記事のポイントカナダ拠点のサークルKの親会社がセブン&アイ・ホールディングスの買収を提案。実現すれば、コンビニ業界の巨大勢力となる。買収が成立すればサークルKは市場での価格決定力を強化する可能性がある。専門家は買収が実現しない可能性が高いと予測。日本の企業社会や規制当局、セブン&アイのオーナー一族も提案に反対する見込みが強い。

サークルKのオーナーがセブンイレブンの日本の親会社を買収することで、米国内外のコンビニ業界に新たな巨人が誕生する。 しかし、利害関係者や規制当局がこれを許すかどうかは不透明だ。カナダを拠点とし、コンビニエンスストアのサークルKチェーンを所有するアリマンタシォン・クシュタール(Alimentation Couche-Tard)社は、セブンイレブンの日本の親会社であるセブン&アイ・ホールディングス(ブルームバーグによると時価総額384億ドル[約5兆6000億円])の買収に乗り出したことを、同社が8月19日に認めた。セブン&アイは、この提案を検討するため、独立社外取締役で構成される特別委員会を設置したと発表した。ロイター通信によると、約5800万ドル(約84億5700万円)と評価されているクシュタールは、燃料およびコンビニエンス業界において急速にその地位を拡大しているが、セブンイレブンとの取引はその影響力を数倍に拡大することになる。セブン&アイの大株主である米投資会社バリューアクト・キャピタルは、セブンイレブンのリターンが同業他社を下回っていることから、日本企業の経営陣はセブンイレブンの潜在能力を十分に引き出せていないと数年前から主張してきた。バリューアクトはセブン&アイに対し、4月に同社が検討していると発表したイトーヨーカドーの分割など、コンビニエンスストア事業の成長に集中するための会社再建を迫ってきた。

コンビニ業界勢力図はどう変わる?

セブン&アイの提案を確認した同日、クシュタールはスーパーマーケット・オペレーターのジャイアント・イーグルから270のガソリンスタンドを有するGetGom(ゲットゴー)チェーンを買収すると発表した。同社は昨年、トータルエナジーズSEからヨーロッパで2000店舗以上を買収した。同社は以前、ガソリンスタンドを併設したコンビニエンスストア、スピードウェイ(Speedway)の買収を試みたが、オハイオ州を拠点とする同チェーンを210億ドル(約3億600万円)で買収したセブン&アイに敗れた。セブン&アイの買収が実現すれば、同社は米国市場のほぼ5分の1を支配することになる。4月の最終決算発表時点で、アリマンタシォン・クシュタールは1万445店舗を運営している。フランチャイズ店やその他の契約を含めると、同社はおよそ1万7000店舗を運営していることになる。一方、セブン&アイ・ホールディングスは、米国とカナダの1万3000店舗以上を含め、全世界で約8万6000店の運営、フランチャイズ、ライセンス供与を行っている。AP通信に提供されたグローバルデータ(GlobalData)の調査によると、米国ではセブンイレブンがコンビニエンスストアの14.5%を支配しているのに対し、クシュタールはわずか4.6%であった。燃料業界コンサルタントのブランドン・ローレンス氏は、この買収がサークルKに大きな価格決定力を与えるというが、それが必ずしも消費者がガソリンスタンドで支払う金額が増えることを意味するわけではないとしている。同氏は、新会社がその規模を活かして市場の他社を価格で下回り、店舗への来客数を増やすと予想している。さらに膨大な量の価格データにアクセスできるようになるとも述べている。「今後、燃料は激しい争奪戦になるだろう」とローレンス氏は述べる。「もし燃料価格を高度な方法で設定していなければ、彼らに出し抜かれてしまうだろう」。

コンビニ業界で生き残るための条件

コンビニエンスストア・チェーン向けにモバイル・アプリの開発を支援するローバータウン(Rovertown)のマーケティング責任者フランク・ビアード氏は、地元や地方のチェーンは差別化する方法を見つける必要があると話す。たとえば、ルイジアナ州のショップライト(Shop Rite)はクイックサービスのケイジャン料理を提供し、中西部のユナイテッドデイリーファーマーズ(United Dairy Farmers)はアイスクリームを提供し、テキサス州のカルト的人気を誇るサービスエリアのバッキーズ(Buc-ee's)は巨大な店舗でさまざまな料理やブランド商品を提供し、特にユニークな体験を提供している。「これは、地域密着型や地方のチェーン店にとって、自社の強みをさらに活かす必要があることを示すさらなる証拠だ」とビアード氏は言う。「似たような店ばかりが並ぶなか、競争相手と同じようなことをするのは最悪の戦略だ。サークルKの規模がますます拡大していることは、小売業者にとって、これまで以上に自社の差別化を図る必要があることを強く認識させるものだ」。「手頃な価格で高品質な食品を提供することが、セブンイレブンにとって差別化の手段になるかもしれない。このチェーンはすでに日本でそのように知られており、セブンイレブンやそのほかのコンビニエンスストアで販売される持ち帰り用の食事は、日本文化の重要な一部となっている。同社のCEOである井阪隆一氏は、セブン&アイは、スライダーやフレンチトースト、チキンサラダサンドイッチなど、より良い食品を店舗に提供するために、米国のサプライヤーであるわらべや日洋ホールディングスと提携しているとブルームバーグに語った。同氏は、「我々は、ガソリンやタバコに依存するビジネスモデルから、商品によって顧客に選ばれるビジネスモデルへの転換が必要だと考えている。この変革の鍵は、新鮮な食品だ」と語った。

「実現しない絵空事の提案」か

日本の消費市場および小売市場を専門とする東京のリサーチ会社ジャパン・コンシューミング(JapanConsuming)の共同創業者マイケル・コーストン氏は、この取引を「実現しない絵空事の提案だ」と呼ぶ。「これはセブン&アイが一番望んでいないことであり、必要ともしていないことだ」とコーストン氏はメールで回答した。「アリマンタシォン・クシュタールは、北米および世界的にますます影響力を増している主要な競争相手であり、この提案は混乱を引き起こし、時間を浪費するだろう。セブン&アイは独自のグローバル展開計画を持っており、これまでのところ順調に進んでいる」。コーストン氏は、この取引は同企業の強力なオーナー一族によって反対されるだろうという。ブルームバーグの報道によると、伊藤雅俊の子孫は現在も31億ドル相当の8.1%の株式を保有している。「私の考えでは、彼らは価格がどれだけ高騰しても、決して売りたくないだろう」。コーストン氏は、日本の企業社会もこの買収に反対すると予想している。「どの大手企業も、これ以上投機的な海外企業からの買収提案を望んでおらず、この提案を退けることは、すべての企業にとって重要なことだろう」と述べる。さらに、コーストン氏は、日本が「核心的な緊急サービス・プロバイダー」である企業を外国の手に渡すことを望むとは考えていない。同氏によれば、同社は自然災害後に迅速に物資を提供することで、日本の緊急対応サービスの骨組みの一部と見なされているという。同氏は、フランスのコンビニエンスストア運営会社カルフール(Carrefour)に対するクシュタールの200億ドルの入札がフランス政府によって食料安全保障上の懸念から拒否された事例を指摘した。この取引は、米国の規制当局からも注目される可能性がある。しかし、アザブリサーチ(Azabu Research)のマイク・アレン取締役は、セブン&アイの取締役会は過半数が独立役員であるため、「合理的なオファーに抵抗するのは難しいだろう」と述べた。[原文:Amazon’s NBA deal raises the stakes of its media ambitions]Mitchell Parton(翻訳・編集:戸田美子)写真/戸田美子