【山村 佳子】「結婚しようね」マッチングアプリで出会った27歳男性に100万貢いだ43歳1児の母の末路

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マッチングアプリで出会った相手に、恋愛感情を利用され、損害を被る人は増えています。恋愛に夢中になると、理性も常識も吹っ飛んで、人生計画が乱れる人は多いです」と言うのは、キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんだ。彼女は浮気調査に定評がある「リッツ横浜探偵社」の代表だ。

河野デジタル庁大臣は、マッチングアプリも運営する結婚相手紹介サービスの業界団体などに対し、利用者が会員登録する際、マイナンバーカードを活用した本人確認を行うように要請したと発表した。本人確認を厳格化し、相手に恋愛感情を抱かせ、金をだまし取るロマンス詐欺や、投資詐欺を防ぐ狙いがある。それくらいロマンス詐欺や投資詐欺が多いということだ。

今回マッチングアプリで出会った男性との悩みを相談に来たのは、デザイン事務所でパート勤務している43歳の桃子さん。結婚13年になる45歳の会社員の夫と、11歳の息子がいるが、自称・総合商社勤務である27歳の彼のことでボロボロになっていた。

彼は詐欺師なのか。そして夫と息子との関係はどうなるのか。前編で伝えた疑惑への、調査の結果は。

夫と冷え切っていたから、マッチングアプリ

改めて、桃子さんが結婚しているにも関わらず、マッチングアプリに走ったところから振り返ります。

夫はここ2年ほど桃子さんのことを無視し、息子は“クソババア”と反抗的な態度を取るなどして、家庭は冷え切っています。

夫は桃子さんが話しかけるとあからさまにイヤフォンをつける、息子は用意していた食事をゴミ箱に捨てるなどしているのです。

桃子さんは、砂漠のように乾き切った生活の「息抜き」として、1年前に既婚者も登録できるマッチングアプリを使い始めます。そこで50〜60代の男性とデートを重ね、女性としての自信を取り戻していきます。しかし若い男性からはむしろ「ババアかよ」と舌打ちされるなど、自信を失いかけていました。そんなとき、半年前に、総合商社に勤務する彼(27歳)とマッチング。彼は年上の女性が好きだと言い、初対面時から、「一目惚れした」「愛している」などと言ってきた。さらには「ずっと一緒にいたい」「結婚したい」などと畳み掛けます。

相手の疑いをかき消すように、愛の言葉を囁くのは、詐欺目的の常套的な会話です。これはロマンス詐欺などの会話でも使われています。パイロットやエリートビジネスパーソンなど嘘のプロフィールをでっちあげ、他人の写真を使い、人の心の寂しさや孤独につけ込み、心にもない愛の言葉を囁くのです。

多くのロマンス詐欺とは異なり、桃子さんと彼は実際に会っていますが、彼の職業や経歴の実際のところは分かりません。それなのに、桃子さんは彼の愛の言葉を信じ、「勉強会に参加したい」「DV夫から逃げてきた妹にお金を渡さねばならない」などと言われるたびに、口座から10万円、20万円と引き出して彼に渡していたのです。

桃子さんが、虎の子の100万円の貯金を使い果たしたことを彼に伝えると、LINEの連絡が途切れがちに。そのままフェードアウトしそうなので、山村さんのところに駆け込んだのです。目的は彼が浮気をしていないかどうか。桃子さんは、この1ヵ月間、夫と離婚して彼と結婚したいという願望に取り憑かれています。

桃子さんが傷つく結果になると思いながらも、調査に入りました。

彼の自宅前で待っていると…

桃子さんは、彼の自宅で関係を持っているので、自宅を知っていました。しかし、桃子さんは惚れた弱みなのか、元々人を信じやすいのか、彼の住所もマンション名も覚えていませんでした。そこでネット上の地図を使って、物件を特定。都心から30分程度のところにある、単身向けの家賃10万円の鉄筋造りの古いマンションでした。

朝、8時から張っていると、9時に彼が出てきました。白シャツにチノパンを合わせており、黒縁メガネがかっこいい。ツウなブランドのバッグを持っており、おしゃれな雰囲気です。

都心のオフィスビルに入っていき、18時に退勤。ビルのテナントを見ると、中堅メーカーの子会社が入っているので、おそらくそこの社員なのでしょう。

電車に乗り、新宿駅で下車。一人で牛丼店に入り、ゆっくりとご飯を食べていました。箸の持ち方が美しく、桃子さんはこう言うところが好きになったのではないかと拝察。

30代前半と思しき女性と待ち合わせ…

あるデパートの前で、30代前半と思しき女性と待ち合わせをして、手を繋いで歩き始めました。そして、チェーンのイタリア料理店に入っていきます。会話を聞くと、この女性と彼は交際1年のようで、彼女は「将来、どうするのよ」などと結婚について匂わせてきます。彼は「俺はまだ契約だし、金もないし」とか「正社員登用試験を受けるんだけど、望みがない」などと言って、結婚の話題を避けようとしていました。

彼はワイン1杯しか飲まず、彼女は生ハムのサラダやパスタを注文しては半分以上残している。1時間ほど話し4000円程度の会計は女性がしていました。そのまま別れるのかと思っていたら、歌舞伎町の方に歩いていき、探偵も驚くほどの古くて安いラブホテルに入っていきました。性交渉をすぐに済ませて、1時間程度で出てきたのです。彼は上の空というか、そこかそわそわしており、彼女も「また来月」などと言って帰宅。ペアの探偵が彼女を追うと、山手線県内の僻地のようなところにある一戸建てに帰宅。ここが実家のようでした。

彼はぼんやりした顔のまま、大きな公園に行き、顔の周りに虫除けスプレーをかけて、ベンチでぼーっとしていました。スマホを見ながら2時間過ごし、終電で帰宅したのです。少なくとも「女性と楽しく会ったあと」の姿には見えません。

「私が知っている彼じゃない!」

以上を桃子さんに報告すると、「私が知っている彼じゃない!」と驚いていました。

「彼は私の理想なんです。いつも“愛してる”って言ってくれて、牛丼なんか食べなくて、優しく性交渉をしてくれていたんですよ。これじゃ、私の夫と一緒じゃないですか。しかも、契約社員ってなんですか? 総合商社に勤務しているはずなのに」

桃子さんは叫ぶように言うと、「どうすればいいでしょうか」と言ってきました。桃子さんは自分で決断することをせず、なんでも人に任せてしまうような性格のようです。

そこで私は、彼と今後どうしたいのか、お金を取り戻したいのか、桃子さんの夫と家族はどうしたいのかなどを質問すると「わかりません」と泣いていました。

彼もその場をやり過ごすような行動を繰り返しており、もしかすると桃子さんから渡されたお金に対して、罪悪感があるのではないかとも思ってしまいました。

ここは、やはり法律の専門家である弁護士や司法書士に間に入ってもらった方がいいのではないかと提案すると、「大ごとにはしたくないので、諦めます」と帰っていきました。

「夫に証拠がバレました」

しかし、桃子さんは、浮気をして、さらにその男性にお金を渡しています。原因はあるにせよ、家族に対する背任行為のようなものを行なっているのです。そこの“落とし前”のようなものをつけないと、家族の未来に暗雲が立ち込めてしまう。

また、彼も簡単に100万円を得たという“悪の成功体験”をしてしまうと、さらに悪の道を進んでしまう可能性があります。

それから1週間後、「山村さん、どうしよう。夫に証拠がバレました」と桃子さんから連絡が入ったのです。桃子さんは私たちの報告書を、リビングのテーブルの上に置いており、それを夫が見て「なんだ、これは」ということになったとのこと。

夫は彼のところに行き、「妻がしでかしたこととはいえ、君のやっていることは詐欺だよ」と言い、彼はお金を分割で返すことになったそうです。

「夫から聞いた話なのですが、彼の友達に“ママ活”をやっている人がいて、その人に勧められて始めたみたいです。ネット上には、女性を騙す会話が紹介されているので、それを私に試したら、コロッと引っかかって驚いたと言っていたとのこと。あ〜、私は誰からも愛されないんですよ。もう消えたい」

息子は勉強ができ、スポーツ万能のイケメン?

そして夫は離婚を前提に、桃子さんと話し合いを始めたといいます。夫は桃子さんが時間やお金にルーズなところ、見栄っ張りなところを問題視していたそうです。

息子が桃子さんに反抗するようになった理由も、この時に知ります。

「私、インスタで息子のことや、お弁当などをあげているんですが、そこでの息子は、勉強ができ、スポーツ万能のイケメンなんです。そう言う息子、欲しいじゃないですか。うちの子は勉強もイマイチだし、スポーツも苦手。だからせめてインスタ内で、理想の息子との生活を楽しんでいたんです」

子供の同意なくSNSに写真をあげることが問題視されています。桃子さんの場合、理想の子供像を作り上げ、それがあたかも我が子であるかのようにSNSに発信していた。それを知った息子さんの心は深く傷ついたのではないかと想像してしまいました。

「パパと暮らしたい」

今後、桃子さんと夫は、離婚を前提に生活を始めるとのこと。息子は「パパと暮らしたい」と言っているそうです。きっと夫は、息子に寄り添い育てていくのでしょう。

今回の調査で、ネット社会の暗い部分をいろいろ感じてしまいました。ネット上ではいくらでも嘘をつける。そして、心の寂しさにつけ込み、悪事を働く人が多いことに衝撃を受けます。デジタル庁長官が、マイナンバーで紐づけて悪事を働けないようにという政策を打ち出すほど、深刻なのです。

桃子さんと夫・息子の亀裂がこのマッチングアプリの詐欺につながりました。では亀裂はなぜ起きたのか。無視されたり、反抗されたりする前に何をしていたのか。「誰かのせいで自分はかわいそう」と思うのではなく、「何事も自分にも理由があるはず」とちょっと俯瞰で見ることができていたら、そもそもマッチングアプリに手を出すような寂しさを感じる状況にならなかったかもしれません。

彼も安易にママ活などに手出しすることもなかった。お金がほしい、愛してほしい、大切にされたい、うらやましいと思ってほしいという渇望感に応える罠がネット上にはたくさんあります。

自分が何をしたいか、どう行きたいかを確立しないままそこに手を出すと、自分や誰かを傷つけてしまう可能性があることを、誰もが忘れてはならないのでしょう。

桃子さんが「なぜこうなったか」という現実に向き合い、前に進むことができることを心から祈ります。

調査料金は15万円(経費別)です。

「結婚してくれると言った27歳の彼が冷たくて」夫も子もいる43歳女性が陥ったもの