facebookでやりとりしている相手は外国人女性だと信じていた(イメージ)

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 SNSで知り合った異性から誘われ、性的な動画や画像をだましとられて脅迫される「セクストーション」(性的脅迫)が問題になっている。警察も昨年から注意喚起の回数を増やしているが、そこで主に紹介されている被害者は10〜20代だ。子供だから、異性との微妙なやりとりの加減がわからず、言いなりになりやすく被害に遭うのかと思われてきたが、実はこの主の被害には大人もかなり遭っているという。ライターの宮添優氏が、恥ずかしくてなかなか打ち明けられないという中高年男性のセクストーション被害についてレポートする。

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 近年、増大するデジタル性被害の問題ときくと、出会いも交際もSNSから始めることに抵抗がない若い被害者を思い浮かべる人が大半かもしれない。とくにそれが性的脅迫、セクストーションを伴ったものとなるとなおさらだろうが、それは、思い込みに過ぎない。実は、ステレオタイプな被害者イメージからかけ離れた人たちへの被害が相次いでいる。

 福岡県在住の公務員の男性(50代)は、高齢の父親(70代)が、いわゆる「セクストーション」と呼ばれる性的脅迫の被害に遭い、金銭を失ったと打ち明ける。

「ある日、親父のFacebookを見ていると、親父が”100万円当たった、ありがとうございます”と話す動画がアップされていたんです。宝くじを買うような親父でもないし、なんのことだろうと思って実家に電話したんです。でも、電話に出た母親に聞いても、そんな話は知らないと言う。まさか母親に隠しているのかと思い、親父に直接問いただしたんですが、その返答も”間違って投稿した”と要領を得ないものでした」(公務員の男性)

 しかし改めて見返しても、父親は間違いなく動画内で「100万円が当たった」と言っているし、その動画の背景には実家の玄関も写っており、合成などのフェイク映像にも見えなかった。父親はその後すぐ、件の映像を削除したようだったが、男性の懸念は拭えず、急遽実家に帰り、直接父親を問い詰めたという。すると、観念した父親は、驚くべきことを話し始めたのだという。

「SNSで知り合った外国人女性と懇意になって、その後、どういう経緯かは不明ですが、父親に100万円が当たった、と告げられたそうです。親父はそれを信じ込み、女性に言われるがまま、動画内で自分の居住する県や、実名を喋っていました。そんなの詐欺に決まっていると、思わず激昂すると、親父は黙り込んでしまった。

 それでスマホを見せてもらうと、そこには、息子としては直視できないようないかがわしいメッセージのやり取りや、親父の上半身裸の写真まで出てきた。70歳超えなのに情けないという気持ちや、まだ男だったのかという気持ち、被害が少しで済んでホッとしたという気持ち、様々な思いが去来して複雑でした。ただ、親父が恥を偲んで全てを打ち明けてくれたことは、不幸中の幸いだったと思うしかありません」(公務員の男性)

 男性の父親がやりとりした外国人女性は、もちろん実在しない。詐欺師による、なりすましである。その女性から猥褻な写真を送られるなどするうちに丸め込まれ、100万円が当選したと告げられると、ありもしない事実なのに心が躍ってしまった父親が騙されてしまったのだ。問題の自称外国人女性とのやりとりは、まだ続く。

「その後、相手とのやりとりを私が行ったんです。すると、当選金を引き出すためには3万円の手数料がかかるので、ギフトカードを買ってシリアルナンバーを送るようメッセージが届きました。拒否すると態度が豹変し”あなた(父親)の(半裸の)写真が公開される”と脅してきたのです」(公務員の男性)

 男性は即座に警察相談。金銭は盗られていないものの、父親の半裸の写真を使って脅迫されていると訴えたが「被害届を出しても受理できない」「捜査は難しい」と、調書すらまともにとられなかったと憤りを隠さない。

「金は取られなかったが、親父の個人情報は相手にバレているし、毎日気が気でない。一応、警察が定期的に見回りにはきてくれているものの、親父はすっかり意気消沈している。親父に非がなかったわけではないが、被害があっても言い出せないような状態に陥れられる現実があることを、皆さんにも知ってほしいんです」(公務員の男性)

着物が好きだというと、着物姿の写真を送ってきてくれた

 男性が狙い撃ちにされる「セクストーション」の被害件数は、調査結果があるわけではないため具体的なことがあまり分かっていない。だが、高齢男性を狙った詐欺事件を取材してきた大手紙社会部記者(30代)は、犯罪統計にまとめられていない被害が相当数あるのではと疑っている。

「高齢男性がSNSで知り合った女性を自称するユーザーに数千万を騙し取られたという事件は、あまり話題になりませんが全国各地で相次いでいます。ニュースや新聞報道では詐欺被害に遭った、としか報じられませんが、警察に取材すると、幹部が”オフレコ”と前置きした上で、被害男性が自身の猥褻な写真を相手に送ってしまっていた、という事例は少なくない。

 これだけ詐欺の情報が報じられているから、単純なウソに騙される人は減っていますが、一方で、こうした脅迫を受けて追いつめられ、金を支払ってしまった被害者は増えている。被害者がなかなか言い出せないため、被害の実情把握は難しいのです」(大手紙社会部記者)

 埼玉県在住の自営業の男性(40代)も「セクストーション」の被害に遭い、300万円を超える金を奪われてしまったと嘆く。

「東南アジア人女性だと自称するその人とは、Facebookで、向こうから友達申請が来たことで知り合いました。メッセージのやり取りをするようになると、向こうから下着姿の写真とともに”会いたい”とか”あなたのセクシーな姿を見たい”と言われるようになったんです」(自営業の男性)

 男性は、日常的にパソコンを使い、SNSの利用歴も10年以上に及ぶ。したがって、SNS上で繰り広げられる各種詐欺の手口については、ある程度は理解しているつもりだった。このユーザーとのやり取り中にも、事前知識によって「詐欺の可能性がある」と慎重だったが、先方から「ほぼ裸」の写真を送られたことで、男性の思考は停止してしまった。

「SNSでもよくあるのが、人のSNSからパクってきた女性のセクシーな写真を使って男を騙すという手法です。しかし、私の相手が使っていた写真はそうとは思えなかった。なぜなら、私が着物が好きだというと、着物姿の写真を送ってきてくれたからです。これはなりすましじゃないと思ってしまった」(自営業の男性)

 すっかり「相手女性」が実在すると信じ込んでしまった男性は、そのユーザーとやり取りを続けた挙句、共同出資で「ネットショップ」を開設するという約束をしてしまう。共同経営のショップで金儲けをして、2人で幸せに暮らそうと男性は吹聴されていたのだ。

「もう、完全に実在女性だと思ってしまっていました。相手は、私が希望するようなセクシーな写真をバンバン送ってくるため、こちらも興奮してしまい、自分も全裸の写真などを送ってしまった。その後、お願いされた出資金額があまりに多すぎ躊躇していると”あなたの写真を公開する”と態度が豹変。バラされたくない一心で、要求されるがまま3万円分の通販のギフトカードを10回以上送ってしまった。手持ちの金がなくなり、いよいよやばいと思って警察に駆け込みました」(自営業の男性)

 しかし男性も、やはり門前払いを食らってしまった。

「一応、被害届は受理してもらいましたが、犯人は海外の組織だろうから捜査は難しいと渋られました。ネットショップを開設すると言われ、免許証の写真など、私の個人情報も相手に渡ってしまっているので、お巡りさんが見回りに来てくれたこともありました。ありがたいことですが、自分のバカさ加減に呆れるばかりで、誰にも打ち明けられず自信がなくなった。自宅がバレており襲撃される不安もあるので、間も無く家も会社も引っ越す予定です」(自営業の男性)

 恥ずかしい自撮りをしてしまったこと、それをSNSで女性に見えるユーザーへ送ってしまったこと、そのユーザーと下心をもってやりとりしていたことすべてが被害を訴え出ることをためらわせるのだろう。そして、いったん送付してしまったデジタルデータが悪用される可能性が消えないため、いつまでも被害者心理を揺さぶる。

 被害者が「言い出せない」ために、無かったことにされている男性、しかも中高年男性の「セクストーション」被害は、実際にどれくらいの件数なのか判然としない。被害者も下心が前提で起きたことだけに警察はもちろん、友達や家族にも言いづらいし、打ち明けたら責められることもあるだろう。だが、成人女性と納得のうえで性的なやりとりをしていると誤認させたうえで脅迫の材料に利用する悪質なユーザーが犯罪者であり、うっかり口車にのって脅された男性たちは被害者だ。脅迫者たちは女性のふりをした男性かもしれないし、組織的な犯罪なのかもしれない。解決には時間がかかりそうなので、とうぶんは誘いの常套手段を周知徹底して自衛のスキルを個々があげてゆくしかなさそうだ。