昨年末は紅白歌合戦には未出演だったものの、YouTubeチャンネルでの生配信でカウントダウンをしたSnow Man(画像:YouTube公式チャンネルより)

10月16日、NHKが定例会長会見を行い、STARTO ENTERTAINMENT所属タレントの新規起用再開を発表しました。

これは昨年9月、旧ジャニーズ事務所が会見で創業者・ジャニー喜多川氏の性加害問題を認めて以降、「所属タレントの新規出演依頼を行わない」という方針を解除したもの。民放各局が所属タレントの起用を継続、あるいは再開していく中、NHKはその方針を貫いていただけに、業界内から「ついに」「ようやく」などの声が聞こえてきました。

これで、昨年44年ぶりにジャニーズ事務所のタレント出演が0組になった「紅白歌合戦」への出演が期待できるだけに、彼らのファンたちは喜びや祝福の声をあげると思いきや、逆にネット上には怒りや不満の声が殺到しています。

なぜ喜びや祝福ではなく、怒りや不満の声が目立っているのか。主に3つの理由が浮上しています。

“一年間の仕打ち”を忘れていない

怒りや不満の声につながっている最大の理由は、昨年9月以降の方針を「NHKの仕打ち」と感じていた人が多いから。下記に、10月17日の速報記事に書き込まれ、多くの「共感した」が押されたコメントをあげていきます。

「タレント自身の不祥事でもないのに次々と番組を終了され、心無いコメントを見かけるたびに、正直しんどかった」

「昨年の扱いひどかったのにまた人気にあやかろうとしてる」

「NHK側から切っておいて、(昨年の紅白は)視聴率が振るわなかったから旧ジャニに頼ってるような都合のいい使い方に感じます」

「他局は充分に話し合って徐々に番組を終らせたイメージですがNHKだけは本当にバッサリだった。 NHKは自分が一番で被害者の存在も国民の意見も無視をする」

「都合が悪くなったらぶった切って、世間が落ち着いたら戻すとか本当に都合良い」

「番組を終了され」「扱いがひどかった」「切っておいて」「バッサリ」「ぶった切って」などのフレーズに、「ひどいことをされた」という怒りがにじんでいました。さらに「所属タレントは被害者で、NHKは加害者」というニュアンスの声も散見されます。

「テレビ局も加害側なのにどう責任と対策案を出したの? 報道しないだけでなく1強にしてコンテンツを流してブランド化して布教させて被害者が増えた タレントは被害者側なのに排除されてたって、変だと思うけど」

「自分達こそ喜多川の共犯者だったのにも関わらず何の責任も果たさず、何の罪も無いタレント達に責任を押し付けて番組ごと締め出すNHKのやり方には、激しい嫌悪感を感じずにはいられません」

「ジャニー氏がご存命の頃に知らんぷりを続けていたであろうマスコミ自身は(視聴率は下がったけど)何も腹を切る事なく、今も特に誰かに何か償った訳でもないのにしれっと『出演再開』とだけ言われて非常にモヤモヤします」

「受信料を取っているNHKは、お金の流れだけでなく キャスティングについても他局より透明性が求められるはず。ジャニーズべったりだったテレビが、性加害を黙認してきた事が被害者を増やした大きな原因なのは確実」

NHKこそ反省すべき」の声

NHKの稲葉延雄会長は、「ただ、『これですべて終わった』とは当然考えておりません。この問題をめぐっては、“マスメディアの沈黙”という言葉があったようにNHKの認識や対応は十分ではなかったと自省しています」とコメントしていました。

なぜそんな反省があるにもかかわらず、人々が納得できるレベルの検証をしないのか。逆に被害者かもしれない所属タレントを追い込むようなことをしたのか。ファンならずとも納得がいかない人が多いのでしょう。

また、NHKの不祥事などを引き合いに出して怒りをあらわにする声もいくつかありました。稲葉会長の「『これですべて終わった』とは当然考えておりません」という言葉はNHK自身の不祥事にこそ向けられるべきものと思っているのでしょう。

「自局の不祥事には甘いNHKの対応に、今は憤りしかありません。NHKのほうこそ、様々な不祥事の再発防止の取り組みをしっかりしてほしい」

「NHKも問題や犯罪犯してるのだからそちらの謝罪からでしょ」

「紅白」に向けたシナリオ通りか

怒りや不満の声が目立つ2つ目の理由は、「NHK紅白歌合戦」の出場者発表が近づいてきたこのタイミングでの新規起用再開であること。例年、出演者を発表する時期まで1カ月程度になった段階での再開に疑いの目が向けられています。

「新会社と契約してからも一度も起用しなかったのに、紅白が近づいてきたらオファーしたいというのが透けて見え、なんとも都合よく見えてしまいます」

「こんな時期に発表って。さあ紅白に出してやるぞ、視聴率の為に利用してやるぞという考えが見え見えで本当に不快」

「年末に向けてこういう動きになるのは目に見えていたので白々しすぎて冷めてしまう。まずは自局の膿を出し切ってからでは?」

稲葉会長はこのタイミングになった理由について、「被害者への補償と再発防止への取り組みに加え、経営の分離も着実に進んでいることが確認できた」ことを挙げていました。

先月の定例会見で「かなり進展している」と布石を打つように語り、今回も「『紅白歌合戦』の制作に向けて判断したものではない」と強調していましたが、まるでシナリオがあるように「白々しい」とみなされているようです。

ちなみに通常「紅白歌合戦」は、「その年の活躍」「世論の支持」「番組の企画・演出」の3点で出演者を選び、活躍に関しては「NHKへの貢献度」も重視されていました。STARTOの所属タレントたちは今年、NHKへの出演がなかっただけに「もし選ばれたら視聴率狙いではないか」という声は避けられないでしょう。

また、性加害騒動の影響で終了した番組があり、降板を余儀なくされたタレントもいるため、「『紅白歌合戦』より、それらの復活が先にあるべき」と指摘する声が少なくありません。1カ月後の出演者発表時、この点がクリアされていなければ間違いなく批判の声が再燃するでしょう。

「有料でもいいから」と年越し配信を望むファン

怒りや不満の声が目立つ3つ目の理由は、「『紅白歌合戦』に出るより、生配信してほしい」と思っているファンが多いから。

「ファンに向けて配信してくれたら、それでいい」

「STARTOのタレントには年越しLIVEや配信をした方がファンは喜ぶし満足度は高いので紅白は断ってもいいと思う」

「ファンは興味がないアーティストも多いしダラダラと長い。紅白よりカウコンや生配信の方が推ししか出ないから待機しなくてすむ。どこのグループのファンも推しだけ見るのが時間の無駄にならないからいいと思う。カウコンは豪華ないろんなグループの人との絡みを見れるのが毎年楽しみ」

「ファンは昨年同様配信を望んでいるのは知ってると思いますし、嫌なら断れば良いだけ」

「特に紅白への出演については、ファンからもファンでない方からも全く望まれていないですから、SE社に関わらないでほしい」

昨年、Snow ManがYouTubeチャンネルで「Snow Man Special Live〜みんなと楽しむ大晦日!〜」を無料生配信しました。この生配信はライブとカウントダウントークの2本立てでファンの満足度は最高レベル。

その他でもKing & Prince、SixTONES、なにわ男子なども年越し配信でファンを楽しませていただけに、「今年もそのほうがいい」ということなのでしょう。

もし「紅白歌合戦」に出演したとしても1〜2曲程度で、ベテラン歌手などの演出に協力させられるなど拘束時間が長く、カウントダウンライブへの参加も遅れてしまう。さらに、NHKの出演報酬は低く、アンチには叩かれやすく、視聴率が低ければやり玉にあげられるなど、ファンが出演を望まない理由が目白押しなのです。


永瀬廉と郄橋海人の2人体制となったKing & Princeも大晦日に生配信してファンを喜ばせた(画像:YouTube公式チャンネルより)

一方、昨年の生配信はそれぞれのグループが「『紅白歌合戦』に出演した時よりもファンを楽しませよう」と奮闘したことでファンは大満足。

低視聴率に終わった「紅白歌合戦」に意地を見せるような形になっていたため、「今年オファーがあっても断ってほしい」と思っている人が多いのでしょう。わざわざ「有料でもいいので配信にしてほしい」と書く人が多かったことがファンの思いを裏付けています。

それでも「紅白は出るべき」?

ただ、所属タレントたちの本音はどうなのか。昨年のように一年間支えてくれたファンを楽しませる生配信をしたい人もいれば、数十倍の人々に見てもらい新たなファン層の獲得が期待できる「紅白歌合戦」に出たい人もいるでしょう。

また、NHKには音楽番組はもちろんバラエティ、教養、さらに影響力のある朝ドラや大河ドラマなどもあり、「良い関係性を作っておきたい」「後輩グループの将来を考えて出ておこう」と考えるのはビジネス上、当然の選択。

さらに業界内では、「SMAPや嵐のような誰もが知る国民的グループを目指すうえで、『紅白歌合戦』は出ておくべき」という声が根強いだけに、所属タレントの意見を尊重しながらも出演する方向になるだろうとみられています。

特に昨年の生配信で満足したSnow Manのファンたちには、「今年もあれが見たい」という感覚の人が多く、相対的に「紅白歌合戦」の価値が下がりました。ファンを第一に考える彼らなら別のもてなしを用意するかもしれませんが、どう進んでもネット上をにぎわせることは間違いなさそうです。

その他でもメンバーが2つのグループに分かれた「King & PrinceとNumber_i の共演はあるのか」などの、ファンが反応する項目は多く、約1カ月後の出演者発表から放送当日まで波乱含み。

「再開したのが10月16日だったにもかかわらず、すでに2組にオファーしている」という記事があるほか、民放テレビマンの中には「結局、2022年に出演した6組に戻る」「辞退したことを公表するグループが出そう」と予測する人もいます。

これらの推移も含めてエンターテインメントとして楽しめればいいのですが、“NHK vs ファン”の構図が変わらない限り、荒れたムードで大みそかへ向かうことになるでしょう。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)