小児科専門医で麻酔科専門医だとか、皮膚科専門医で精神科専門医だということはほとんどありません。そもそも専門性を高めることが大切にされているため、基本領域の専門医資格を同時に3つ以上持つことは推奨されていないのです。
■サブスペシャリティ領域とは
ただし、基本領域のさらに細分化された資格である「サブスペシャリティ領域」では、専門医を2つ持つことができます。サブスペシャリティという専門医資格には、基本領域の専門医を取る際に連動して研修を受けられるもの、連動研修を行うことができないもの、少なくとも1つのサブスペシャリティ領域を習得した後に研修を受けるものの3種類があります。
どういうものがあるかというと内科系が16(消化器内科、循環器内科、呼吸器内科、血液、内分泌代謝・糖尿病内科、脳神経内科、腎臓、膠原病・リウマチ内科、アレルギー、感染症、老年科、腫瘍内科、肝臓内科、消化器内視鏡、内分泌代謝内科、糖尿病内科)、外科系6(消化器外科、呼吸器外科、心臓血管外科、小児外科、乳腺外科、内分泌外科)、放射線科2(放射線診断、放射線治療)です。
これに加えて、2022年4月から脊椎脊髄、集中治療、放射線カテーテル治療の3つのサブスペシャリティ領域専門医の研修が始まりました。他にも新生児科など新たに日本専門医機構の認定を受けることを目指している分野もあります。
一方、小児耳鼻科とか胃腸内科といったものは日本専門医機構が認めるサブスペシャリティではありません。医療機関がどういう人を対象にしていて、受診してほしいのかを標榜しているものです。
■診断や治療に問題があることも
そんなわけで、診療所や病院が「小児科」「小児○○科」などと標榜していても、先に述べたように専門医どころか、小児に詳しい医師がいないかもしれないのです。これは大問題でしょう。
ある日、顔にブツブツができた赤ちゃんが私のクリニックを受診し、保護者の方は「看板に『小児皮膚科』と書かれたクリニックへ行ったのですが、よくわからないから小児科に行くようにと言われてきました」とのこと。生まれて間もない子によく見られる典型的な「新生児ざ瘡」だったので、小児皮膚科を標榜するなら診療できなければおかしいと思いました。
また別の日には、食事制限を解除してほしいという子どもが受診し、保護者の話によると「別の内科クリニックで、多数の除去食を指示されました」とのこと。食べ物が原因と思われる湿疹でも、子どもの食物除去は成長のために、必要最小限にしなくてはいけません。食べ物によっては、食べることでアレルギーを緩和する「経口免疫療法」を行うこともあります。血液検査でいくつもの食べ物に対してアレルギーがあるという結果でも、症状が出ない場合は食べさせます。そういったことに詳しくない医師が、アレルギーの原因として疑わしい食べ物を多数禁止していたのです。
■最も心配なのはオンライン診療
私が今一番心配しているのは「オンライン診療」です。先日受診した子の保護者の方は「夕食後に吐いて、突然ゼイゼイし始めて咳も出ていたのでオンラインで診てもらいました。初めてかかる遠方の内科クリニックでした」とのことでした。
このクリニックは、厚生労働省が出している「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に照らすと、いくつもの原則に反しています。以前から薬をもらっているような慢性の病気でなく、出始めた症状で受診することを「初診」といいますが、オンライン診療での初診は原則「かかりつけ医」でないといけません。実際の対面で行う診察に比べて、オンラインでは情報量が少ないからです。また、必要に応じて対面診療を適切に組み合わせなければいけません。
今回のような症状では、緊急の処置が必要になることもありますが、遠方では「すぐに来てください」あるいは「往診します」といったことができません。しかもアレルギーの中でも激しいアナフィラキシーであった可能性もあります。その医師は「アレルギーの内服薬を出すから、明日近くの小児科でアレルギー検査をしてください」と言ったそうで、おそらく小児科専門医でもアレルギー専門医でもないでしょう。
このお子さんは幸い大事には至りませんでしたが、いつか緊急対応が必要な患者さんが、不十分な対応によって病状が悪化しないかととても心配です。
■どの分野でも専門医のほうが安心
もちろん「専門医であれば絶対にいい」とは限りません。でも間違いなく、なるべく専門医を探して受診したほうが安心ですし、医療機関を探すときの指標にはなりますね。専門医かどうかを確認するには、医療機関のWEBサイトで医師の経歴を見る、学会のWEBサイトにある「専門医を探す」で名前を検索するなどの方法があります。
中学生までの子どもの場合は、小児科専門医のいる近くの小児科クリニックをかかりつけにすると安心でしょう。ただし、子どものことならなんでも小児科というわけではありません。
例えば、ときどき「健康診査で詳しい検査をしてもらうように言われたから」と視力が心配な子が、小児科に来ることがあります。保護者は「近くに小児眼科がないので、眼科を受診するべきなのか小児科なのかわからなかった」とのこと。視力や視野、目の中の病気は小児科クリニックでは診られないので、眼科へ行きましょう。同様にケガの場合は外科や整形外科へ、耳や鼻の病気は耳鼻科へ、皮膚については皮膚科が適切です。ただ、軽い中耳炎や肌荒れなどなら小児科でも大丈夫でしょう。
標榜されている診療科を受診していいのかどうかわからないときには、受診する前に電話などで確認するのがおすすめですよ。
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森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。
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(小児科専門医 森戸 やすみ)