リコーが国内1000人に「セカンドキャリア支援」という名の人員削減を断行…名門企業を苦しませるモノ言う株主の影

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リコーが、9月12日に「セカンドキャリア支援制度」の実施を発表した。聞きなれない言葉だが、要するに希望退職者の募集を開始するということだ。その中身は国内1000人という大規模な人員削減策の実施であり、海外も含めると2000人規模だという。リコーは株価が割安か割高かを判断する最も重要な指標でみたときに低PBR、低ROEという典型的な経営効率の悪い会社の一つである。それをモノ言う株主につけ狙われた格好だ。複合機御三家の一角である名門企業にいったい何が起きているのか。

【図版で見る】リコー、キヤノン、富士フイルムの直近通期営業利益率

退職金に1人当たり1600万円程度上乗せ

リコーは10月1日から本社とグループ会社の一部において、年齢や勤続年数などの条件を満たす社員の早期退職者を募集する。

早期割増退職金として、今期に160億円を一括計上する予定だ。規定の退職金に1人当たり1600万円程度上乗せされる計算である。

この大規模な人員削減で、来期は90億円程度の固定費削減が見込めるというが、リコーが負担している社会保険料や経費などを勘案すると、年収600~700万円クラスの人員が1000人程度抜けることになる。

この人員削減策はリコーが推し進める企業価値向上プロジェクトの一環だ。研究開発や事業の選択と集中、販売・サービス体制の見直しなどを進め、600億円超の固定費削減を目指すというものである。

しかし、PBRを見ると、リコーに対する市場の評価の低さが際立つ。

9月末時点でPBRは0.85倍。競合のキヤノンが1.25倍、富士フイルムビジネスイノベーションの親会社である富士フイルムホールディングスが1.32倍で、リコーだけPBRが1倍を下回っている。

PBRとは、株価が1株当たりの純資産の何倍まで買われているのかを見る指標であり、1倍を下回っているということは、時価総額が純資産を割り込んでいるということだ。

少し乱暴な表現をすれば、事業を継続するよりも解散した方が、価値が高いことを意味している。

また、PBRが1倍以下の銘柄に対しては、2023年3月より東証が具体的な改善策を開示・実行するよう要請している、現状リコーはそんな状態にいるのだ。

なお、3社の中でPERは最も高く、18.9倍ある。キヤノンは13.3倍、富士フイルムは17.8倍だ。

PERは、株価が1株当たりの純利益の何倍まで買われているのかを見るものだ。通常は会社が出している通期純利益の予想値を用いる。この指標は、投資家が特定の銘柄の株価が割高かどうかを判断するために使うもの。

つまり、リコーはPBRが1倍を下回っているにも関わらず、競合と比較して株価は割高だと判断されることになるのだ。

営業利益率は2%台で停滞

リコーの弱点は利益率の低さだ。

2024年3月期に会社が営業利益として開示している数字は620億円だが、国際会計基準を採用しているため、この数字には本業以外の損益が含まれている。

この期の売上高から売上原価、販売費および一般管理費を引いた日本基準の営業利益を算出すると、502億円となるため、会社が発表している数字をもとにした営業利益率は2.6%だが、計算し直すと2.1%まで下がる。

同じ計算方法だとキヤノンの営業利益率は9.0%、富士フイルムが9.3%だ。 

さらにリコーは、海上輸送手段の一部がひっ迫し、リードタイムが長期化したため2024年4-6月の営業利益が4割減となった。

複合機の受注残が発生して販売数が減少し、複合機の分野で30億円程度、想定を下回っているのだ。

もともと複合機は斜陽化しつつある産業だ。一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会によると、2023年の複合機・複写機の国内外の出荷数は359万台で、前年比11.5%の減少である。

2022年は半導体不足が解消された影響などにより、出荷数は前年比13.1%増と急伸。

その反動とも見ることもできるが、2019年比でも2023年は0.1%の減少である。デジタル化が進んだことにより、伸びしろは失われているのだ。

リコーの2024年3月期のROEは4.5%だった。2025年3月期は予想通りに着地をしても4.6%だ。

なお、2023年3月期は5.9%で、中期経営計画に掲げた目標は2026年3月期9%超達成というものだが、目標達成の雲行きが怪しくなってきた。

この9%という数字は、決して高いものではない。

ROEという指標を世に知らしめるきっかけとなった、2014年8月公開の「伊藤レポート」(企業が長期的に成長し続けるための指針が示されている経済産業省で行われたプロジェクトをまとめた報告書のこと)では、最低でも8%を達成するよう求められている。

有利子負債による自己資本の効率的な活用を行おうとしたが…

ROEとは自己資本利益率のことで、純利益を自己資本で除したものをパーセントで表す。株主資本をいかに効率的に使っているのかを見るもので、投資家が重視する指標の1つだ。

実はこの指標、借入(他人資本)を上手く活用することで、数字を高めることが可能だ。自己資本の対局にある他人資本を使って多くの利益を多く出せば、限られた自己資本で収益性を高めることになるからだ。

リコーは成長投資と称して、2026年3月期までに合計5000億円をM&A、新規事業の創出、経営基盤の強化などに投じるプロジェクトを進めてきた。

この計画には有利子負債も活用している。しかしながら利益率を高めることができず、ROEは停滞しているというわけだ。

業績が停滞している一方で、リコーの2024年6月末時点の手持ちの現金は1844億円もある。

キャッシュリッチで、低PBR、低ROEの会社を狙うのがモノ言う株主(アクティビスト)の常套手段なのだが、中堅企業などを狙って少ない投資額で10~20%程度の株式を買い進めるのが一般的だった。

しかし、リコーのような時価総額9000億円規模の大企業を狙ったのが、旧村上ファンド関係者が運営するといわれる投資ファンドのエフィッシモである。

東芝を非公開化に追い込んだやり手アクティビストであり、リコーの他にも、帝人や第一生命など名門企業の株を買い進めている。

エフィッシモが2015年からリコーの株を取得していたところ、リコーはアクティビスト対策か、2021年に1000億円規模の自社株買いを実施。

その後、エフィッシモは18%から15%程度まで保有比率を下げて、これで終わったかに見えたが、今年に入って買い増しを進めたのである。

9月19日に関東財務局に提出した変更保有書で、保有比率が17.01%から18.14%まで高まったことが明らかになっている。なお、保有目的は「投資や経営陣への助言、重要提案行為などを行うこと」だ。

エフィッシモは再びファイティングポーズをとった。

リコーは企業価値向上プロジェクトを成功させ、PBR1倍を上回る成果を出さなければならない。

2022年にサイボウズを資本提携するなど、デジタル化を進めているが、依然としてコピー機や複合機のイメージが強いリコー。キヤノンや富士フイルムとの収益性の差が出ているのはそのためだろう。

アクティビストが虎視眈々とゆでガエル化しそうな企業を監視しているとも見ることができる状況が、今後も続いていく可能性が高い。

取材・文/不破 聡