岡本和、丸と話す横川スコアラー=27日、東京ドーム

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 「広島1−8巨人」(28日、マツダスタジアム)

 セ・リーグは28日、優勝へのマジックナンバーを「1」としていた巨人が広島に勝利し、2020年以来、4年ぶり39度目の優勝を決めた。1リーグ時代の9度を含めると48度目。就任1年目の阿部慎之助監督(45)は2年連続でBクラスに沈んだチームを立て直し、阪神との終盤のデッドヒートを制した。歴史的な混戦を制した裏に、チーム戦略部門の組織改革がある。各スコアラーをオフェンス担当、ディフェンス担当に分け役割を明確化。専門性を深めることで攻略糸口を探した。「阪神と巨人の違い」をテーマにしたミーティングも開催。4年ぶりのリーグ制覇をいかにして成し得たか、縁の下を支える男たちにスポットを当てた。

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 グラウンドに立つ選手は、たった9人しかいない。だが、その裏には最前線で戦う男たちを支えるスタッフがいる。それぞれの優勝がある中で、チーム戦略室は組織改革があった。オフェンス、ディフェンス、守備&走塁と部門別にし、それぞれ担当者を配置。スペシャリストが結集した。

 「阪神と巨人の違い」とは何か。就任直後の阿部監督がスコアラーに数字を要望した時、戦略室では既に全てのデータを精査し、対策を用意していた。攻撃中にベンチの真ん中に立ち、資料片手に戦況を見守るのはオフェンス部門担当の横川史学スコアラー(39)だ。「何か特別なことをやったわけじゃないんです」。静かに微笑みながら、その一端を明かした。

 「阪神と広島にはたくさんやられましたね。昨年の時点で、どういうやられ方をしたのかというのは精査し、監督には報告しています。その2球団と比較して最も違ったのは走者一塁の場面で一、三塁を作る確率です」

 前の塁を狙う走塁意識の差。キャンプでは走塁ミーティングに重点を置き「一番、簡単に変えられることです」と、数値を出して根気強く説明した。阿部監督も「信号無視しない暴走族をつくりたい」と改革を後押しした。

 一方、ディフェンス部門を担う樽見金典スコアラー(56)はキャンプ中のブルペンを見て確信した。「ウチの投手はいい。強い球で勝負ができる」。捕手出身の指揮官はドラスティックな改革を断行するために「3球勝負、本塁打、ど真ん中」と一般的にはタブーとされる要素全てをOKとした。その上で戦略室では阪神の3選手を徹底的に分析した。

 「阪神は特に四球が多い、球数を投げさせるチームです。得点圏に数多く進めるというのが特徴で、昨年よく打たれた1、2番。あとは8番の木浪選手です。この対策に重点を置いてきました」

 戦略室として導き出した一つの“答え”が「近本のチームだ」ということだった。「いかに相手の得意な攻撃をさせないか。そのために必要だったのが、近本選手の攻略でしたね」。具体的な対策は明かせないものの、昨季は対戦打率が・291、4本塁打で出塁率・357だったが、今季は同・245、0本塁打で同・313。確かな結果になって数字に表れた。

 スコアラーの一日は多忙を極める。試合中はベンチに入って監督、コーチ、選手の要求に沿うデータを届ける。試合が終われば「反省はその日のうちに」(横川)と映像を見返し、次対戦に向けた対策を練る。

 対戦相手が夢にまで出てくる、そんな日々の繰り返しだが「でもね、僕らは関係ない」と樽見スコアラー。「要は投手の球がいいんですよ。あとは、大丈夫だよと。勝負できる球はいっぱいあるからと背中を押してあげることです」と言えば、横川スコアラーは「一番意識しているのは、なるべく選手には手を掛けないように。過保護にしない。丸や(坂本)勇人がズバ抜けているのは、自分で決めて、自分で打席に入る。だから割り切ることができるし、次の打席につながる」と誇らない。チーム…いや、球団一丸、巨人軍として成し得た「打倒・阪神」。その裏には、黒子に徹した男たちの美学があった。(デイリースポーツ・田中政行)