甲子園かけた大一番で初完投 横浜のスーパー1年生、織田翔希の才能を生かした先輩たちの“操縦術”
秋季関東大会4強入り、来春選抜出場をほぼ手中に
第77回秋季関東高校野球大会は28日、横浜市のサーティーフォー保土ヶ谷で準々決勝2試合を行い、横浜(神奈川)が2-0で東農大二(群馬)を下して準決勝進出。来春の選抜出場へ大きく前進した。春は2019年以来、6年ぶりとなる甲子園がかかるこの1戦で、勝利の立役者となったのが先発し、9回をわずか2安打、7奪三振で完封した織田翔希投手(1年)だ。ただでさえプレッシャーがかかるこの試合で、スーパー1年生はなぜ高校初完投できたのか。ひと皮むけるまでには、影に日向に先輩たちの支えがあった。
織田は最速148キロを記録した自慢のスピードボールでゲームを支配した。初回1死から荒井奏遼内野手(2年)に左越え二塁打を許したものの、続く打者の投ゴロを好処理。走者を三塁で刺すと波に乗り、2回から5回までは3人ずつで片付けた。6回2死から安打と申告敬遠で2人の走者を背負いピンチを迎えると、制球に苦しみながらも次打者を二ゴロに打ち取りしのいだ。すると7回以降は、また1人も走者を許さなかった。
村田浩明監督は、織田に最後までマウンドを守らせた理由を「6回か7回までの予定だったんですけど、こんなに成長できる機会はないと思ったので」と明かす。スタンドに陣取るプロ野球のスカウトも驚く快速球を投げるとはいえ、まだ完投の経験がない1年生。ピンチで続投の選択は指揮官にとっても、覚悟のいる行動だった。「9回投げられたことで、彼にも横浜にも価値ある1勝になりました」と、大きなリターンを喜んだ。
東農大二に三塁も踏ませなかった快投を、織田は「チームに流れを持ってきて、勝利に導く投手になりたいと思っているので。自分がしっかり投げて、勝利できたのは良い点だと思う」と涼しげな表情で振り返る。横浜は「全員野球」をテーマに掲げるチームだ。6回に背負ったピンチでも、リードは「駒橋さんに任せていた」と、バックへの信頼を口にする。
バッテリーを組んだ駒橋優樹捕手(2年)は、織田の一番の持ち味である真っすぐを生かす配球を考えてきた。強気なところも「内角をつく強気のリードがしやすいので。厳しいところに投げないと、一流の投手になれない」と操縦術に生かしている。さらに「コミュニケーションを深くとってきた結果が、今日のピッチングにつながった」と、学年の壁を作らず接してきたのも生きた。
織田を支えた先輩は、駒橋だけではない。背番号1の左腕、奥村頼人投手(2年)は終盤、握力が落ちてきたとベンチでこぼす織田を「俺がいるから大丈夫。安心して、思い切って投げろ」と励まし続けた。隣に座って、手のマッサージまで施してくれたという。最高の鼓舞を受け取った織田は、「後ろには頼人さんが控えてくれていたので、自分も最後まで思い切って投げることができました」と感謝しきりだ。
来春の選抜甲子園で、関東の出場枠は「4」。この大会での準決勝進出はほぼ当確ランプと言える。ただ織田は「まだ決まったわけではないので、次も一戦必勝で。チームワーク、全員野球で頑張っていきたい」とこの大会の頂点を見据える。全国での躍進にも、もちろん織田の力は不可欠。それを分かっている先輩たちは影に日向に、スーパー1年生を支え続ける。
(THE ANSWER編集部・戸田 湧大 / Yudai Toda)