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再婚するにあたって、新しい家族と人生の再スタートを切りたい。そんな気持ちからか、戸籍もスッキリさせたいという人もが少なくないようです。

離婚して、子ども2人は元妻と暮らしているという男性から、弁護士ドットコムに相談が寄せられました。男性によると、再婚するので自分の戸籍に入っている子ども2人の戸籍を、元妻の戸籍に移したいとのことです。また、子ども2人は男性の名字を名乗っていますが、元妻の名字に変更してもらいたいと考えています。

男性は、これらの手続きを元妻や子どもに会わずにおこないたいと希望しています。

その理由として、男性は「結婚していたことを再婚する新たな妻に知られたくない」「再婚したことを元妻や子どもに知られたくない」と考えているそうです。また、子どもが戸籍に入っていることで、「今後の自分の人生に害はありますか?」と気になっている様子でした。子どもとは絶縁して、自分の遺産などは渡したくないといいます。

なんとも身勝手な男性の「希望」ですが、どこまで実現可能なのでしょうか。鈴木菜々子弁護士に聞きました。

●子どもの戸籍を勝手に移すことは難しい

--男性のお子さん2人は15歳以上だそうです。この場合、戸籍の移動は、父親が勝手におこなえるのでしょうか。

前提として、婚姻時に男性自身が戸籍の筆頭者になっていた場合、離婚しても元妻が戸籍から抜けるだけで、お子さんはそのまま戸籍に残ります。親権者が父母のいずれであっても同様です。

お子さんが元妻の戸籍に移るには、家庭裁判所で「子の氏の変更許可」の手続きをとった後、元妻の戸籍に入籍させる必要があります。「子の氏の変更許可」の手続きは、子どもが15歳未満の場合は親権者が法定代理人として申立人となり、15歳以上の場合は子ども本人の申し立てが必要になります。

ご状況からすると親権自体は元妻にあるということでしょうから、いずれにしてもこの男性が勝手にお子さんを元妻の戸籍に移すことはできないと思われます。

●再婚相手に既婚歴を隠すことは困難

--男性は過去に結婚していたことを新たな妻に知られたくないと考えているとのことですが、実際のところ可能なのでしょうか。

結論として、完全に隠すことは難しいと思われます。

再婚時、再婚相手が男性の戸籍に入籍する形をとる場合、その戸籍には過去の婚姻歴と前婚の際のお子さんが記載されていますので、再婚相手に過去の婚姻歴を知られてしまう可能性が高いでしょう。

男性が再婚する前に転籍(本籍地を移転すること)すれば、過去の婚姻歴は新しい戸籍には載りません。ただ、転籍は戸籍に記載されている人全員の本籍地が変更になりますので、男性とお子さんが同じ戸籍に入っていることに変わりはなくあまり意味がありません。

一方、男性が再婚相手を筆頭者とする戸籍に入る場合(再婚相手の氏を名乗る場合)は、男性の過去の婚姻歴は新しい戸籍には載りません。また、お子さんは再婚相手の戸籍に移らず、男性の元の戸籍に残ることになります。

そのため、この方法をとれば、再婚後の戸籍の記載から直接過去の婚姻歴を知られる可能性は低くなります。ただ、再婚後の戸籍には、男性の元の戸籍の本籍地が記載されます。戸籍法上、再婚相手は男性の配偶者の立場で男性の過去の戸籍謄本等を取得することができます。再婚相手が男性に婚姻歴があるのではないかと怪しめば、戸籍を辿って調べることができます。

--男性は、再婚したことを元妻と子どもに知られたくないとも考えているそうですが、こちらはどうでしょうか。

結論として、この場合も隠すことは難しいと思われます。

戸籍法上、男性のお子さんは、親である男性の戸籍謄本等を取得することができます。お子さんが未成年者の間は、元妻がお子さんの法定代理人として男性の戸籍謄本を取得することも考えられます。養育費の請求等、何かしらの理由で男性の戸籍謄本を取得する必要が出てくる可能性は十分にありますので、こちらも隠すことは難しいと言えるでしょう。

●子どもに遺産を相続させない確実な方法はない

--また、男性は元妻との間の子どもたちに、自分の遺産を相続させたくないと考えていますが、可能なのでしょうか。

1つ目として、遺言を作成する方法が考えられます。自身の財産について、再婚相手や、再婚後に子どもが生まれた場合は、その子どもに相続させる内容の遺言を作成しておきます。

もっとも、このような遺言を作成した場合でも、元妻との間の子どもたちには遺留分(法律上認められる最低限の相続分)があります。そのため、元妻との間の子どもたちが遺言の存在を知れば、再婚相手や再婚後の子どもに侵害された遺留分に相当する金銭の請求(「遺留分侵害額請求」といいます)をする可能性があります。

2つ目として、財産を再婚相手や再婚後の子どもに生前贈与し、遺産自体を残さないという方法も考えられます。しかし、この場合でも遺留分が問題になる可能性があります。

法定相続人への生前贈与が扶養義務の範囲を超えるような特別な贈与(いわゆる「特別受益」)と評価されてしまう場合には、相続開始前の10年間にしたものについては、遺留分侵害額請求の対象になります。

また、もし再婚相手や再婚後の子どもが男性の前婚の子の存在を知り、かつ当該贈与が前婚の子どもの遺留分を侵害することを知っていた場合は、10年の期間制限はなく全ての生前贈与が遺留分侵害額請求の対象になってしまいます。

3つめとして、財産を生命保険の掛け金に充て、死亡保険金の受取人を再婚相手や再婚後の子どもにしておく方法も考えられます。この場合、保険金は相続財産には当たりませんので、原則遺留分侵害額請求の対象にはなりません。しかし、特定の相続人のみが保険金を受け取ることにより、相続人間に著しい不公平が生じている場合は、遺留分侵害額請求の対象になる場合もあります。この男性のケースですと、著しい不公平が生じていると評価される可能性が高いでしょう。

したがって、元妻との間の子どもたちに、遺産を相続させない確実な方法はないと思われます。

【取材協力弁護士】
鈴木 菜々子(すずき・ななこ)弁護士
弁護士登録以降、離婚・相続を主とした家事事件に注力。千葉市の弁護士法人とびら法律事務所は、離婚事件については累計5000件以上の相談実績を誇る。法的知識だけではないノウハウの蓄積に基づき、真の問題可決を目指している。また、なるべく裁判所を使わずに迅速に案件を解決することに力を入れている。
事務所名:弁護士法人とびら法律事務所
事務所URL:https://www.tobira-rikon.com