〜 「在宅勤務」に関するアンケート調査 〜

 コロナ禍で広がった在宅勤務は、新型コロナの沈静化を境に企業規模で対応が二極化していることがわかった。新型コロナ感染者が増加に転じた7月以降、在宅勤務を認める企業は大企業が約4割(36.5%)に対し、中小企業は約2割(19.5%)にとどまる。大企業は在宅勤務が定着し、中小企業は出社が前提に戻っているようだ。
 また、今回の感染者増に対し、原則出社から在宅勤務を許可した企業は、全体の0.9%と1%に満たなかった。コロナ禍を経て勤務体制は揺り戻しが進んでいる。労務管理の人的リソースやコスト圧力に耐性が乏しい中小企業は、在宅勤務への切り替えが困難な実態がうかがえる。
 東京商工リサーチ(TSR)は8月1日〜13日、企業を対象に「在宅勤務」についてアンケート調査を実施した。在宅勤務に積極的な業種は、ポータルサイト・サーバ運営などの「インターネット附随サービス業」、ソフト開発などの「情報サービス業」など、在宅勤務と親和性の高いIT業界が上位に並んだ。
 一方、出社前提は、タクシー業などの「道路旅客運送業」、「学校教育」など、現場での業務遂行を求められる業種や消費者と対面する業種が目立った。
 在宅勤務は、業種により浸透度合いに格差が大きい。社内でも部署により実施状況に差があり、社内の情報共有やコミュニケーションが希薄になることも危惧される。企業や業種により在宅勤務のとらえ方は千差万別で、業務のあり方の見直しを迫られる契機になる可能性もある。

※本調査は、2024年8月1日〜13日、企業を対象にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答7,193社を集計、分析した。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。 

Q1.今年7月より新型コロナウイルスの感染者が増加傾向にあり「第11波」に入ったとの声があります。貴社では今回の感染拡大を受け、勤務体制を見直しましたか?(択一回答)

 今年7月以降、全体で「これまでと変わらず在宅勤務も許可している」は20.5%(7,193社中1,481社)だった。一方、感染増を受け「出社を前提としていたが、今年7月以降は在宅勤務も許可している」と回答した企業は0.9%(71社)と1%に満たず、新たに在宅勤務を採り入れた企業は限定されている。全体では、「在宅勤務」を認めた企業は21.5%(1,552社)と、5社に1社だった。

 また、「これまでと変わらず出社を前提としている」は69.1%(4,977社)、「在宅勤務を許可していたが、今年7月以降は出社前提に切り替えた」は0.7%(57社)で、全体では「出社前提」の企業は約7割(69.9%、5,034社)を占めた。
 なお、「出社・在宅勤務は個人または部署の裁量に委ねている」は8.4%(607社)だった。
 規模別では、「在宅勤務」は大企業が36.5%(840社中、307社)、中小企業が19.5%(6,353社中、1,245社)で、大企業が17.0ポイント上回った。
 中小企業が在宅勤務を推進するには、業務の達成度や労務面など人的管理の負荷が大きいほか、パソコンやVPN、システムなどの設備負担も重く、大企業ほどコストと労力をかけられない現実がある。だが、在宅勤務は採用面で強力なパワーワードになっている。出社と在宅を組み合わせたハイブリッドな就業形態など、人材確保に苦慮する中小企業は今、逆転の発想が必要かもしれない。

業種別最多は、「在宅許可」インターネット附随サービス業、「出社前提」道路旅客運送業

 Q1で「在宅許可」と回答した企業の業種別(母数10社以上)は、最多がポータルサイト・サーバ運営業などを含む「インターネット附随サービス業」の71.4%(14社中、10社)だった。 
 次いで、受託開発ソフトウェア業などを含む「情報サービス業」が64.9%(368社中、239社)、経営コンサルタントなどを含む「専門サービス業」が55.4%(256社中、142社)で続く。
 「出社前提」の業種(母数10社以上)は、最多がバス業やタクシー業などの「道路旅客運送業」の95.0%(20社中、19社)だった。次いで、学校や保育園などを含む「学校教育」が91.3%(46社中、42社)、美容・理容業、クリーニング業などの「洗濯・理容・美容・浴場業」が90.9%(22社中、20社)と続く。
 インターネット関連や情報サービス業など、いわゆるIT業はもともと社内システムや社員同士のコミュニケーションで用いられるチャットツールなどの導入が進み、在宅勤務との親和性が高い業種だった。コロナ禍でも業務遂行に大きな障害はなかったとみられる。
 一方で、「出社前提」なのは、消費者と直接対面するBtoC業種が多く、利用客や消費者へのサービス提供のビジネスモデルは出社による業務遂行が避けられないことを示している。

Q2.Q1で「これまでと変わらず出社を前提としている」と回答した企業で、選択した理由は何ですか?(複数回答)

 選択理由の最多は、「業務の特性上、在宅勤務がなじまない」で76.1%(4,893社中、3,726社)だった。次いで、「新型コロナの感染症法上の分類が5類であるため」が25.8%(1,263社)、「人員の関係上、在宅勤務にすると業務に支障を来たす」が19.4%(953社)、「在宅勤務はコミュニケーション不足が生じるため」が9.6%(473社)、「在宅勤務を中心にすると従業員間で不公平が生じるため」が7.6%(373社)と続く。
 「その他」の回答では、「情報セキュリティ上の問題」(配電盤・電力制御装置製造業、資本金1億円未満)や「出社の方が社員のパフォーマンスが高い」(無店舗小売業、資本金1億円未満)、「社風、経営者判断」(鉄鋼製品卸売業、資本金1億円未満)などがあった。


 これまで新型コロナ感染者数の動向に応じ、勤務体制は出社前提から在宅勤務の定着と変化してきた。だが、4年に及ぶコロナ禍を経て「働き方」が見直され、感染者数に関係なく大企業では在宅勤務が定着する一方で、中小企業は出社に戻している。
 新型コロナウイルスの急激な感染拡大で、企業は規模、業種を問わず休業や在宅勤務など、未経験の対応を迫られた。だが、コロナ禍が落ち着くと規模や業種、人員状況、生産性などで、企業によって考え方は千差万別になっている。個別企業の対応に限度はあるが、経済活動が平時に戻ると押し寄せた採用難では、在宅勤務や労働環境の差が大きなポイントになっている。
 在宅勤務の導入はメリット・デメリットの両面があり、単純な導入は経営効率に影響を及ぼしかねない。企業が自社の置かれた環境を見直しながら、決定することが求められる。