『裸足で散歩』高田夏帆×戸田恵子インタビュー ニール・サイモンの傑作コメディで「上質な」笑いを届ける
ニール・サイモンの傑作コメディ『裸足で散歩』が2年ぶりに再演される。エレベーターも暖房もないアパートで新婚夫婦が繰り広げる、キュートで心温まるハートフルコメディの本作。前作に続き、新米弁護士のポールを加藤和樹、自由奔放な妻・コリーを高田夏帆、コリーの母を戸田恵子が演じる。今回は、高田と戸田に前作を振り返ってもらうとともに、再演への意気込みを聞いた。
ーー前作は高田さんにとっては初舞台でしたが、改めて振り返ってみて、今、どのように感じていますか?
高田:挑戦の連続でした。正直、走り切れないと思いました。本当に大変で、いくつもの壁にぶち当たって、一人で泣きながら戦っていました(笑)。
ーーそれだけ大きな壁を乗り越え、千穐楽を迎えたときには、手応えも感じたのではないですか?
高田:そうですね。「この作品を乗り越えたら、私は何でもできる」と思うくらいの達成感がありました。なので、再演が決まってすごくうれしかったです。あのときのコリーを評価してもらえたのだと思いました。同時に、成長や進化を見せないといけないと思ったので、今からプレッシャーを感じています。
高田夏帆
ーー戸田さんは、再演が決まり、いかがですか?
戸田:前回公演は、とても皆さんに喜んでいただけたのかなと思います。
ーー前回の公演はコロナ禍で、お稽古も大変だったのでは?
戸田:そう言われて、みんなマスクをしてやっていたなと思い出したくらい、遠い記憶ではありますが(笑)。ですが、コメディ作品なので、苦労はあっても楽しく稽古できたと思います。主演のお二人は大変なお芝居で大変だったのかなと思いますが、私たちはフラフラしている感じなので(笑)、楽しくやれていました。個人的にも、この作品には思い入れがあるので、こうしてまた出演できることはとても嬉しく思っています。
ーー戸田さんは、約40年前にコリー役を演じた経験がありますが、改めて今、当時をどのように思い出していますか?
戸田:当時、私はミュージカルを中心に上演している劇団にいたので、『裸足の散歩』は私にとって初めての外部公演でした。この作品はストレートプレイなので、私にそれほど芝居力はあるんだろうかと呼ばれたことを不思議に思いながら臨み、あまりのセリフ量に辟易した記憶があります(苦笑)。演出もキャストの皆さんも芝居畑の方ばかりで、ストレートプレイは二度とやりたくないと思うくらい、大変だった思い出です。もちろん、作品は素晴らしいと思っていましたし、自分がもっとうまくやれたら楽しかったんだろうと思いますが、当時の私が演じるには大きい作品だなと感じていました。そうした思いのあった作品ですが、前回、お母さん役でお話をいただき、私ももうお母さん役をやるようになったのだと嬉しい気持ちになってお引き受けしました。同じ作品で母娘のどちらも演じられるというのは、演劇を長くやっている者に与えられるギフトだと思います。なので、2年前にお引き受けするときは、こんなことがあるんだととても楽しい気持ちでした。
(左から)戸田恵子、高田夏帆
ーー今回も2年前の楽しい気持ちのまま臨まれる?
戸田:そうですね。私自身はどちらかというと新しいものを常にやっていたいタイプなので、再演はそれほど好きではないのですが、こうした巡り合わせで再び出演できるのはとてもありがたいです。再演の醍醐味を感じながら挑めたらと思います。
ーー高田さんは前回公演のお稽古でどんなことが印象的でしたか?
高田:コロナ禍ということもあり、稽古中はマスクをしていて、本番で初めてマスクを取って演じたので「こんな顔で話していたんだ」という驚きがありました。すでにいっぱいいっぱいなのに、マスクを取ったことで新しい情報が入ってきて、「もうこれ以上新しいことは入ってこないで!」って(笑)。
ーー今回は、前回のご経験もあるので、よりお芝居に集中できそうですね。
高田:そうですね……。……どうしよう、今、全ての言葉にプレッシャーを感じています(笑)。もちろん、前回公演を超えたいです。この2年間、戸田さんや加藤さんの出演されている他の作品も観させていただいて、勉強してきたので、何か活かせたらと思っています。
ーーお二人は母娘役を演じますが、初演の時のお互いの印象はいかがでしたか?
高田:最初に台本を読んだとき、これを戸田さんが演じられたと聞いて、すごすぎると思いました。セリフ量ももちろんですが、あっちにいってこっちにいってかき回すという役なのでとにかくエネルギーを使う役です。前回のお稽古は、コロナ禍ということもあって、あまりお話をさせていただく機会がなかったのですが、更衣室でお会いしたときに「朝ドラ観ているんだけど、出ていたよね」というお言葉をいただいたことを覚えています。
戸田:時期が時期だったから、あまり話せなかったんですよ。でも、初舞台でこの作品に出演するのは、すごく大きなチャレンジだと思います。(高田は)雑談をする余裕もなかったと思いますし、毎日が戦いだったと思います。それほど大変な役に向き合っているということをみんな分かっていました。体調や喉の使い方も含めて、初めての経験だらけの中、この芝居をやるのは本当にタフなこと。それを乗り越えて、舞台の幕が開いて、千穐楽まで頑張れたのはきっと大きな力になっていると思います。舞台は、毎回、お芝居をするごとにさまざまな発見があるものです。メンタルもフィジカル面も全てがタフでないとこの役を乗り切れないんですよ。それを1回、やり遂げているので、今回はさまざまな目標が出てくると思いますし、より楽しみな作品になるのではないかなと思います。
(左から)戸田恵子、高田夏帆
ーー今回の再演に当たっては、新たにどんなチャレンジをしたいですか?
高田:2年前は自分のことしか考えられなかったので、もう少し視野を広げて、(相手のお芝居を)受け取って演じていきたいと思っています。戸田さんの娘役なので、もっともっと頑張って、コメディエンヌ要素も足していきたいなと思います。
戸田:私はこの物語の時代感がもう少し出ればと思っています。今、私たちは携帯があるから、何らかの連絡はできますし、階段の下から人を呼ぶ方法ももっとありますよね。でも、物語はそうした文明の利器がさほどない、古き時代のニューヨークが舞台です。その時代の匂いがもう少し出せたらいいなと思います。難しいかもしれませんが、トライですね。今だったら解消できることもあるけれど、この時代だからこそ、そこで七転八倒している人たちのドタバタを上質な笑いで出せたらいいなと思っています。
ーー高田さんは携帯がない時代を経験していないですよね?
高田:私は、1996年生まれなので、すでに携帯電話はありましたね。
戸田:あはは、そうだよね(笑)。
ーーお客さんにもそういう方たちがたくさんいらっしゃるかもしれませんね。
戸田:これは何年の話ですと、明確に伝えてしまえば早い話ですが、そうではなく、芝居の中で感じてもらえたらいいなと思います。もちろん、セットや衣裳でも感じられることも多いと思います。
戸田恵子
ーーでは、お二人から見た、ポールとコリーという夫婦はどのように映っていますか?
高田:よく結婚できたなと思います(笑)。たくさんケンカしていますよね。「バカにならないと結婚なんてできない」と聞いたことがありますが、それなのかもと思いました(笑)。でも、憎めない二人でもあります。かわいいです。
ーー戸田さんから見たポール&コリー夫婦はいかがですか?
戸田:「若い二人」。二人はケンカばかりしていますが、でも、その仕方がとても海外的だなと、最初に演じたときに感じました。日本人のケンカはこんな感じじゃない。もっとじっとりしているんじゃないかな。なので、当時、私はコリーのタフさを出すのに苦労したところがありました。私にはそうしたエネルギーが宿っていなかったので。再演になって、改めてこの作品を観たとき、やっぱり日本人とは違うバトルだけれども、ただ、同じ道を通ってはいる。それは、母と娘の関係もそうです。なので、それをどう形容するか。形容の仕方によるんだと思います。ケンカのシーンはやっぱりタフですし、あれを演じ切るには、とにかくパワーがいる。そうしたところも見どころだと、2年前に上演したときにも思いました。
ーー今回は、北海道から九州まで全国各地で公演を行います。全国ツアーに向けて、改めて意気込みをお願いします。
高田:公演があってお休みがあってというスケジュールが多いので、毎公演、しっかりリセットして、喉も休めて万全な状態で届けられます。1公演1公演パワーアップしていきたいなと思っていますし、初演のときよりも面白かったなと思っていただけるように頑張っていきますので、ぜひ劇場に足を運んでください。
戸田:年齢も年齢なので、まずは体調管理だと思っています。なかなか行けない地方の隅々までお伺いしますので、良い芝居だったと思っていただけるように、そしてまた次の観劇につながるように、舞台を好きになっていただけるお芝居をお届けできたらと思っております。
(左から)戸田恵子、高田夏帆
■戸田恵子
ヘアメイク:相場広美(マービィ)
スタイリスト:江島モモ
■高田夏帆
ヘアメイク:河井清子
スタイリスト:前 璃子(JOE TOKYO)
■衣装クレジット
タンクトップ/AOIWANAKA 03-6876-6855
ジャケット・ワンピース/Knuth Marf knuthmarf@intokyo.co.jp
その他スタイリスト私物
取材・文=嶋田真己 撮影=荒川 潤