日本で展開しない新ブランドを続々投入するホンダだが…

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ホンダが中国で展開するBEVブランド「烨(イエ)」のプロトタイプ(筆者撮影)

ホンダの2024年4〜6月期連結決算発表会が8月7日に行われ、前年同期比22.9%増となる4847億円の営業利益を計上し、四半期として過去最高を記録したと発表した。その要因については、北米や日本でハイブリッド車(HEV)の販売好調だとする。

一方、4輪の世界販売計画は、従来の412万台から390万台に下方修正。その下振れ分は、すべて中国事業が足を引っ張る形であった。

一時はトヨタに肉薄する勢いもあったが…

ホンダの中国での年間生産能力は149万台であったが、今年7月に29万台分を減少すると発表し、さらに2024年度に30万台を減らす方針を示した。

既存のエンジン車の生産能力を適正化する一方で、武漢・広州で2つの新工場が稼働する予定だ。どちらも電気自動車(BEV)の工場で、生産能力24万台だという。

同社の藤村英司執行役常務CFO(最高財務責任者)は、「電動化シフトによるエンジン車需要が減少し、値引き競争で車両価格も下落した」と中国の市場環境を分析し、BEVの投入や生産能力の削減で中国事業をテコ入れする方針を示す。

ホンダの中国事業は1990年代、2輪車の合弁事業から始まった。1998年には、広州汽車との合弁で広州ホンダを設立し、2003年に東風汽車と合弁で東風ホンダを設立し、現在に至っている。


中国での主力モデルのひとつ、CR-V(筆者撮影)

主力はセダンの「アコード」とSUVの「CR-V」だが、中国の合弁会社2社から新車をそれぞれ投入する兄弟車戦略も実施しており、着実に製品競争力を高めている。ハイブリッド車(HEV)の投入もあり、2020年には163万台を記録し、日本勢でトップのトヨタとの差を17万台まで縮めた。

しかし、現在のところ2020年が販売のピークとなり低迷が続いている。

2024年1〜7月の中国販売台数は、前年同期比24.4%減の46.8万台。7月の単月でも同41.4%減の5.2万台となり、トヨタの中国販売台数の3分の1程度にとどまる状況だ。

こうした販売低迷により、ホンダは通年の販売台数の見通しを従来の106万台から84万台に下方修正した。わずか4年間で半減であるから穏やかではない。

いま、ホンダの中国事業で何か起きているのか。ここでは、3つの要因をあげる。

「売れる車種」が少ない

まず1つ目の要因は、「エンジン車の残存者利益」を獲得しがたいことだ。

ホンダの主力車種(エンジン車)は、日系・ドイツ系の競合車種に対し、差別化が難しくなっている。中国に投入する車種数を見ると、ホンダが24車種、トヨタが19車種、フォルクスワーゲンが27車種で、3社ともフルラインナップ戦略を取っている。


トヨタの主力車種のひとつ、ハイランダー(写真:广汽トヨタ)

一方、7月に出荷台数1万台超の車種は、トヨタとフォルクスワーゲンがそれぞれ4車種、6車種であるのに対し、ホンダは1車種のみ。特にロングセラーであるCR-Vの販売台数が1万台割れとなったことから、ホンダの競争力が低下していると見受けられる。

出荷台数に占めるトップ2車種の割合を見ると、ホンダ38%、トヨタ28%、フォルクスワーゲン27%と、ホンダは割合が高い。

つまり、ホンダアコードCR-Vの2車種に依存しており、ほかの車種の競争力が低いということだ。さらにディーラーの値引き競争を受け、ホンダの兄弟車でカニバリゼーションを起こしている。2024年1〜7月の販売台数をみてみよう。


CR-V(東風ホンダ)は「ブリーズ」(広汽ホンダ)の約2倍、アコード(広汽ホンダ)は「インスパイア」(東風ホンダ)の約3倍となっている。

地域ごとの消費者ニーズに対応するマーケット戦略の効果は薄くなっており、コストパフォーマンスの高い車種しか売れない状況だ。

2つ目の要因は、HEVの低迷だ。ホンダは2016年に独自の高効率ハイブリッドシステム「SPORT HYBRID i-MMD」を搭載したアコードを投入し、HEVを強化し始めた。2021年には、23.4万台のHEV販売台数を記録し、市場シェアは32%に。

しかし、2023年から、中国市場で熾烈な価格競争が繰り広げられるようになると、トヨタが多くのHEVを値下げし、市場シェアを維持。また、フォード吉利汽車、東風汽車、広州汽車も相次いでHEVを投入し、競争力を高めている。


第9世代となったトヨタ・カムリのハイブリッド(筆者撮影)

2024年7月の中国HEV市場のシェアを見ると、トヨタが77%であるのに対し、ホンダはわずか8%となっている。

HEVはエンジン車と比較して、低CO2排出や低燃費を実現するものの、熱効率を大幅に改善し、長距離走行を可能とした中国勢PHEV(プラグインハイブリッド)の増加により、そのパワートレーンの優位性をアピールするのが難しくなっている。

特にBYDが今年7月に発売した2025年型「宋PLUS DM-i」PHEV」の価格は13.58万元で、CR-V HEVより25%安い。BYD のPHEVを契機とした価格破壊と値下げ競争の激化は、外資系車種の競争力を脅かしており、特にホンダの主力車種に大きな影響を与えている。

BEVの新ブランドを続々と投入

3つ目は、BEV販売の不調だ。ホンダは、2018年に中国専用BEV「理念VE-1」(広汽ホンダの自主ブランド)を投入し、外資系メーカーの中で早い時期に電動化シフトを開始した。

2019年には、「X-NV」(東風ホンダの自主ブランド)も投入した。これは「ヴェゼル」をベースとしたBEVだが、ブランドの認知度が広がらず、価格高もあって販売増につながらなかった。


新ブランド、「烨(イエ)」のEV、P7(筆者撮影)

かかるなか、ホンダは2022年に同社初のBEVブランド「e:N」を立ち上げ、専用工場の新設と、2030年以降に発売する新車をすべて電動車両にするという大胆なBEV戦略を発表した。

しかし、e:Nシリーズの販売台数は、2024年1〜6月で8000台弱となり、ホンダの中国販売に占める割合は2%にとどまる。価格競争力が弱く、SDV(ソフト定義クルマ)化を含む走行性能や乗車体験でも、テスラや中国勢に太刀打ちできないことが、ホンダの電動車の課題だ。

ホンダは、こうした課題を意識し、エンジン車の生産能力を減らす一方、1700人規模の希望退職者の募集を実施して、コスト削減を図っている。


東風汽車と共同開発したBEV、霊悉(リンシー)のプロトタイプモデル(筆者撮影)

また、パートナーの東風汽車の協力を受け、現地採用のエンジニアによるBEV新ブランド「霊悉(リンシー)」を立ち上げ、「e:NS1」などの電動車をヨーロッパへ輸出する取り組みを始めた。

2025年に投入するBEVの新ブランド「烨(イエ)シリーズ」には、ファーウェイの車載ディスプレーや科大訊飛(iFLYTEK)の音声認識技術を採用する予定だ。

いまホンダに「足りないもの」は何か?

こうした生産能力の適正化、固定費の削減、新型BEVモデルの投入を通じて、ホンダは厳しい中国事業を打開しようとしている。

マルチパスウェイ戦略をとるトヨタに対し、急進的な電動化計画を推進するホンダは、機能・乗車体験・コスパを含むBEVの競争力を構築し、ホンダにしか作れないBEVブランドの価値を構築する必要がある。

車種を増やすだけでなく、車両の設計・生産・販売からアフターサービスまでの大転換を含む、電動化戦略の方向性の見極めが求められるだろう。


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今後ホンダは、日産と共同でSDV技術の開発に取り組み、BEVで巻き返しを図る一方、中国事業の基盤となるエンジン車の販売減を食い止め、既存のエンジン車のファンをキープすることに注力ことも必須だ。

中国新車市場でPHEVの好調やBEV減速の気配が漂う中、ホンダの中国事業の立て直しの行方はますます注目される。

(湯 進 : みずほ銀行ビジネスソリューション部 上席主任研究員、中央大学兼任教員、上海工程技術大学客員教授)