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2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。

「広告に出稿すればいい」という考え方は、
思考停止

 前回見たように顧客と様々な出会い方がある中でも、「知人の推奨」や「オンラインに投稿された消費者の意見」など口コミが非常に重視されていることがわかる。そのため、単に「広告に出稿すればいい」という考え方は、思考停止だといわざるを得ない。

 出会い方の設計(マーケティング)に関しては、後ほどで詳しく解説するので、ここでは、概要の説明にとどめておく。

 顧客がプロダクトやサービスと出会うきっかけは、主に以下の4つがある。

 1.広告などをきっかけに知る「有償トリガー」
 2.アプリストアで特集されたりメディアで露出する「名声トリガー」
 3.すでに利用している誰かの話を耳にしてサービスを使う「口コミトリガー」
 4.メールやスマホなどの通知で知る「自己トリガー」

 このうち、より重要になりつつあるのは、「名声トリガー」と「口コミトリガー」だ。人は、権威のある人や、あるいは憧れの人に裏付けされた“お墨付き”を信じる傾向があるためだ。

 反対に、情報過多の今、敬遠されつつあるのが広告で出会う「有償トリガー」だ。ここ数年で、広告ブロックをかけてしまうユーザーの割合が劇的に増えている状況を鑑みても、ただ単に広告枠を購入して、一方的にメッセージを垂れ流し続ける広告の効果は薄れてきている。

プロダクトとサービスの出会い方を
「より自然に」していくために

 行動人間は損したくない欲求が非常に強い経済学の理論に「プロスペクト理論」がある。これは一言で言えば、「人間は損したくない欲求が非常に強い」ということだ。広告でうっかり買ってしまい、「こんなはずじゃなかった」という失敗をした経験のある人は、広告に嫌悪感を覚えたり、ネガティブな感情を持ってしまう。

 重要なことは、プロダクトとサービスの出会い方を「より自然に」していくことだ。広告で出会うのではなく、ユーザーが取っつきやすいトピックや共感しやすいトピックから入り、「育成」「啓蒙」するのも有効になる。

 たとえば、家計簿ツールのMint(ミント)というアプリがある。このアプリは、いきなりアプリをすすめることはしなかった。最初は、生活の知恵や節約について述べる記事をアップし続けた。「今までお金をムダに使っていたかもしれない」「節約ってこんなに色々方法があったんだ」と潜在ユーザーに気づかせることによって、家計簿ニーズを顕在化した。

 つまり、ユーザー自らが「家計簿を使ってみたい」と受け入れる土壌を作ったのだ。その経緯を経て、家計簿ツールの必要性を感じさせてアプリの導入へと誘導するように促したのだ(下図)。

起業参謀の問い

 ・顧客にとって、そのプロダクトとの「最も良い出会い方」は何か?
 ・5つの不「不認知、不信、不適、不要、不急」を解消するための施策は網羅的に考えているか?

(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。