知らないとヤバイ法律、知ったら知ったで悪用する人が出てきてしまう……それが法律です。弁護士をしながら、法律にまつわる4コマ漫画を日々X(旧Twitter)で発信をしている【漫画】弁護士のたぬじろうさん(@B_Tanujiro)。意外と身近に存在する、法律にまつわる「ヤバイ」を漫画にすることで、法律を知ることの重要性を読者に投げかけています。

【漫画】「知るほどヤバイ知らないともっとヤバい法律の闇」本編を読む

今回は、「遺産相続」にまつわる怖くてヤバイ話。あなたの何気ない行動で、多額の借金が降り注いでしまう結果になってしまうかも……!?

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――この話をマンガにしようと思ったきっかけを教えてください。

たぬじろうさん(以下、たぬじろう):してはいけない行為を知らずにしてしまうというのは、本件に限らず、実際によくあります。まさに「知らないとヤバイ」。その注意喚起という意味でも、マンガにしようと思いました。

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たぬじろう:さらに進んで、「悪用しようと思えば出来てしまう」というのが、よりヤバイところでもあります。

実際には、このような騙し討ちのようなケースは少ないとは思います。(何が騙し討ちかは、マンガをご覧ください)

本件に限らず、法律は悪用されうるものだということを、皆様にも知っていただきたいと思います。このマンガが、皆様が法律の落とし穴を回避することの一助となれば幸いです。

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●「単純承認」とは?

プラスの財産(資産)も、マイナスの財産(借金・負債)も、全て相続することです(民法920条「……無限に被相続人の権利義務を承継する」)。

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●「相続放棄」とは?

相続人ではなくなり、プラスの財産(資産)も、マイナスの財産(借金・負債)も、全て相続しないことです(民法939条「…初めから相続人とならなかったものとみなす」)。

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●「遺産を処分する」とは?

遺産を廃棄することだけでなく、遺産を売却したり、遺産である現金を使ったりすることも含まれます。よくあるケースとしては、例えば「賃貸駐車場に停められていた自動車を、良かれと思って処分してしまった」といったものも処分に該当します。

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――今回の話は、この状況になってからでは遅く、事前に知識がないとまずい、というお話でした。法律系の勉強をしているわけではない一般の人は、どうやって知識を得るのが得策だと思いますか?

たぬじろう:一般の方が法律知識を得るのは難しいですよね……。

そういったこともあり、多くの人に気軽に法律知識を得てもらえればと思い、マンガを描いています。このマンガが少しでも皆様のお役に立てれば……!笑

そうは言っても、全ての「ヤバイ」ケースを回避するための法律知識を得ることは不可能です。これは、法律系の勉強をしている人でも同じです。むしろ法律を多少知っている人の方が、何も知らない人よりも、ひっかかりやすいケースすらあります(そのようなマンガも作成したいと思っています)。

その意味では、「何かおかしい」と少しでも思ったら、すぐに弁護士に相談するというのが良いと思います。

また、その場ですぐに書面にサイン等しないことも重要です。例えば、その書面のタイトルが「覚書」等であったとしても、書いてある内容が「契約書」と同じであれば、法律上は「契約書」と変わらぬ効力を発揮します。

書面を作成してしまってからでは取り返しがつかないケースもありうるので、一旦持ち帰るということが大切だと思います。

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――くま平さんがとるべき最善手は何だったと思いますか?

たぬじろう:コン吉さんには一旦お帰りいただいて、弁護士に相談してから対応する、というのが最善手だったのでしょうね。

ただ、コン吉は、くま平に相続放棄をさせないために来ている確信犯ですので、言葉巧みにくま平を丸め込もうとするでしょう。法律知識があって、それを悪用しようとしている相手に対して、法律知識がない方がその場を切り抜けるというのは難しいことかもしれません。

簡単な対策としては、【録音することを伝える】(そして、実際に録音する)ということが考えられます。悪いことをしようとしている人は録音されることを嫌うので、録音が一定の牽制になると思います。かつ、その場で絶対に書面等にサインしないということも大切ですね。

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●「借金の時効」とは?

2020年4月1日以降に成立した借金の時効は、返済期日から原則5年です(民法166条1項1号「債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間……」、同2号「権利を行使することができる時から十年間……」)。

※時効に関するルールは、それだけで書籍が出せるほど内容が多岐にわたるので、本ページでは基本事項のみの解説とさせていただきました。

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【もっと教えて!たぬじろうさん】

遺産を処分してしまうと、相続放棄ができる期間内であっても、単純承認した、すなわち相続することを認めたとみなされてしまいます(法定単純承認)。そのため、相続が開始した後は、安易に遺産を処分しないことが重要です。

このマンガのような事態に陥ってしまった場合、まずは弁護士に相談してみることを強くおすすめします。

例えば、下級審の裁判例(大阪高決昭和54・3・22家月31巻10号61頁)では、遺産から火葬費用及び治療費残額の支払いを行なったというケースにおいて、単純承認となる「処分」には該当しないという判断をしました。この裁判例に鑑みれば、本件でも、「処分」には該当せず、相続放棄が有効にできる可能性は十分あります。ただし、この裁判例は、あくまでそのケースにおける判断に過ぎず、一般化は出来ないことに注意が必要です。必ず本件でも相続放棄が有効にできるというわけではありません。

コン吉は、相続放棄を阻止しようと動いている確信犯ですので、相続放棄しようとする場合、紛争化することは避けられないと思われます。かつ、形式的には「処分」に該当する行為ではあるので、普通の相続放棄と比べると遥かに大変な事件となります。その意味でも、単純な相続放棄事例と比べて、弁護士費用も高くなると思われます。

そのため、相続が開始したら、安易に遺産を処分してはならない、ということを覚えておいていただけると良いと思います。

また、弁済を行うことは、時効にも影響を与えます。

弁済する=その債務が存在することを認めることになるので、たとえ時効成立間近だったとしても、時効期間がリセット(更新)されてしまいます。既に時効期間が経過していた場合にも、弁済をすると、原則的には、信義則上時効の主張が出来なくなります。